助け
目を覚ますと、目の前に航くんがいた。
「あれ…」
――――私…。
ここが教室だと気づいて、慌てて立ち上がろうとする。
でも立ちくらみがして、よろけてしまった。
「ちょ…茗子ちゃん、大丈夫?」
「航くん…ごめん…」
咄嗟に航くんが支えてくれた。
「急に倒れたから、どうしようかと思ったよ…」
航くんが心配そうに言う。
「ごめん…最近寝不足で…」
安心させようと、微笑んで言う。
「さっきのやつ、もしかして、ストーカー?」
「わからない…」
――――さっきの人が…誰なのか…怖くて考えたくない…。
「ねぇ、咲と別れたって、本当?」
航くんが突然話を変えて、尋ねる。
「うん…」
「なんで?」
理由を聞かれたのは初めてで、答えに困って黙り込む。
「言いたくないなら、良いよ」
航くんが優しく言うと、
「俺、部活に戻らねーと…茗子ちゃんは?平気?」
教室を出ていこうとする。
「あ…」
怖い…怖い…行かないで…。
一人にしないで…。
――――私も慌てて航くんと一緒に教室を出る。
「体育館まで、付き合うよ」
航くんが優しく言ってくれて、ホッとした。
「澤野咲、サッカー部に入り直したよな…」
「だね…」
「バスケ部、大丈夫か?」
「ちょっと…キツいかも」
―――新学期になると、サクちゃんは突然バスケ部を退部し、サッカー部に入部した。
途中の退部と入部は、異例だったけど、サクちゃんの実力であっさり認められた。
私は、ハルくんとサクちゃんの居なくなったバスケ部で、
相変わらずマネージャーとして頑張っている。
でも、バスケ部が代替わりして弱くなってしまったのは…事実だった。
サクちゃんも失なって、正直今年のウィンターカップも危うい。
全部仕方のないこと…。
私は、それでも最後までここでみんなを支えたい。
「それにしても、さっきのやつ…今度会ったらぶん殴るわ…」
航くんが思い出しながら苛ついて言う。
「何年だろ、一年?っぽかったな…」
「さっきは、ありがとう。一人じゃなくて良かった…航くんがいてくれて…」
私はお礼を言いながら思い出していた。
「そういえば、前に痴漢にあったときも、航くんが助けてくれたよね…なんか助けられてばっかりだね…」
「そんなこと、ないよ。じゃ、じゃあ俺、部活に戻るから。また明日!」
航くんが体育館まで送ってくれた後、走って行ってしまった。
「うん、バイバイ」
私も手を振ってから、体育館に入る。
「茗子先輩、遅かったじゃないですかー」
凛ちゃんが言う。
「ごめん…ちょっと忘れ物しちゃって…。」
「相田ー、ちょっと…」
新しく部長になった、二年の中島くんが私を呼ぶ。
「はい、今行く」
急いで、中島くんのところに向かう。
「バスケ部のマネージャー辞めたいって言い出したんだよ…粟野のやつ…」
「え…」
私は驚いて、遠くでタイマーをはかる凛ちゃんを見る。
なんだかんだ言いながらも、仕事はちゃんとこなしていたのに。
「あいつ、咲がいなくなったら急に言い出してきてさ…。相田もあと一年で引退だし…どうするよ?」
――――サクちゃん?ハルくんじゃなくて?
疑問はわいたけど、それより…。
「―――説得してみる…」
「良かった、じゃあ頼むな…」
私が言うと、ホッとしたように中島くんが言う。
「凛ちゃん…あのさ」
「はい?」
私が片付けながら、説得を試みる。
「マネージャー…辞めないでくれないかな?凛ちゃんが居なくなっちゃうと…」
「だって、澤野兄弟が居なくなっちゃったし、もう私ここにいる意味ないですからー」
凛ちゃんが悪びれずに言う。
「凛ちゃん、バスケ部だったんだよね?」
「そうですけど?」
「じゃあ、楽しくないの?皆がバスケしてるところ見てて」
「………?」
「私は経験ないけど…見てて楽しいよ?応援したいって…思うよ?」
「うわ、ウザいですそういうの。」
「凛ちゃん…」
「茗子先輩が、咲くんと私の仲を取り持ってくれるなら、続けますよ、新入生が入ってくるまで」
凛ちゃんが微笑んで言う。
「凛ちゃん…サクちゃんのことまだ諦めてなかったんだね」
菜奈の推測通りだったんだ…。
「別れたんですよね?全く…今までにないパターン続きで、困りますよ」
ため息をつきながら、凛ちゃんが言う。
「まさか、サッカー部に行っちゃうなんて…」
「ごめんね」
「何思い上がってんですか?別に茗子先輩関係ないし」
私が謝ると、ムッとした顔で凛ちゃんが言う。
「私…どうすれば…?」
「後夜祭、誘ってください、咲くんを。」