三十八日目 TR-43
「あの、こんなの届いたんですけど心当たりあります?」
クルッと振り向いたら皆驚愕の表情をして俺の方を見ていた。
え、なに? 俺なんかした?
『あんたが強すぎてビビってるのよ』
え、そういうことなの?
「お前………」
「え?」
「めっちゃ強いじゃん!」
その言葉を最初に、子供たちがキラキラした目で近づいてくる。
…………? なんか、今………凄いゾッとした。
子供たちが怖いとか人が苦手とかそういうんじゃなくて、こう、トラウマに近いなにかだ。
考える間もなく子供たちが俺に詰め寄る。
「今のどうやったの?」
「冒険者って強いんだね!」
「それ格好いい!」
俺の動きを真似て遊んでいる子供もいる。なんなんだ、これは。
【貴方の住んでいたところがどうなのかはしらないけど、これが普通なんじゃないかしら? 圧倒的な力を見たら誰もが考えるわよ、取り入るか逃げるかってね】
子供たちは弱いと思っていたから俺を遠巻きに見ていたのか。この世界では『弱い』ということは『非難の対象』になることなんだろう。
いっそ潔いくらいの弱肉強食だ。
「これ、なんていうの?」
「これはトンファーっていう武器だよ。ここで相手の攻撃を逸らしたりするんだ」
「触っていい?」
リリスに目線を送る。
【吸わないから安心しなさい】
「いいよ。重いから気をつけてね」
「うん!」
持った瞬間、落とした。
「え? ん、ぅんー⁉」
「ははは」
やっぱり重かったか。そりゃそうだ。それ片手分だけで20キロはある。
神鋼はとてつもなく重いがその分硬く、それでいて加工しやすい上に魔力の通りがいい。
本当にネックなのは重さと修理のやりにくさだろう。
「重いー」
「まぁ、俺も最初はちょっと苦労したけどね。今では普通に使ってるよ」
リリスを腰に戻して目の前の男の子に話を聞く。
「3日くらい前に木登りでもした?」
「え? うん」
「その時、こんな形の木に上った?」
「うんうん」
「これ、どこにあった?」
「裏森で」
「ォオ…………」
裏森、ってことは直ぐ其処ね。うん。急ごう。っていうかもうちょっと不味いかもしれんな。
「ライト、レイジュを起こしてここに連れてこい。それで町の警備にあたれ。俺の予想じゃ、もうトレントは移動を始めてるだろう」
「御意。子供を守ればよろしいので?」
「ああ。それとこれの送り主もそれとなく探ってくれ。第一に優先するのは町の安全だということを忘れるな」
「はっ!」
レイジュならブレスとかで応戦もできるだろう。多分ソウルもそこにいるだろうから一緒にいてくれると思う。
「ピネ、リリス! 俺らは直接殲滅しに行くぞ」
【ふふ、そういう血の気の多い選択、嫌いじゃないわよ?】
『わかったわ‼ でもリリスって誰⁉』
「武器の名前。走るから捕まってろよ!」
俺たちは慌ただしく各々の任務を開始した。
『殴って倒すの?』
「効率が悪いだろ。ちょっとくらい無駄遣いしても大丈夫なくらいにはポイントあるからな。ま、見てなって」
空気を靴の裏から噴射するように魔法をかけ続けながらポイントショップを開き、その中からとある武器を買った。
ポイントショップでは長さが15センチくらいしかないナイフとか、数回使っただけで壊れる盾とか、とりあえずとてつもないくらい性能が悪い武器が揃っている。
だが、ただひとつ。その項目だけは絶対に裏切らない、そんな武器があった。それが、
「TR‐43、ブラックモデルだ」
『なにそれ』
ファンタジーに似つかわしくないそのフォルムは真っ黒のマシンガン。ゲーム内で唯一現代っぽいものだと思う。
これはゲームオリジナル武器で、遠くから撃てるタイプのものに比べると射程はそれほど長くはないが意外とあてやすく、使用者も多い。
ゴーグルに弾の残量が表示された。今は満タンなので350発は撃てる。
ただ、これあんまり威力はない。所詮ショップ品なので致命傷にもいかない。………弱点をつけば別だが。
だから俺は躊躇なく弱点である魔石を全て壊していこうと思っている。温度高い所狙えば多分大丈夫なはずだ。
もしこれの攻撃が通じなくとも色々と方法はある。足止めくらいにはなるだろうし。
サイレントという魔法を予めTR‐43にかけておく。これをやっておかないと発砲音で居場所バレバレになるしな。
っ、来る。
前方、トレント三体。
………木に上って仕掛けるか。グッと跳躍して高い所の枝を掴み、右腕の腕力だけで枝に飛び乗る。我ながら気持ち悪いほどの運動神経のよさだ。
構えて連続で引き金を引く。
パキン。パキン、パキンッ! 三連続で魔石に命中したみたいだ。良かった。
どんどん進む。道中トレントと戦いながらポイントを稼いでいった。
何回目か判らないパキンという音を聞いた直後、嫌な臭いが立ち込める。
「うっ………」
マフラーを鼻の上に持ってきて臭いを防ぐ。毒や熱気なんかも防げるこのマフラー、本当に凄いと思う。
臭いの主は、エルダートレントだった。しかも既に毒化済。おいおい、これじゃ触らなくても進行毒感染が広がるじゃねーか。
「ピネ、この毒を町に飛ばないようにしてくれ」
『おっけー』
風魔法で空気の流れを弄ったようで、あっちには流れていかないようになっている。
「ゴラゴラゴラァ!」
「相変わらず気持ち悪い声だなっ‼」
引き金を引いたが、流石はエルダートレント。分厚い皮に阻まれて全然TR‐43が効かなかった。
けど、その周りにいる普通のトレントには効くからな。目一杯やらせてもらうよ。
マシンガンは連射ができるというのが特徴だが、こういう相手には一発一発確実に狙った方がいいかもしれん。
トレントには痛覚がない。辛うじてそれっぽい反応はするけど魔石に直接攻撃しなきゃ中々ダメージが通らない。
「だったら、片っ端から撃ち込んでやるよ!」
ショップで追加購入して両手でトレントの軍勢に撃ち込んでいく。勿論そんなんでは当たらないが脅しにはなるし、痛みはなくとも衝撃は伝わるはずだ。
「っ、リロードッ!」
最初から撃っていた方が弾切れした。直ぐに補充したが、その間にほんの少し進まれていた。
数の、力か………。以前リリスが言っていた事に今なら共感できる。
「……ヤッベ」
トレント軍勢、その数約2万。対するは人間、俺一人とピネ。ピネは今魔法を使っているから実質俺一人でこのトレント相手取れと?
…………詰んでね?
五人目、ツンデレ精霊ピネです。
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ピネ
風の中級精霊。主人公が精霊に好かれにくい体質(理由はよくわかっていない)なのに唯一契約してくれた根は優しい精霊。
いつもどこかしら抜けている主人公のツッコミ役で頭がいい。だから主人公の言うことを聞かずにたまに勝手に行動してしまう。
主人公のことは恋愛対象ではなくどちらかと言えば保護者感覚で接しており、ツンデレは親バカの証。
ネーミングセンスが壊滅的。たまに突然子供っぽくなる所があるが、そういうときはソウルが大抵フォローしている。
ソウルとは仲が良く、主人公も知らぬ間に二人で世間話に花を咲かせているときがある。その間主人公はぼっち。




