おばさんの言葉
「あの、これ修学旅行のおみやげです」
修学旅行から帰ってきて、私は隣の澤野家に出向いていた。
「あら、わざわざうちに?」
おばさんが、嬉しそうに言う。
―――去年、ハルくんにはたくさん貰ったから…。
「ね、茗子ちゃん、ちょっとあがっていかない?」
おばさんが突然そんなことを言う。
「え…私は―――」
「いいからいいから、今、息子たちも居ないし。」
私が断る理由が分かっていたのか、おばさんが言う。
どぎまぎしながら久しぶりに、澤野家にあがる。
「ね、茗子ちゃん…咲と別れたのは、どうしてかしら?」
お茶を出してくれ、おばさんが向かい合わせの椅子に座る。
「……それは」
「咲が何かした?」
私が口ごもると、おばさんが真顔で言う。
「いえ、サクちゃんは何も悪くないんです…私が全部悪くて」
「咲が茗子ちゃんを傷つけたんじゃないかと思ってたんだけど、違うの?それなら良いんだけど」
変なこと聞いて、ごめんねとおばさんが微笑む。
「違いますっ、私がサクちゃんを傷つけました…ごめんなさい」
私が頭を下げて謝ると、
「ごめんごめん、私は責めるとかそういうつもりはないの。咲や春が茗子ちゃんを傷つけてないか、それだけが心配で。ごめんね、親が口出しすることじゃないのは分かってるんだけど…でも…私は茗子ちゃんが大切だから…それだけが心配で」
「おばさん…」
「うちの息子たちは傷なんていくらでもつけていいのよ?男の子なんだし」
笑いながらおばさんが明るく言う。
「でも、あなたは女の子だから…。私達にとっても広子さんたちにとっても、大事な。」
――――優しく言われると、涙が出る。
私がサクちゃんを傷つけたのに…そんなこと言われると…罪悪感が増しますよ…。
「恋愛なんて、いつどうなるか誰にも分からないものだわ。
でも、間違いなんてないのよ。
それは、全部必要だった出逢いと別れなの。
だから、息子たちと別れたことも…茗子ちゃんが気にすることないの。
今まで通りって訳にはいかないかもしれないけど、
でもきっと時間が、あるべきカタチに関係を修復してくれるわ」
“あるべきカタチに”?
「春も、咲も、小さい頃から茗子ちゃんが大好きだったから、いつかこんな日が来るだろうと思ってた。
―――あなたたちは、まだ若い。若すぎる…。
だから、何も恐れなくて良いの。
今は失敗や間違いを学ぶ時間なんだから。
人は傷付いて、人に優しくすることを学ぶんだし。
それが青春なんじゃないかしら?」
「………」
私は涙をぬぐいながら、耳を傾ける。
「ごめんごめん、年取ると説教ぽくて本当…」
おばさんが苦笑いを浮かべて言う。
「ありがとう、おばさん。少し、元気でました」
―――ハルくんとの別れも、サクちゃんとの別れも…、
通るべき道だったんだと、
自分勝手だけど…そう思うと少しだけ気持ちが軽くなる。
元カレ二人の実の親に、そんな話をされることなんて、
きっと日本中探しても私ぐらいだろうな。
そう考えると、幼馴染みって…すごいな。
私は…これからどんな人に恋をして、結婚するんだろう。
―――小さい頃から、ハルくんのお嫁さんになることしか考えてなかった。
だけど、高校生になって、大好きだったハルくんとも別れて…、現実は少し違う。
ハルくんが好きだ、
でも…この気持ちも時間が経てば、
“あるべきカタチ”に変わっていくのだろうか?
そんなことを考えながら、私は自分の家に戻った。