ただの、友達
―――繋がれた手を離すタイミングが分からなくて、離さなかったのかな?
―――手を繋がれて…どうしてあんなに、気持ちが落ち着いたのかな。
私と航くんは…ただの友達のはずなのに。
「どうしたの茗子、手なんか眺めて」
沖縄美ら海水族館に来ていた私は、愛梨の声で我に返る。
――――私…また航くんのことを考えてた…。
「うわ、愛梨…見て!ジンベエザメすごい迫力だね」
ガラス張りの巨大な水槽を指差して、私は愛梨に言う。
「それ、さっき私言ったんだけど?」
愛梨がジロッと睨んだあと、ため息をついて言う。
「あ…ごめん」
愛梨の話、全然聞いてなかった…。
「どうしたの?―――昨日のこと思い出してたの?」
愛梨が真剣な顔で言う。
「えっ」
心臓がドキリと跳ねた。
「私もびっくりしたもん、雛ちゃんの話。――どこの誰なんだろうね…早く解決したら良いのにね」
「あ、うん…」
そっちか…。
そうだよね、愛梨は私と航くんが手を繋いだことなんて、知らないんだし。
――――なぜか、愛梨の言葉にホッとしていた。
「沖縄旅行中は、私が茗子を守るから安心して?」
愛梨が得意そうに言って、笑う。
「ありがとう。」
愛梨のことばに、励まされる。
「ところで、愛梨…あの…仁科くんとはどうなってるの?」
―――昨日のこと、と言えば愛梨のあの反応も気になった。
まだ、好きなのかな?
愛梨は自分のことはあまり話してくれないから…。
「どうって、どうもなってないよ」
愛梨の顔から笑みが消える。
「私は告白なんてしないし。あいつからされることなんてないし」
「どうして?伝えないの?」
何も深く考えず、さらに聞くと、
「私は茗子みたく可愛くもないし、菜奈みたくガンガン来てくれる人を好きになってないから…このままずっとただの友達かな」
菜奈がなぜか卑下するように言う。
「愛梨…」
愛梨の気持ちが計り知れなくて、私は言葉を繋げれずにいた。
「私のことより、茗子でしょ!良いの?元カレ、結局粟野にとられたんでしょ?」
愛梨が話題を私のことに変える。
きっと、愛梨も私にずっと聞きたかったのだろう。
「とられたって訳じゃないよ…私とは別れたあとだし。―――私が協力したんだし。」
「え、そうなの?」
「うん、凛ちゃんに頼まれて…」
「そうなんだ…」
なんだかおもしろくない…と愛梨の顔に書いてある。
「私、茗子と咲くん、上手くいってると思ってたのに…」
「………私が悪いんだ」
「え?」
「私が中途半端に付き合って、サクちゃんを傷つけたの。だから、私は今のサクちゃんに、何も言う資格ないんだよ」
「………」
珍しく愛梨が黙りこんだ。
「おみやげ、見に行こうよー」
その時、同じグループの雛ちゃんと千穂ちゃんが私たちに言う。
「うん、行こう」
愛梨が私に言いながら歩き出す。
――――愛梨…きっと私のこと軽蔑してるよね。
こんな私のこと…、理解できないもんね…。
「久しぶりに来たわー、水族館!楽しかったね」
愛梨がおみやげを買ったあと、満足そうに言う。
「私も水族館好きだから、楽しかった!」
―――そういえば、中学の時、甚と菜奈と…航くんと水族館に行って以来だったな…。
また、私の頭の中に、航くんが出てくる。
あの時に、私が…友達になりたいって言ったんだよね…。