春からの告白
文化祭も終わってしばらく経ったある日、
休み時間に愛梨がいつもの明るい笑顔で私の席に来て話し出す。
「決まったねー、行き先!!」
「―――そうだね…」
愛梨が言っている“行き先”とは、修学旅行のことだ。
「あぁー楽しみだなぁ…沖縄!」
うっとりと遠くを見つめて、愛梨が言う。
“修学旅行”―――楽しみなイベントのはずなのに、
去年のことを思い出して、どうしても気分が上がらない…。
修学旅行の前日までは…ハルくんと上手くいっていたはずなのに…。
―――あの日に戻りたい。戻れたら良いのに…。
「茗子、一緒にまわろうね」
「うん」
愛梨に言われて、微笑んで頷く。
「菜奈たちも、沖縄らしいから、一緒にまわれると良いねー」
「そうなんだ?」
―――みんなで沖縄旅行…。
私は、ハルくんの時とは真逆の沖縄…。
去年とは、関係ないんだから…
ハルくんは関係ないんだから。
楽しまなきゃ。
「茗子」
生徒会の仕事も終わって部活に向かう途中、
廊下でハルくんに引き留められた。
「…何?」
私は振り向かずに返事をする。
「一緒に体育館行こ?」
ハルくんが言いながら隣に立つ。
「え、ハルくん―――」
―――引退したのに?
「今日、バスケしたい気分だから」
私の言葉を遮って、
ハルくんが爽やかな笑顔で微笑んで言う。
―――ドキドキするから、止めて…。
私は、何も言えずに歩き出すと、ハルくんも歩き出した。
「―――咲、粟野と付き合い始めたんだってな」
「らしいね…」
私が知ったのは、後夜祭の翌日。
朝練で顔を合わせるなり、凛ちゃんから嬉しそうに報告された。
驚きすぎて、一瞬言葉を失なったけど…
私にはショックを受ける資格もないし、
「良かったね、おめでと」
一息置いて、祝福の言葉を口にした。
噂も広まり、
サクちゃんのファンは、私から凛ちゃんに標的を変えたようだった。
――――サクちゃんが選んだ事なら、良いと思う…。
それなのに、胸のざわつきは消えない。
―――サクちゃん、凛ちゃんのこと、本当に好きなのかな?
「………」
私が黙っていると、ハルくんが言った。
「茗子、後夜祭どこにいた?」
「え?」
「見つけられなかったから…」
ハルくんがうつ向いて言う。
――――なんで?私のこと…探してたの?
なぜだか嬉しくてドキドキ心臓が高鳴る。
「茗子に…言いたかったことがあって」
「…何?」
私の足が自然に止まる。
ハルくんの足も、続けて止まる。
「俺…アメリカに留学しようと思ってる」
「―――うん…」
――――知ってた…。
それなのに、本人の口から聞くと、やっぱりショックだった。
「元々、英語圏には行きたいと思ってたし…。向こうでバスケしたいって思ってる。」
「―――そう…なんだ」
――――“頑張ってね”って言うべき?
頑張って欲しいって…心から思っていなくても…。
「―――ほら、部活…急がないと」
何か言おうとしたのに、やめて、
ハルくんは代わりにそんな言葉を口にした。
「うん…」
私も、何も言えなくて、結局相槌しか出来なかった。
卒業まであと半年。
――――いつになったら、苦しい気持ちは消えるのかな…。
消えるのかな…?