八十日目 裸の付き合いってやつ?
「そうか……では主人にそう伝えておこう」
そう言ってすごすごと帰っていった。ま、そりゃあ百万は最低でもかかるって言われたら戸惑うわな。
……あの人次来ても俺もうこの国出てるかもしれないけど。
さっきのやり取りを聞いていて俺が本物だとわかった人たちが仕事を大量に持ってきた。
「赤木の森の安全なルートって知ってるか?」
「ええ。それなら金貨15枚で」
「おう、頼むぜ」
契約書にサインしてもらって、お金をもらう。
「赤木の森が危険視されているのはその名前からわかるようにある特定の木々が赤い花を咲かせるからなんです」
「そんな理由だったのか?」
「諸説ありますが、これが一番有力ですね。その花は年中咲いているのですが厄介なことに花粉を辺りに撒き散らす効果があり、この花粉に毒になる成分が含まれているんです」
リュークトルを一口飲んで喉を湿らせる。
「この花粉には手足や舌を痺れさせ、呼吸を苦しくさせる効果があり、対策なしに真っ直ぐ突っ切るのは危険です」
俺も一回行ったことがあるが、防具なしではキツいな。あれは。
「ですが、赤い花が咲かない木も勿論あります。その中で先端にふわふわした芽のようなものをつける木を探してください。猫柳という木です」
メモ帳に猫柳の絵を描いて見せる。
「これ、見たことがあるな」
「これは赤い花をつける木とは本来共存できない木なのでこの木の下を辿っていけば恐らく花粉の影響は受けないでしょう。不安ならマスクでもしていくと良いと思います」
「なんで猫柳は共存できないんだ?」
「正確に言うと猫柳が生存競争に負けて赤い花の木が繁殖するからです。魔物もあまり強くはない森なのでそれなりの腕があれば安全に渡れると思います」
「そうか、すまねぇな」
「いえ、お気をつけて」
こっちも仕事だしね。
あー、なんか久々だったから疲れたな……
家の扉を開けるとメイド達がズラッと並んでいる。
「「「お帰りなさいませ、マスター」」」
「ただいま。……別に全員並んで立たなくてもいいよ?」
っていうかなんで俺が帰ってくるタイミングわかるの?
「いえ、これもメイドの務めですので」
「そうなんだ……?」
メイドの義務なんて知らない。
「今丁度皆様がお食事をとられているお時間ですがいかがしますか?」
「あー、後でいいや。先に風呂入っていいか?」
「はい。準備はできております」
流石だ。完璧すぎて怖いくらいだ。
体を洗い終えて湯船に浸かる。
あー、気持ちいい……ん? なんかいい匂いがする。
掬ってみてみるが判らない。蜜柑みたいな匂いだけど……なんだろうね?
久し振りに羽をのばす。いや、文字通り羽を出して洗濯中。
「これ意外と面倒なんだよな……」
ニキは嬉々として洗ってくれたけど。ついでに言えば数えてたけど。
「あ、付け根の辺り届かん……」
グイッと体を捻って腕を回す。
お? 一応洗えてるか?
その瞬間、ガラッと音がして入り口が開く。
「「あ」」
イベルだった。
「ご、ごめんなさい‼ すぐでてくから」
「いや、別に子供に見られてもなんとも思わんけど……?」
女湯に小さな男の子入ることってあるじゃん? 充分その年齢だと思うよ?
「え、でも……」
「お前が気にするんならどうしたっていいけど服はもう籠に入れたんだろ? なら入ればいいんじゃね?」
「そういうのきにしないんだ………」
「見られても困るもんないし」
胸? 隠してないよ。一人で入るのにタオルつけながら湯船に浸かるやついないだろ。
いつの間にか即行で洗い終えたイベルが湯船のかなり端っこの方に入ってきた。
「なんでそんな遠く?」
「いや、わるいかなって……」
「何が悪いんだ? あ、もしよかったらこれ洗うの手伝ってくれないか? 付け根の辺りに手が届かなくてな」
え、僕が? みたいな反応しないで欲しい。
「頼むよ」
「わかった……」
なんか死地に赴くような表情だな? 俺の背中洗うのはそれと同じくらいデンジャラス……って意味?
俺が羽の先っぽの方洗っているとイベルが付け根の辺りをスポンジで擦り始めた。
「はぅっ⁉」
なんだよ俺‼ はぅっ、て‼
「ご、ごめん‼ 思った以上にくすぐったかった……」
うわぁ、引かれてるわぁ……。
風呂から出て羽しまうのさえ忘れて部屋に戻る。
「あー、やっちまった……気色悪いよなあれは……」
はぅっとか……
【気色悪いというよりエロかったわね】
お前なぁ……
ため息をついていると部屋の扉が開いてソウルが入ってきた。
「どうしたんです?」
「……傷心中」
「何があったんですか」
事情説明。
「なんだそんなことですか」
「そんなことと言われたらそうなんだけどさ……」
喘ぎ声みたいなのが漏れたのが自分的にショックだった。
しかもそれを子供に聞かれるという。
「っていうかイベルとお風呂入ったんですか?」
「? 変か?」
「僕だってまだなのに……」
「…………」
ごめん。フォローの仕方がわからないや。
いや、まぁ一緒に入ったと言うか偶々イベルが俺の入ってるときに来てしまっただけというか。
「狙って入った訳じゃないけどね」
「じゃあ僕もそうしますかね?」
「俺は……別にいいけど」
「い、いいんですか」
「……言い出したお前が赤面するなよ」
ただ、
「メイド達が通さない気がするけどな……」
「ああ……」
それともう一人、
【そんなことしたら私がぶっ殺すわよ】
恐ろしいこと言うなよ……。
「それでブランさん。今日はどうします?」
「今日はまだ大丈夫。ありがとう」
「いえ。必要になったら呼んでください」
パタン、と扉がしまる。少しだけ仕事をしてから俺もすぐに寝た。
次の日の朝、軽く体を動かしているとライトが走ってきた。
「おはよ」
「おはようございます。あの、お耳にいれたいことが」
「ん? どうした?」
ライトは神妙な顔をして何枚かの紙を渡してきた。
「街道がおかしいとおっしゃっていたので調べたんです」
「おお、ありがとう」
「いえ、で、それで妙なことに気がつきまして」
パラパラと捲ってみると魔物が減少傾向にあるということがわかった。
「減ってるならいいじゃないか」
「そうとも言えないのです」
その言葉の意味はその次のページにあった。
「魔族の大陸で突然増え始めてるのか……?」
「はい。それも強力なものが多数。非常に危険です。もしそれが人間国に流れてきたら……」
そいつはヤバイな。確か男性Aの話では負のエネルギーが集まって魔物になるって言ってた……そうなりそうなことは俺が止めてきたつもりだったがまだ足りないのか?
「わかった。とりあえず調査は続行、何かあれば逐一報告を」
「承知いたしました」
また面倒なことになるかもしれないな……。




