女子たちの会話
「なーんか、浮かない顔ね」
菜奈に言われて、我に返る。
夏休み、女子会に誘われて彩の家へ集まっていた。
「彼氏と喧嘩でもした?」
「それとも、粟野が何か仕掛けてきた?」
彩と愛梨が興味津々にテーブルから身を乗り出してくる。
「う…」
どっちも正解かも…。
「凛ちゃんは…サクちゃんのこと諦めたみたい」
「「えっ!?あり得ない」」
彩と愛梨の声が綺麗に揃った。
「キッパリふられたから諦めるって言ってたけど…」
私が言うと、
「いやいやいやいや、それ嘘だわ絶対」
彩がハッキリ言い切った。
「え…でも…今度はハルくん狙うから協力してって言われたけど…」
――――どれが嘘?
「「えっマジ?」」
今度は菜奈も入れて三人の声が揃う。
「粟野がそんなあっさりターゲット変えるなんて…」
彩が信じられないという顔で呟く。
「多分それも嘘じゃない?そう言えば、茗子が春先輩に気持ちが動くとか思ったんでしょ?」
菜奈の言葉に、ドキッと心臓が高鳴った。
菜奈はー――相変わらず鋭いな…。
「でも、茗子は弟くんとラブラブよねー?」
愛梨が言う。
「え…?」
私が愛梨の言葉の意味が分からず聞き返すと、
「気付いてなかったの?」
いきなり、鎖骨の辺りを指差す。
――――え?
私は、鎖骨に手をやる。
菜奈と彩が私の手と、
鎖骨にかかっていた長い髪をよけて、覗き込んでくる。
「うわ…それキスマーク?」
彩が興奮ぎみにでかい声で言う。
「えぇっ」
私は、驚いてすぐに手で隠す。
――――どこ?どこ?いつの間に…?
「愛されてるねぇ、茗子ちゃん?」
愛梨がニヤニヤしてからかうように言う。
――――愛されてる…確かに…。
私は、気持ちがまた沈んでいく。
だから苦しいんだよ…
サクちゃんのこと好きになろうとしても…、
サクちゃんの“好き”には全然追い付けない。
真っ直ぐで、眩しくってー――私にはもったいない…。
「茗子、もしかして悩んでる?」
帰り道、方角の同じ菜奈と二人で歩いていた。
「………」
私が困ってただ微笑むと、
「私も…最近悩んでる…」
菜奈が言った。
「菜奈、悩み事?」
私が尋ねると、近くの公園に菜奈が歩いていく。
「実は…最近、翔太郎と上手くいってなくて…」
菜奈が公園のベンチに座ると、話し出した。
「長富くんと…?」
「原因は…分かってる」
菜奈が切ない顔で無理して笑う。
「私が…甚のこと、気付くと目で追ってるからなんだ…」
「え…菜奈…」
甚のこと好きなの?
「私…今年甚と同じクラスになったら、なんかまた気になり出して―――最低だよね…去年違うクラスですれ違って、私からフッておいて。」
「それに…翔太郎は私のことちゃんと好きでいてくれてるのに…気持ちが揺らいで傷付けてる…」
「菜奈…」
――――それは、私も…同じ。
「どっちも傷付けたくない…だけど」
菜奈がうつ向いて言葉を続ける。
菜奈の言葉が、私の心に突き刺さる。
「本当に傷付けたくないのは…自分自身なんだ…」
「私、甚にフラれたらって考えると怖くて告白もできないし…今もこうして翔太郎の気持ち利用してる…。――――甚と上手くいったら、翔太郎と別れようとしてるの…」
最低でしょ?と菜奈が自嘲気味に笑う。
―――まるで見透かされているような気持ちで、
ズキンズキンと胸が痛くなる。
菜奈の気持ち…すごく分かる…。
ずっと…誤魔化してきた自分の気持ち。
サクちゃんと抱き合えば…好きになれるって思ってた。
ちゃんとサクちゃんと向き合おうって…努力してきた。
ちゃんと“彼氏”“彼女”になれたって、思ってた。
でも…あの時…、
震えていた私を抱き締めてくれたハルくんが…、
あのぬくもりがあまりに心地好くて…。
――――胸が熱くなった。
このままで良いわけない…。
サクちゃんに私の本当の気持ちを言わなきゃいけない。
だけど…
『茗子、どこにも行かないで…』
サクちゃんの言葉が、心に引っ掛かって…、言えない…。
こんな私でも良いって…言ってくれたサクちゃんに、
『どこにも行かないで』って言ったサクちゃんに…
言えるわけないよ…そんな勇気ない…。