口実
「じゃあ茗子、行ってくるわね」
「うん、お父さんによろしく」
クリスマスイブの朝、嬉しそうにお母さんはタクシーに乗り込むと、行ってしまった。
みんなが来るのは、
各々部活が終わってからの、夕方からだから…。
私はとりあえず、部活に向かおうと家を出る。
「茗子、おはよ」
同じタイミングで、ハルくんが家から出てきた。
――――会いたくなかった。
ドキドキしてしまう心臓を押さえる。
「おはよう」
「久しぶりだね、あ、そうだ!おばさん今日からアメリカだよな?母さんが今日から夕御飯はうちで食べるように言ってたけど?」
「ありがとう…でも今日はうちに友達来るから夕御飯は大丈夫って伝えて?」
私はうつ向いて早口で伝える。
「へぇ、クリスマスパーティー?楽しそうだな」
ハルくんが言う。
「私もう行かなきゃ、じゃあ」
朝練に急ぐふりをして、
ハルくんの前から遠ざかろうと早足で歩き出す。
「待って、俺も今日学校に用があるから一緒に行こう?」
「――え」
私が顔をあげると、目があって、ハルくんが微笑む。
かぁぁっと顔が熱くなる。
―――ハルくん…マフラー使ってくれてるんだ…。
私が今年の誕生日に渡した、
去年のクリスマスに渡すつもりだった…マフラー…。
私が返事をしなくても、ハルくんは自然と隣を歩く。
―――こうやって隣を歩くのは、あと何回あるんだろう…。
朝練が終わると、私は一人で帰ろうと体育館を出る。
「相田…ちょっと良いかな?」
中島くんが追いかけてきて言う。
「年末とか、バスケ部のみんなでカラオケとか行かない?」
「なんで?」
「なんでって…親睦会?」
中島くんが私に言う。
「私は参加しないよ、皆で行ってきたら?」
「いや、マネージャーも参加して欲しいって声が多数でさ」
「そんなことしても、来年インターハイ行けないと思うよ?」
つい、きつい口調になってしまう。
ウィンターカップだって、予選で負けて…、悔しくないの?
もっと練習したいって思わないの?
私が構わずに帰ろうとすると、中島くんが私の腕を引く。
「ごめん…本当はさ…そんなの口実でー――」
私が立ち止まると、腕を離して中島くんが真剣な顔で言う。
「俺、ずっと好きだったんだ…相田のこと…」