表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いっこの差  作者: 夢呂
【第三章】
219/283

お誘い

「愛梨ちゃん、茗子ちゃん、今晩の予定ある?」

夕食を終えて、決められた四人部屋に戻ると、

同じグループの(やなぎ) 千穂(ちほ)ちゃんと鈴木(すずき) (ひな)ちゃんが、

お風呂の支度をしていた私と愛梨に話しかけてきた。



「いや、特にないよ?」

ね?と愛梨が私に尋ねる。

「うん。どうかしたの?」

私が二人に言うと、


「じゃあさ、ちょっと男子の部屋に遊びに行かない?」

千穂ちゃんが明るく言う。

「え、行く!楽しそう!!茗子も行こ?」

愛梨も嬉しそうに即答しながら、私にも同意を求める。



――――こうやって、ハルくんも…。

女子の部屋に行ったりしたのかな…。


「茗子?」

愛梨が私の返事を急かす。


「私は…いいや。皆で行ってきてよ」

私が苦笑いで言うと、

「えぇー、茗子ちゃん居ないと男子のテンション違うしさぁー、来てよぉー」

雛ちゃんが可愛らしい声で言う。


「……ごめん、じゃあ…私もやめとくわ」

さっきまでノリ気だった愛梨が、急に断った。


「え、愛梨ちゃんまで…」

千穂ちゃんが残念そうに言う。


「私には気にせず、行ってきて?」

私も愛梨に言うと、

「茗子を一人には出来ないから」

愛梨が力強く言った。

「一人は、こわいでしょ?」



――――愛梨…。本当は行きたいと思ってるのに…。

私のこと、考えて断ってくれてるんだね…。


申し訳なくて、私は考えを改めた。


「行く…行こ?私…愛梨と一緒に行く」

「良いの?」

愛梨が嬉しそうに聞き返すので、私は頷く。


「よし、じゃあ決まりねー」

「とりあえず、まずは大浴場行こう!」

千穂ちゃんと雛ちゃんも嬉しそうに言うと、

四人でホテルの大浴場へと向かった。





お風呂あがりに、ホテルの浴衣を着て、

千穂ちゃんが代表で男子部屋のドアをノックする。

「愛梨ちゃんと、茗子ちゃんを連れてきたよー」


「おぉー千穂でかした!」

何故か千穂ちゃんが男子に褒められている。


その中に、航くんの姿もあった。


――――航くん…彼女と別れてたんだね…。

つい、航くんのことを見てしまい、目が合う。


「こ、こんばんわ」

なぜか航くんがぎこちなく挨拶する。

可笑しくて、つい笑顔になる。

「なんで笑うの?」

航くんも、聞きながら笑っている。


―――別れたのに、あんまりつらくはなさそうだな…。良かった…。



「ねぇ、せっかく男女で集まったことだし、なんかゲームしねぇ?」

男子が言うと、

「え~?」

千穂ちゃんと雛ちゃんがブーイングする。



「じゃあさ、一人ずつ好きな人の名前言うとかは?」

「うわ、無理無理!」

男子の提案に、愛梨がすぐに反応した。

「ってことは愛梨ちゃん、好きな人いるんだ?」

千穂ちゃんがつっこむと、愛梨が赤くなってうつ向く。


「私は…そういうの、ちょっと…」

「俺も…無理だし」

私が愛梨を助けようとやんわり断ると、航くんも賛成してくれた。


「じゃあ、せっかくここに、クラス(いち)モテる仲西くんと、茗子ちゃんがいるんだし、二人のこと好きな人、挙げてくのは?」

雛ちゃんが楽しそうに提案する。

「ここにいるメンバー以外で、誰か知ってる人いない?」


「いいね、それ!」

他の男子たちも他人事になり、楽しそうに話し出す。


クラスの子の何人かが、航くんのことを好きなんだと知った。

私のことも、クラスで何人かの名前が挙がり、好きなんだと聞かされた。


―――これを聞いて、私と航くんはこれからどうしろと?

私なんて、喋ったことない人ばっかりだし。

一体どうして好きになられたのか分からない…。





「そういえばさ、こないだ茗子ちゃんのカバンあさってるような人見かけたんだよね」


―――――えっ?

雛ちゃんが思い出したように突然話し出した。


「誰?」

「一年?」

愛梨と航くんがすぐに雛ちゃんに勢いよく迫る。


「え、何?そんな食い付くの?」

雛ちゃんが驚きながら言う。

「いや、結構前の話だし、はっきり見た訳じゃないんだけどさ…。

午後イチで移動教室の時、忘れ物を取りに教室に戻ったらさ、ドアのところでぶつかって…クラスの男子じゃなかったからおかしいなーと思ってさ。で、その時、茗子ちゃんの机にかけてあったカバンが揺れてたんだよねー」


―――雛ちゃんの話に背筋が凍る。


「で、それどんなやつ?」

航くんが真剣な顔で尋ねる。

「顔も咄嗟のことで、見てないよ…。背は低め…かな。ぶつかったとき、同じくらいに感じたから。―――170とか?」


「てか、それ…マジなやつじゃね?」

男子が言うと、千穂ちゃんが思い出しながら言う。

「そういえば、文化祭の時も…茗子ちゃんのメイド服だけ無くなったよね…」



「相田さん…可愛いからなぁ」

「うわ、ここにも茗子ちゃんのこと好きなやついたわー」

男子の言葉を千穂ちゃんがからかう。



ドンドンとドアをノックする音がして、

誰かが慌てて電気を消す。


「やべ、見回りだ…女子ちょっと隠れて…」

咄嗟に近くの布団に潜り込む。



「お前たち、今、何時だと思ってんだ、静かにしなさい」

先生が男子たちを叱る。

「はーい、もう、寝ますー」

男子達が声を揃えて言う。


私は…さっきの話を聞いて、震えていた。

――――怖い…誰なの…。


その時、ギュッと震える手を握られる。

ビクッとして顔をあげると、近くに航くんの顔があった。



「大丈夫…」

小声で、航くんが囁く。

「だから、そんなに怯えないで?」

――――航くん…。



しばらく無言で様子を伺っていた先生が、

ピシャッとドアを閉める。

――――先生の足音が遠ざかる。


みんな、ホッと息をついで布団から顔を出した。

「ちょっと…なんであんたが」

「お前が勝手に俺の布団に入ってきたんだろ?」

千穂ちゃんが男子と小声で揉め始める。


そんな中、なぜか…布団のなかで私と航くんは手を繋いだままだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ