お願い~咲目線~
言われた通り、俺は後夜祭に参加した。
――――いや、参加したというより…待ち合わせされた場所に向かったというのが正しい。
「咲くん!」
待ち合わせを要求してきた粟野が、
ぱぁぁっと明るく笑顔になって、俺の前まで走ってくる。
「良かった…来てくれないかと思った…」
しおらしく言う。
――――マジうぜぇ。思ってもないくせに。
「なんなの?」
あえて目をあわせずに、言う。
「私…咲くんが好きなの。私を…彼女にしてください」
「いいよ」
目をあわせずに答える。
――――分かってた、こいつがなんで呼び出したのか。
「え…」
粟野が驚いた反応をした。
「なんだよ、そっちの望み通りだろ?」
俺が言うと、
「…うんっ」
作り笑顔で、粟野が返事をする。
「じゃあ、俺帰るわ」
俺が歩き出すと、
「え、じゃあ私も…」
粟野が慌てた様子で、ついてくると、俺の腕にひっついた。
「うぜぇな、やめろよ」
「だって、彼女だもん!?」
嬉しそうに、粟野が言う。
『サクちゃん』
茗子の声が聞こえた気がした。
――――茗子から、こんな風に腕を組まれたこと…無かったな…。
――――茗子が俺にした、初めてのお願い…。
粟野と、付き合えってこと…。
――――残酷な話だ…。
好きな女に、こんなお願いされるなんて…。
そんな“お願い”でも、茗子の為になるなら…なんて、
叶えようとする俺は…。
本当にバカだ。