大晦日の夜
大晦日、彩と愛梨がうちに泊まりに来てくれていた。
「もう今年終わっちゃうんだねー」
「早かったねー」
彩と愛梨がソファーに座ってテレビを見ながらしみじみと言う。
「来年は受験か…勉強とかやだよぉ」
「私も…でも大学は行きたいからなぁ」
「茗子は?行きたいところとかあるの?」
キッチンでお茶の用意をしている私に、振り返って彩が言う。
「うーん…家から通えるところかな…」
私が答えると、
「じゃあA女子大学とか?B大学とか?」
愛梨が地元にある大学を挙げる。
「まだ、決めてないけどね」
私が付け加えると、
「茗子なら、東大とか京大とかも行けるんじゃない?地元の大学なんて、勿体ないよー」
愛梨が言う。
「航は、東京の大学希望らしいよ。スポーツ推薦らしい」
愛梨が突然、航くんの話をする。
「へぇ…」
と、お茶を運びながら私が反応すると、なにやら不満げな顔をした。
その時、メールの着信音が鳴る。
『明日、初詣行かない?』
航くんからだった。
――――クリスマスパーティー以来会っていなかったからか、
突然の誘いにドキッとした。
――――あの日の夜、私のベッドで一緒に寝てしまった。
でも、キスをするでもなく、ただ…優しく抱き締めてくれて…。
航くんの体温が心地よくなって…気づいたら眠りについていた。
―――翌朝、起きたときも、みんなと帰っていくときも、
私からも、航くんからも…その事には触れなかった。
航くんは、
今は私のことを友達だと思って優しくしてくれるのか、
どうなのか…。
私は、
航くんのことを、今も友達として信頼して…仲良くしたいと思っているのか、どうなのか…。
自分と、
航くんが抱いている気持ちの答え合わせをするのが、
なんだか怖くて…私は、何も言えずに…何もなかったかのように…あの日玄関先で皆を見送った。
「そういえば、明後日、サッカー部全国大会でしょ?」
彩が愛梨に言う。
「そうなの、今年は咲くんもいて、かなり調子いいんだわ」
愛梨が嬉しそうに言う。
「二人も、暇なら応援に来てよ!会場もちょうど地元だしさ」
「行きたい!ねぇ、茗子も行こうよ」
「うん」
―――甚も航くんも、サクちゃんも出るし…行ってみたいかも…。
「わぁ、楽しみ―」
彩が目を輝かせて言う。
「今日、甚も菜奈も来れないって言われたけど、今頃一緒に過ごしてるのかな?」
愛梨がふと、そんなことを言う。
「そうじゃない?お邪魔しちゃ悪いと思って誘わなかったけど」
彩がおせんべいを食べながら言う。
「航、呼び出してみる?」
愛梨が急にそんなことを言うから、
私は、飲んでいたお茶を噴き出してしまった。
「ちょっと茗子、汚ないー」
笑いながら彩と愛梨が言う。
「ごめん…っ」
咳をしながら、謝って、台布巾で拭く。
「航、今頃暇してんじゃない?ー――ねぇ茗子、呼んじゃダメ?」
「ダメ…でしょ。てか、航くんが困るでしょ…男独りで」
私が困惑しながら言うと、
「“男”って言うより、うちらの間では友達だからいいじゃん」
愛梨が言う。
『もしもし?』
彩は、すでに航くんに電話をかけていたらしく、
スピーカーにしていて、航くんの声が聞こえてきた。
「航、今どこ?」
彩がニヤニヤしながら聞く。
『え、うちにいるけど?』
航くんが普通に答える。
「今から一緒にカウントダウンやろうよ」
愛梨が彩の持つ携帯電話に口を近づけて言う。
『愛梨?なに、お前ら今一緒にいるの?』
航くんが驚いたように尋ねる。
「居るよー、茗子のおうちにお泊まり!」
「ねぇ、航も来なよー」
彩と愛梨が言う。
『え…』
航くんが黙る。
『行っても良いの?』
暫くして航くんが確認するように聞く。
――――え、本当に?今から?
私の心臓が、バクバク言い出した。
「良いにきまってんじゃーん」
「待ってるからー」
彩と愛梨が言ったあと、携帯電話を私に渡してきた。
「ほら、茗子も…」
小声で彩が急かす。
「良かったら、どうぞ…」
私は、なぜかそんなぎこちない言葉を口にしていた。
『あ、じゃあ…また後で』
航くんが驚いように言うと、電話が切れた。
「あー、楽しくなってきたね、カウントダウン!」
彩と愛梨が満足そうに顔を見合わせる。
―――なんで、こうなったのかな…。
私は、困惑したまま、彩の携帯電話を見つめていた。