パーティーの始まりは~航目線~
「今日、茗子の家でクリスマスパーティーだから」
愛梨が、部活終わりに突然告げる。
「なんだよ、それ」
―――反則だろ、そんな嬉しすぎるイベント。
「あれ、航来ないの?じゃあまぁ良いけどさ」
「いや、行かないなんて言ってねーだろ」
愛梨の言葉に、つい焦って言ってしまう。
言ってから…いつもの“イジられ”だと気づく。
「航先輩、私とクリスマス…」
杏奈が話に割り込んでくる。
「杏奈…もう諦めなって」
菜奈が横からなだめるように言う。
「もうさ、杏奈は次の恋探しな?ねっ?」
「嫌です…だって私はまだ航先輩が好きなんです…」
「ごめんな…」
それだけ言って、俺はみんなと歩き出す。
杏奈が一人で泣いているのを、置いて…。
「このあと、すぐ支度して、茗子の家集合ねー。お菓子とか飲み物テキトーに持っていくこと!」
愛梨が言う。
「あとは、パジャマねー」
菜奈が持ち物を付け足す。
「は?パジャマ?」
甚が驚いて菜奈に聞き返す。
「今日は、皆で茗子の家お泊まり!!」
菜奈が楽しそうに言って、解散した。
――――いやいやいや、ダメだろ!!好きな女の子の家に泊まりは…。
暫く思考停止していた俺は、みんなが居なくなってから心の中でつっこむ。
とりあえず、支度してすぐって言ってたから…。
飲み物とお菓子も買って、いそいそと茗子ちゃんの家に向かう。
家の近くに来て、春先輩が茗子ちゃんの家の前で立ち尽くしているのに気づく。
――――気まずい…。
なんでか分からないが、
自分が茗子ちゃんの“浮気相手”みたいな感覚に陥り、
買い物袋を後ろ手に隠す。
「あ、仲西くん…もしかしてクリスマスパーティー?」
春先輩が俺に気づいて、言う。
笑顔だけど、目が笑っていない。
「あ、まぁ…」
俺が言うと、
「茗子、母親が今日からアメリカで暫く一人だから、友達とクリスマスパーティーするって聞いて、安心したよ」
春先輩が言う。
――――本心じゃねーだろ、それ。
でも…暫く一人って…危なくないか?
「春先輩…茗子ちゃんがストーカーっぽいのに狙われてるの知ってます?」
「えっ!?」
春先輩が心底驚いた。
「学校の…誰かは分からないんですけど、服とか無くなったり、盗撮されて…茗子ちゃん、一人だと危ないかもしれないんで気にしててあげてください」
―――本当は、俺が側にいて、守りたいけど…。
でも…現実的には無理で…。
すっげぇ悔しいけど、
隣に住んでる春先輩に頼るしかない。
「分かった」
春先輩が真剣な目をして俺に言う。
「じゃあ…」
それだけ言うと、家の呼び鈴を押す。
―――――あれ?出ないな…。
暫く待ってからもう一度、押してみる。
―――まだ、帰ってきてない、とか?
俺が引き返そうとしたとき、ドアが開く音がした。
「航くん…」
つぶらな瞳をまん丸くして、茗子ちゃんが俺の名前を口にする。
ドキンッと胸が高鳴る。
あれ…髪濡れてる…もしかしてシャワーを…ー―――。
「ごめん、もしかして早すぎた?」
「うん、夕方からだよね?」
俺が慌てて聞くと、茗子ちゃんも慌てた様子で言う。
――――えっ!?
「支度してすぐって言われたから――――」
言いながら、嵌められたのだと気づいて黙る。
――――あいつら…。時間早く教えやがったな…。
「寒いし、入って?―――私まだ準備したいけど」
「あ、うんごめんな…」
とりあえずリビングに通される。
茗子ちゃんの濡れた髪が、めちゃめちゃ色っぽい。
スッピンも、可愛い…。
って、何考えてんだ、俺はー―ー―。
「テレビでも見ててくれる?私部屋に戻って支度してくるから」
「あ、うん」
ソファーに座っていた俺にテレビのリモコンを渡そうとして、
かがんだ茗子ちゃんが、
赤いワンピースから谷間をチラリと覗かせた。
思わず顔を背けると、
カチャンと音をたててリモコンが落ちる。
「?航くん?」
可愛い声で、茗子ちゃんが聞く。
「ごめん、大丈夫」
慌ててリモコンを拾う。
――――大丈夫なわけねぇ!!
やばいって!早く、目の前から居なくなってくれ…。
押し倒したい衝動を懸命に堪えながら、
俺はリモコンをテキトーに押しまくる。
でも、なかなかテレビがつかない。
「航くん、それ…リモコン逆になってるよ?」
「あっ、本当だ」
あはははと笑いながら、リモコンの向きを正しく持ち直す。
茗子ちゃんは、笑いながら二階へと上がっていった。
――――みんな、まだかよ…。いつ来るんだよ…。