夏の想い出~航目線~
海に向かって歩いている時、
ふいに赤くなった茗子ちゃんに気づいて、からかったあと、
俺に向き直ると、
「茗子ったら、この間ここにキスマークつけててさ…」
愛梨が自分の鎖骨を指差しながら、興奮気味に俺に言う。
俺が杏奈と付き合っていると思っているからか、
平気で茗子ちゃんと咲の話をしてくる。
―――茗子ちゃん、
本当に咲の方を好きになったのか?
諦めようと、杏奈と本当に付き合いだして…
でもやっぱり忘れられないと思ったときには、
茗子ちゃんはあいつと付き合い出していた。
でも…春先輩と付き合ってた頃のような、幸せオーラは感じられなくて…俺はなかなか信じられなかった。
「航、ちょっと写メ撮って―」
海に着いて、水着に着替えた彩に言われ、
「うん」と言うつもりが、
隣にいた水着姿の茗子ちゃんを見たら、
あまりの可愛さに鼻血が出るかと思った。
―――ヤバ…直視できねぇ…。
甚が提案したビーチボールの罰ゲーム、かき氷の奢り。
あっさり茗子ちゃんがボールを落としたのを見て、
俺はすぐにわざと失敗した。
二人でかき氷を買いに行かされる…。
せっかく二人きりなのに…
直視できねぇし…
「お金…」
「いや、いいよ」
いいところを見せたくて、見栄を張ると、
「私が一番最初に負けたんだから…」
茗子ちゃんが譲らないようなので、
仕方なく半額払ってもらうことにした。
でも、茗子ちゃんの手が触れてつい反射で、ビクッと手を払ってしまった。
――――久しぶりに触れたら、
めっちゃ心臓がバクバクいってるぞ…おい…。
「あ、ごめん」
慌てて小銭を拾う。
―――と、目の前に茗子ちゃんの胸があった。
――――うわぁっ!
俺は、心の中で叫ぶ。
一緒に小銭を拾ってくれただけなのに、俺は…。
「大丈夫?―――具合悪いの?」
茗子ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
―――やめてくれ、これ以上近づかれたら…。
かき氷を受け取って、
俺は目のやり場に困るから先を歩くことにした。
「そういえば、航くん、彼女さんは良かったの?」
「え…」
茗子ちゃんに突然聞かれ、つい振り返ってしまった。
「いや、今日のこと…怒らなかったのかなって」
―――まるで、自分は怒られた…みたいな言い方だな。
「あ、うん、大丈夫」
―――俺は、杏奈と連絡とってねーし。
まだちゃんと別れてないけど…夏休み部活以外で会うこともなかった。
俺がすぐにまた前をスタスタ歩きながら言う。
茗子ちゃんは、それ以上何も聞いてこなかった。
チラッと振り返ると、
なんだか思い詰めたような顔で、トボトボと歩いている。
――――幸せそうに笑う茗子ちゃん、いつから見てなかったかな…。
俺じゃ…ダメなんだよな…やっぱ…。