花火よりも衝撃な話
「え、浴衣じゃねーの?」
花火大会の夕方、
私が家の前で待っていたサクちゃんは、
会うなり不機嫌な声で言う。
――――なんか、浴衣を見たら…去年のことを思い出しちゃって…着れなかったんだよね…。
「仕方ねーな、来いよ…」
サクちゃんがなぜか自分の家に私を連れていく。
――――サクちゃんは…浴衣似合ってるな…。
私の手を引きながら前を歩くサクちゃんの浴衣姿を見ながら、思った。
「あら、咲。彼女と出掛けたんじゃなかったの?―――ってあれ?茗子ちゃん?」
玄関に入るなり、おばさんに驚かれる。
「母さん、浴衣貸して」
サクちゃんが言う。
「え、えぇ…」
訳がわからず、取り敢えず頷きながらおばさんが驚きながらも笑顔をつくって私に言う。
「茗子ちゃん、こっちいらっしゃい?」
「……すみません」
―――なんか、色々…。
「まさか、茗子ちゃんが“彼女”だとは思わなかったわー」
浴衣を着付けてくれながら、おばさんが言う。
私は、愛想笑いで返すしかなかった。
―――ハルくんと別れて、サクちゃんと付き合ってるなんて…おばさんはどう思ってるんだろう…。
「春がアメリカに行くって言ったときは驚いたけど、茗子ちゃんと別れたのはそういうことだったのかしらね…?」
―――え?
「あ、いけない。口止めされてたのに、私ったら」
おばさんが慌てて口に手を当てる。
「おばさん、今…アメリカって…」
私は、あまりに驚いて、なぜかヘラヘラ笑ってしまう。
「聞かなかったことにしてね、春に怒られちゃう!!」
おばさんはそれ以上何も教えてくれなかった。
――――え?――――アメリカ?
着付けを終えて、家を出ると、
「うん、かわいい」
サクちゃんが満足そうに笑って言った。
「サクちゃん…知ってたの?」
花火大会に向かう時、
私の頭の中は、“ハルくんがアメリカに行く”という言葉でいっぱいだった。
「なにが?」
サクちゃんが、繋いでいた手に力を込めながら聞く。
「ハルくんのことだよっ!アメリカに行くって…何?」
私が思わず、サクちゃんに声を荒げる。
「―――俺も最近知ったんだ…、インターハイの時…」
サクちゃんが悔しそうに言う。
「春、留学するらしい…」
――――留学…アメリカに…?
目の前が真っ白になった。
足が動かなくなる…。
「茗子っ」
足元がふらついた私を、サクちゃんが抱きとめてくれる。
―――――ハルくんが…アメリカに…。
「茗子…」
サクちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
土手に座ると、サクちゃんも隣に座る。
「―――本当は、今日…正式に告白しようって思ってたんだけど…」
「……ごめん」
「最初から分かってて付き合ってたんだから、茗子が謝るなよ…」
「………ごめん」
「だからっ…謝んなって言ってるだろ」
「ごめん…」
サクちゃんが苛立ったように言ったけど、
私はそれでも謝るしかなかった。
―――サクちゃんが優しく、私の流す涙を指で拭う。
「笑って…茗子。俺、茗子には笑ってて欲しいから」
「………」
「春を好きでも…つらいだけなのにー――それでも…俺じゃダメなの?」
「………ごめんね…」
私は、涙で―――上がる花火が滲んで見えた。