七十九日目 そんなに変な格好かな
ーーーーーーーーーー《イベルサイド》
「はぁっ⁉ はっこくのブラック⁉」
友達に白黒のブラックって知ってるって訊いたら凄い顔をされた。
「おまえ、しらないのか」
この子はおれよりも大分年上。というか同い年の子とは話が通じない。だっておれまだ二歳だよ?
しかもここまで子供っぽくないことを誰も気にしない。
「えーゆうだぞ、えーゆう‼」
えーゆう? ……あ、英雄か。
「なんでえいゆう?」
「はっこくがたたかってくれるから、とうさんかえってきたし」
「どういうこと?」
砂場で砂のオブジェを作りながら話す。
「なんかはっこくがしき? をするとどんなせんそうでもかてるんだって」
なにそれ、どんだけ凄いんだよ。
あー、でも総司令官とか言われてたしな。本当にそうなんだ。
「つよいの?」
「つよいんだってー。まえのせんそうなんかいっしゅんでまぞくのぐんたいをドカーン! ってこおりづけにしたらしいぜ」
そうなんだ……? あれ? でもいつも魔法とかは他人にやってもらってるけどな?
手紙を開けるのさえピネに頼んでるし……
「おれもいつかあんなカッコいいおとこになるんだ」
「おとこのひと?」
「? おんなってきいたことはないぞ?」
女には見えないよな……昨日はお姫様抱っこで帰ってきてたけど……。
「あ、そろそろかえらなきゃ。じゃあなイベル」
「ばいばい」
お家の人が来たのでその子は帰っていった。
おれも暇だし帰ろうかな……
「イベル。今から帰り?」
突然上から声をかけられた。見上げると、落ち着いた色のワンピースを着た黒目黒髪の女の人がいた。
「え、あ、うん……」
「そうなんだ。じゃあ家まで一緒に行こうか。忘れ物しちゃって」
ほんの少し舌を出す。その仕草に心臓が高鳴った気がした。
差し出された手を握って歩いていく。そもそもこの人誰だろう……?
「えっと、その」
「ん? どうかした?」
「なんでいえをしってるの?」
「あはは、なにそれどういう意味?」
クスクスと笑うとサラサラの黒髪が風に揺れる。
「そこまで方向音痴じゃないよ~?」
肩を竦めてにっと笑ってくる。茶色の可愛らしいブーツの踵をならしながらやっぱり真っ直ぐに家に向かう道を進んでいく。
この人何者⁉ ブランたちの知り合い⁉
「ほらちゃんと着いたでしょ?」
家を見せびらかすように胸を張る。少し小さめの胸が揺れた。
…………可愛い。
ボーッとしていたら勝手に中に入ってしまった。
「あ、ちょっと」
先にメイドさんを通さないと家には入れないよ⁉ 直ぐに扉を開けるとメイドさん達が勢揃いしていた。
「「「お帰りなさいませ、マスター、イベル様」」」
……? マスター?
「ごめんごめん、資料忘れちゃってさ。地下室の机の一番左端の棚に入ってるから誰か持ってきてくれるか?」
「承知いたしました」
黒髪の女の人が困ったような口ぶりで話す。
……え、どういうこと?
「? どうしたんだイベル? 入らないのか?」
「え、ん? ん⁉」
「何をそんなに驚いてんだかわからんが……俺は忘れ物取りに帰ってきただけだぞ?」
「ちょ、ちょっとまって」
頭の中の整理が出来ない。
「いや、待つったって資料もらったら酒場で仕事してくるから」
「そういうことじゃなくて……なにそのかっこう」
「あ、今更? ほら、酒場って男が多いから乱暴なやつも多くてな。毎回道で会ってもバレないようにこうやって変装したりするんだよ。ま、今回はワンピース着て目と髪の色変えただけだけどな」
そんな理由⁉
「軽く化粧もしてるし女性用の香水も付けたからな。普段の俺とは分かりにくいかなぁ、と」
いやもう全然判らないよ⁉
言われるまで気づかないでしょこれ‼
「マスター、資料です」
「お。ありがとう。じゃあ行ってくる」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
ーーーーーーーーーー《ブランサイド》
「なんか今日のイベル変だったな……?」
家の方向知ってるのかって、知ってるに決まってるだろ。一応俺の家だよ。
……ま、いいか。酒場はこっちだっけか。
「あ、あったあった」
中に入るとカランカラン、と小さくベルの音がなる。
奥の左端の席に座ってリュークトル(酸味少なめのオレンジジュースみたいな味がする果実水)を頼むと髭面のマスターが目を細めてこっちを見た。
「久し振りじゃな、白黒の」
「ええ、お久しぶりですね。ここ最近は忙しくて休業していたので」
「再開ということか」
「ゆっくりとって感じです。ご存じかとは思いますが、戦争の事後処理などにも引っ張り出されていたものですから」
リュークトルを冷やしていた瓶ごとコップと一緒に渡してくれた。
「おいくらで?」
「500アルクじゃ」
「はい」
お金を渡してマスターと話していると机にナイフが突き刺さった。
「おい、お前が白黒だな?」
「ええ」
「手荒な真似はしたくない。大人しく同行しろ」
「これを手荒と言わずなんだというんです?」
笑顔で応じるとスキンヘッドの大柄な男が三人囲いこむように周りにいた。
「そもそもお仕事はここでしか受けられません。そちらに赴かなければならない理由もないでしょう?」
「悪く思うなよ」
「ええ、お互い様に、ね?」
椅子から立ち上がり、前につき出された拳をつかんで逸らし、後ろにいるやつに当ててその勢いのまま懐に飛び込んで足払い、最後に残っている一人に軽く発剄を食らわせる。
「なっ⁉」
「これでもそれなりに体術は心得ております。並大抵の人には負ける気はしません」
一人だけ足払いのみの攻撃で意識を保たせたのには理由がある。
「この机の弁償、していただけますよね?」
マスターに迷惑かけるわけにはいかないんだよ、場所を借りてる身からすればな。
「わ、わかった……」
「はい、ありがとうございます」
言質はとった。もう知らん。マスターもこいつらに請求してくれ。
「いつもそうじゃがもう少し手加減してやっても」
「これぐらいが丁度いいんですよ。周囲への牽制にもなります」
「ここは戦場ではないのじゃがな……」
俺だって軍人じゃないもーん。
「もし、君が白黒のブラックか?」
「そうですが」
「情報を買いたい。詳細はそれに」
封筒を渡されたので読んでみる。中には数枚の便箋が入っており、誰かから誰かにあてた手紙であることがわかった。
一番最後の便箋にはこの送り主を探してほしいという旨が書かれていた。
「貴方は使いの方ですか?」
「そうだ。主人から金銭を預かっている」
「そうですか……」
手紙には名前などは一切なく、ただ近況報告が延々と書かれていた。これじゃあちょっと材料が少なすぎるな……。
「これ以外になにか情報はありますか?」
「いや、それしかないと言っていたな」
「そうですね……これなら相当時間も値も張ってしまいますが?」
「何故?」
「簡単に言えばこれが誰とハッキリ特定できる内容ではないので。畑を耕して芋がたくさんとれた、とかは割りとどこでも当てはまりますし」
かなりの地域で干ばつがあったために不作だらけで、みたいな年ならまだ絞り込めるが、今年はどの地域もそれなりに豊作だ。
それに年齢も外見も一切の記述がない。これで見つかれば奇跡だろうと思えるくらい。
「少なくともウルク単位にはなりますね」
「う、ウルクっ⁉」
「それぐらい難しいです。これ、届いてから大分時間たっていますよね?」
「何故それがわかる?」
「インクの掠れ具合で何となく。なので紙についた臭いでも捜索はできませんし、インクや紙も何処にでもある普通のものなので」
字体からして平民だとは思うけど。
「ですので正直これは厳しいですね」
国の名前すらもないから。




