甘え
翌朝、家を出ると菜奈とバス停で待ち合わせた。
「おはよ」
「おはよう」
―――気を遣わせちゃって…。
「変なやつ、昨日現れた?」
「…ううん」
――――私の思い過ごしなのかもしれない。
でも、私のそんな予想は、教室に入ると打ち砕かれた。
「茗子っ」
愛梨が私が教室に着くとすぐに駆け寄る。
「愛梨、おはよう」
「茗子のメイド服だけ…見当たらないっ」
愛梨が挨拶を返す代わりに、そう言った。
「どうしてか分からないけど…茗子ちゃんのやつだけ…朝来たら無くなってて」
同じクラスで今日一番に教室に来た子が言う。
――――どうして…?
「はよー…って、何、この空気…」
航くんが教室に入ってきてすぐ、立ち止まる。
「茗子のメイド服が無くなってたの」
愛梨が説明する。
「今日は、茗子、制服のまま裏方の仕事だけしてくれたらいいから」
愛梨が言う。
「うん…」
――――なんで?今までこんなこと、無かったのに…。
怖い…。
「あれ?どうして制服?」
生徒会の仕事をしに、生徒会室にいくと、
後からハルくんが入ってきた。
「メイド服の茗子、見たかったのにな」
「………」
――――なんで?久しぶりに会ったと思ったら、…何もなかったみたいに振る舞うの?
「茗子、どした?」
「ハルくん…」
――――どうして私には…何も話してくれないの?
片想いの私には、何も言う資格ない…。
――――どうして私は、ハルくんが好きなんだろう。
今のハルくんは、私を必要としてないのに。
それでも私、いつまでも…忘れられない…。
私は、何も言えずに生徒会室を飛び出した。
「茗子ちゃんっ」
廊下から私を呼ぶ声がした。
「航くん…」
航くんが走ってくる。
「探したよ…」
肩で息をしながら、航くんが言う。
「ごめん、生徒会の仕事に…」
「一人だと危ないから…誰かと一緒に居て?」
「………」
―――航くんは…優しい。知り合ったときからずっと…。
「とりあえず、愛梨が教室にいるはずだから、一緒に戻ろ?」
―――だから、いつも…甘えてしまう。
航くんから差し出された手を、思わず取ってしまった。
―――ダメなのに…、航くんには彼女がいるのに…。
ごめんなさい、今だけ…甘えさせてください…。