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いっこの差  作者: 夢呂
【第三章】
204/283

海の日に回想

「あっつー」

「良いんじゃない?海日和ってことで」

航くんのことばに、愛梨が言い返す。


「インターハイ…残念だったね」

「うん…」

航くんと愛梨の後ろを、菜奈と二人で歩く。


――――インターハイ二戦目は、シード校の須賀高校と当たった。

「茗子ちゃん!久しぶりだね、元気だった?」

牧野くんがすかさず私のもとに現れた。


「―――おい耀太、勝手にどっか行くな!―――って相田さん…」

マネージャーの斎藤くんが連れ戻しに来る。

「ちょうどよかった、お前こないだ相田さんに変なことしたんだろ?謝れよ」

斎藤くんが無理矢理牧野くんの頭をつかんで下げようとする。

「え…俺?何もしてないよね?茗子ちゃん?」

「………私、戻らないと」

無視して行こうとすると、

「今日はよろしくね、まぁ相手にならないけど」

牧野くんが笑って手を振りながら行ってしまう。

「待てよ、耀太っ」

斎藤くんがペコッと頭を下げると、牧野くんの後を追う。



サクちゃんは二戦目の試合もスタメンに選ばれた。

でも…、初戦とは別人のように、調子が悪くて、

結局あっさり点差をつけられて…負けてしまった。


――――ハルくん達、三年生は引退することになった。






「――――めいこ?」

インターハイの日を思い出していたところを菜奈に呼ばれて、現実に引き戻される。


「あ、ごめん…なに?」

「今日のこと、咲くんに話したの?」

菜奈が前を見ながら言う。

視線の先には、彩と話しながら前を歩く甚がいた。


「話したよ」



「―――海?」

私が昨晩、公園で会っていたとき、さりげなく今日の話をした。

サクちゃんは、その話を伝えたとき、露骨に嫌そうな反応をした。

「うん、菜奈とか…友達と」


「男もいる?」

サクちゃんが、すかさず聞く。

「―――いるけど…」

「仲西航とか?」

私が言い終わる前に、畳み掛けるように聞く。


「―――も、いるけど」

「ふーん…」

嫌そうな顔をしながら、私を抱き締める。


「嫌だって言っても…行くんだろ」

拗ねたようにサクちゃんが言う。


「楽しみにしてたの、海…」

サクちゃんの顔をそっと見上げると、目が合う。


「じゃあ…茗子からキスしたら許す」

サクちゃんが笑顔になって言った。





「あれ?茗子、赤くなっちゃって…何思い出してたのかなー?」

愛梨が振り向いて私をからかう。


「別に…赤くなんてなってないよ」

私が必死に言う。


「ラブラブなんだねー、相変わらず」

彩も聞いていたのか、振り向いて言う。


――――そんなんじゃないんだって…本当。

愚かな私…サクちゃんの気持ちにまだ応えようとして。

約束の三ヶ月は…来週だ。

――――来週、サクちゃんは…どうするんだろう。

私は、どうするんだろう…。





「うわ、前から思ってたけど茗子って胸でかいよね」

海に着いて、水着に着替えると愛梨が私を見ながら羨ましそうに言う。


「でかくないし…恥ずかしいから見ないで」

私が両手で隠すと、

「ちょっと、女子だけで写メ撮ろうよ、記念に」

彩が携帯電話を取り出して言いながら、

「ちょっと航、写メ撮ってー」

航くんに携帯電話を渡す。



「う…」

航くんが私と目が合うとなぜかそらす。

――――?


「早く撮ってよー」

「はいはい、撮るぞ…」

パシャっと音がして、写メを撮る。


「後で皆に送るねー」

彩が言う。

「二人でも撮ってあげるから彼氏に見せてあげなよー、喜ぶんじゃない?」

なぜか、菜奈と私二人でも写メを撮る。


――――そういえば…私写メとか撮らないから…。

ハルくんとの写真とか…全然ない…。

――なぜか去年の思い出を振り返っていた。



「ビーチボールやろうぜ、ボール落としたら負け。負けた二人は全員分のかき氷奢りな」

甚が言う。


あっさり負けたのは、私と航くんだった。



「俺、レモンなー」

「私いちごー」

「私も」

甚が私と航くんに嬉しそうに言うと、

彩と愛梨も続けて言う。


「菜奈は、メロンだろ?」

甚が菜奈に言う。

「うん…」

甚の言葉に、驚きながら菜奈が頷く。



「航くん、お金―――」

会計の時、レジでお金を渡そうとすると、

「いや、良いよ」

航くんがこちらを見ずに断る。

「ううん、ダメだよ。

私が一番最初に負けたんだから、半分出さないと」


「あ、じゃあ…」

私が航くんの手にお金を渡そうとすると、

私の手が触れそうになった途端、航くんの手がバッと払われ、お金が砂浜に落ちる。


「あ、ごめん」

航くんがお金を拾おうとしゃがむ。

私も一緒にしゃがんでお金を拾う。


「大丈夫…?」

航くんの様子がおかしくて、つい聞いてしまう。

―――なんか、海についてから口数少ないし…なんかつらそう。


「具合、悪いの?」

「いや、そんなことないよ…そんなこと」

―――やっぱり、なんかおかしい。



「かき氷、こんなに買ったの初めて」

お盆を借りて、かき氷を運びながら私が言うと、

「そうだね」

航くんが前をスタスタ歩きながら言う。



「そういえば、航くん、彼女さんは良かったの?」

「え…」

航くんが振り返る。

「いや、今日のこと…怒らなかったのかなって」

「あ、うん、大丈夫」

航くんがすぐにまた前をスタスタ歩きながら言う。



――――私だったら…嫌かもしれない。

友達だとしても、女の子と海……なんて。


航くんの彼女さんは、すごく理解のある人なんだな…

一年生って言ってたのに、私なんかより全然大人だ…



考えながら、ハッと気がついた。

――――今、“嫌かもしれない”…って私が想像してた相手は…。


サクちゃんじゃなくて…ハルくんだったことに――――。






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