新学期
『俺も茗子を離す気全く無いから』
付き合ってた時、ハルくんがくれた言葉。
『俺はもう妹としてしか見てないから』
別れるとき、ハルくんが言った言葉。
私は、自分の言葉を彼に伝えていたのかな…。
こんなことになるなら…付き合ってる時も、別れ話の時も…自分の言葉を伝えるべきだったんじゃないの?
「文化祭の準備についてですがー―――」
生徒会室に、文化祭の実行委員とミーティングをしている間、
私は、話を進めるハルくんをじっと見つめていた。
「茗子、ボーッとしてどうしたの?」
教室までの帰り、花井 蘭子が私に言った。
――――私がサクちゃんと別れたという噂は、新学期が始まるとまたあっという間に広まった。
どこから広まったのか、誰が知っていたのかは分からなかったけど…自分から言う手間は省けたし、悪口もなくなった。
花井さん…蘭子も、急に名前で呼ぶ間柄になったのだった。
「何でもないよ」
私は、笑顔をつくって答える。
「うちのクラス…メイド喫茶になったわ…」
愛梨が昼休みに、彩と菜奈に言う。
「男子がさー、も、チョーノリ気で…」
「うわ…」
彩がひいたような反応をしながら言う。
「うちのクラスは、ただのアイス屋さんだよ」
「いいなー、B組が良かったわー。ねぇ、茗子」
「そだね…」
私が笑って頷く。
「茗子ってば、別れてから元気ないねぇ…やっぱ戻りたいんじゃないの?」
彩がため息をついて言う。
「どうして急にふっちゃったの?―――あんな完璧なイケメン…もったいない…てか、理解できない!!」
愛梨もため息をつく。
私が塞ぎこんでいるのが悪いんだけど、
――――二人の誤解はちょっとツラい。
別れた理由も…言ってないから、
皆は私がなんとなくふったんだと思っているんだろうな…。
そもそも、三ヶ月のお試し的な付き合いだったのも、
皆は知らないんだから、仕方ないんだけど…。
「―――咲くんと、別れたのって…やっぱり春先輩が好きだから?」
菜奈に放課後呼び止められて、お互い、部活に向かいながら話す。
「………」
そう、だったはずなのに…
…私は、また言えないでいる。
だって、この気持ちを伝えたところで、どうなる?
ハルくんが決めた、進路を、止めたい訳じゃない。
でも…応援もできない。
「私も、翔太郎と別れたよ…」
菜奈が、突然ポツリと言った。
「やっぱり、甚が好きなのに…翔太郎と付き合ってるのは卑怯だから…」
「そっか…」
――――菜奈は、良いな…。甚ときっとやり直せる。
「後夜祭で告白しようって思ってる…」
「頑張って、きっと上手くいくよ」
私は、心から思ったことを言った。
「茗子は?」
「え?」
菜奈が私に問いかけるので、聞き返してしまう。
「告白しないの?春先輩に」
「………」
「高校、最後だよ?」
「…分かってる」
今年が最後…、来年はもう…居ない。
分かってる…でも、迷惑にしかならないと思うと…。
私はまた、言葉を伝えることができない。
「茗子、たまには自分の気持ちを一番に考えなよ…」
「菜奈?」
菜奈がサッカー部の部室へ向かう廊下に差し掛かると足を止めて言う。
「あんたは、いつも周りの気持ちを考えすぎてる。一番大事なのは、自分の気持ちだよ?春先輩が好きなら好きって言えばいいじゃん」
「でも…」
「遠回りしてると、タイミング逃しちゃうよ?」
菜奈はそれだけ言うと、サッカー部の部室へ向かってしまった。
私は、体育館に向かう廊下を歩き始める。
――――私は…ハルくんが好きって言っても良いの?