三十九日目 ファーストラウンド
いやいやいや、これはマジでヤバイ気がする。
「増えすぎだろ……」
ゴーグルには赤い光点が大量にある。もうこれ重なりすぎてて邪魔なくらいに塗りつぶされている。
どうしろって言うんだよ。二万対一って漫画かっ‼
いや、漫画なんてほぼ読んだこと無いけど………。
「どないしょう……?」
倒す方法はあるけど、ここは町から割りと近い。それだけじゃなく森全部吹き飛ばしちゃうくらいの威力は出てしまう。最終手段にしておこう。
ここで俺の攻撃手段をおさらいしてみよう。
まず魔法。山火事は避けたいから火は無理。広範囲に影響を及ぼして森が吹き飛びそうだから範囲が広い魔法も使えない。となると拡散もできない。
「ここが開けた場所だったらいいのに………」
木々が邪魔してTR‐43でも狙いにくい。それに弾もタダじゃない。リロードの時間とかも考えるとあまり乱発はできないかもしれん。しちゃったけど。
さっき大量に撃ち込んだのはあっちに警戒させて俺の方に戦力を集めるためだったんだが、やらなくて良かったかも。
だって二万ですよ? 冗談きついぜ。ハハッ………笑えねぇ……。
そしてリリス。ただ、今は状態異常を回避するために自分に魔法をかけてるけど、それは間接的なものを防ぐためのものだ。
水飛沫に耐えられる携帯が水に浸かっても大丈夫か、と言われたら、そんなことはない。そういうことだ。至近距離で毒を浴びて無事だとは言い難い。
後の得物は、めっちゃ短いナイフと暇潰しで作った手榴弾二発。これでどう戦えっちゅうねん。
「ゴラゴラゴラァ!」
「うっわぁ………完全に目ぇつけられてる………」
『なに当たり前のこと言ってるのよ』
TR‐43のマガジンを交換する。
今のところ攻撃手段はこれぐらいしかない。マシンガンを握ってるからルーンも使えないし、詠唱するのは中々集中が必要だ。
木陰から顔をだした瞬間、玉みたいなのが飛んできて直ぐに引っ込める。それは目の前を通過し、近くの石に当たって、変な音を立てながら石が溶けた。
毒液………しかも侵食が早いやつだ。
この世界に来て、初めて死というものにしっかり向き合っている気がする。TR‐43がほんの少し震えた。
「行くぞ、ピネ。振り落とされるな」
『大丈夫よ。町は風で守ってるから安心して戦いなさい』
「さんきゅ」
地面を蹴って予め目星をつけていたトレントの塊に銃弾を撃ち込んでいく。毒液や何かの種みたいなのが射出されるけど今の俺からしたら向かってくるナメクジみたいな鈍さだ。
ただ心配なのが敵が多すぎてエルダートレントがどっか行っちまったこと。紛れられると判らない。
毒液の発射は普通のトレントでも出来てしまうところがまた厄介だ。
飛び上がって後ろの集団にも弾幕の雨を降らす。木があって助かった。足場はいくらでもある!
たまに木に擬態してやり過ごそうとしているトレントもいるが、木に体温というものはない。熱源を見ることができるゴーグルには敵わない。
俺の着地してきたところを狙って毒液が発射されるが、ピネが風でかからないように後方に流してくれる。
「まだいけるが………これがいつまで続くか」
木の影に隠れてリロード。プラスチックの空箱は地面に落ちた瞬間に消え去った。どういう原理だろう? ま、後でいいや。
せめて、やつらにだけ攻撃が効かせるような魔法があれば………ん? いや、あるかも。
思い出せ、思い出せ、思い出せ……駄目だ。こういうときほど何も浮かばない。
何て言ったらいいんだろう。ああ、そうだ。テストの回答用紙を前にして答えはわかってるのに漢字が思い出せないとかそんな感じ。
『なかとみのかまたり』ってどうやって書くんだったっけ? みたいな。
不味いな………今は優勢だけど何がどう作用して状況がひっくり返るかも判らない。
「ぁあ、ど忘れした………」
幸いまだマガジンには余裕があるけど中々厳しい。でもここにいるのがソウルじゃなくてよかった。あいつ細かい魔法操作上手いけど連発は苦手だから。
仕方ない、一気に攻めるしかない。
覚悟を決めてまた飛び出す。ヒットする度にパキンという音がなってポイントがどんどん増えていく。視界の端にログが表示される。
「ああ、邪魔くさいっ!」
そういった瞬間、ログの表示が消えた。
「へっ⁉」
俺今操作してないよ………ね?
【来るわよ!】
「っ」
消えたログに面食らって動きが止まってしまった。危ない。正面から毒を被るところだった。
ただ、避けきれずにTR‐43にかかってボロボロと崩れ落ちていく。
「TR‐43がっ!」
『だからその名前長くない⁉』
撃ち込んでいた物が一個減るとか冗談きつい。仕方ないから右手にあるもう一方の方を両手で持って一体一体確実に倒していく。
その時、トレントが突っ込んできた。正面から。
「突進してくるなんて聞いてねぇよ!」
ここはゲームじゃないのは判っているけどそう言いたかった。バックしても無駄。だから横にあった木を使う。
深く踏み込んでジャンプし、木の側面を走るようにしてそれを避け、後ろから魔石を撃った。
基本の動きにもなっている壁走りだ。壁じゃなくて木だけどな。そのままの勢いで他のやつらも狙う。
その瞬間、上から叩きつけられるようななにかが俺にのし掛かる。
「ぐぁっ………⁉」
ずしりと覆い被さるなにかに耐えきれず膝をつく。
これ、闇魔法の重力操作だ。トレントがこれを覚えるなんて聞いたことがない。だから油断していたのかもしれない。
俺も咄嗟に空いている左手でルーンを書いて魔法の効果を打ち消す。だが、そこには致命的とも言える隙が出来てしまった。
「ゴラゴラゴラァッ!」
「ヤッベ!」
顔をあげたらもう目の前に居た。魔法は間に合わない。さっきの重力操作でTR‐43も壊れてしまった。俺がとった行動は、
「爆ぜやがれッ!」
超至近距離での手榴弾爆発だった。
ドゴンッ! そんな音がして俺とトレントのちょうど中間辺りで手榴弾が破裂する。
「うぁっ⁉」
勿論俺にもダメージは入ってしまったが、最悪の状況は免れた。ナイス手榴弾!
受け身をとりながら後方に下がり、それ以上吹き飛ばされないように地面にリリスを突き立てて爆風に耐える。
あの手榴弾、実はめっちゃ強い。星操りシリーズの防具を着込んでいる俺ですらダメージが通るんだから、その威力はかなりのものになっている。
「今のでかなり削れてくれたか………」
辺り一帯はちょっと悲惨なことになってしまった。ごめんなさい。
だが寧ろ。
「これで、俺も本気が出せる」
両手を出してルーンを空に描く。ここからが本番だ。
「さぁ、セカンドラウンドといこうか」
俺もお前らも隠れる場所はない。ここからが本当の実力勝負。恨みっこなしの命のやり取り。
恐い。正直に言えば恐いに決まってる。けど、俺はここを引くわけにはいかない。日本に帰るためにも、逃げちゃいけないんだ。
六人目、魔神のリリスです。
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リリス
もとは魔神。一応人のかたちはしているが魔物に分類される。主人公が唯一本気で敵にしたくない相手。
戦闘能力は主人公をも上回り、魔法の腕もトップクラス。主人公も一回目は勝てずにゲームの中で死に戻った。
魔物の中では最強。武器破壊という特性を持っていて、破壊不可でなければ大抵の武器はさわっただけで壊される。
触ったものを石化させることもでき、無機物でも石化可能だが時間制限があり、体力も相当消費する。
ヤンデレお姉さん。年に一度命日の日だけは限定的に主人公の力を借りずにもとの姿に戻れる。それ以外の時に戻ろうとすると主人公の魔力半分が削られ、戻れるのも数分だけ。
お酒大好きで特にシャンパンやワインが好き。主人公の酒を飲み干すのが趣味。




