第二十八話 暁の一輝
第六章 鬼の章
第二十八話 暁の一輝
朱天が地を蹴った。
速い。
桃華が聖剣を構えた時には、狂剣の刃が眼前まで迫っていた。
「――っ!」
甲高い音が響く。
聖剣と狂剣が噛み合った。
「くっ……!」
桃華の足が岩床を滑る。
朱天はそのまま力を込めた。
「どうした、桃華。」
「まだ……!」
桃華は聖剣を押し返す。
刃と刃の間から火花が散った。
「始まったばかりです!」
身体を捻り、狂剣を受け流す。
そのまま横薙ぎ。
朱天が身を反らした。
聖剣の切っ先が、漆黒の甲冑を掠める。
「ほう。」
朱天は一歩下がり、自らの胸元を見る。
浅い傷。
しかし――。
「やはりな。」
朱天は笑った。
桃華が眉をひそめる。
「何がです。」
「その程度だということだ。」
朱天は狂剣を構え直した。
「聖剣は邪を鎮め、屠るためのもの。
「私は暁の化身、邪ではない。」
朱天が消えた。
「桃華!」
蜜秋が叫ぶ。
右。
桃華が振り返る。
狂剣。
ガンッ!
如意棒が割って入った。
「危ないなぁ!」
蜜秋が如意棒を押し込む。
朱天は狂剣で受け止める。
「斉天大聖。」
「今は蜜秋!」
「どちらでもよい。」
「僕には大事なの!」
蜜秋は如意棒を軸に身体を浮かせ、そのまま朱天の顔面へ蹴りを放った。
朱天が腕で受ける。
その隙に桃華が踏み込んだ。
一閃。
朱天の肩口を聖剣が斬り裂く。
だが――。
血は流れない。
傷口から朱色の光が漏れ、瞬く間に塞がっていく。
桃華が目を見開く。
「傷が……。」
「言ったであろう。」
朱天が狂剣を振るう。
桃華と蜜秋が左右へ飛んだ。
「その剣で私は倒せぬ。」
◇
洞窟の別の場所。
雷光が闇を切り裂いた。
「ぬおおおおっ!」
金時の大斧が振り下ろされる。
左臣は二本の黒刃を交差させ、それを受け止めた。
轟ッ!
足元の岩が砕ける。
「ぐっ……!」
「どうした!」
金時がさらに力を込める。
「おぬしの主のところへ行かねばならんのでな!」
「行かせぬ!」
左臣の身体から闇が噴き出す。
金時の視界が再び黒く染まった。
「またこれか!」
「闇の中で、我を捉えられるか!」
声が四方から響く。
金時は大斧を構えたまま、目を閉じた。
「ならば――」
金色の髪が逆立つ。
パチッ。
パチパチッ。
「闇ごと吹き飛ばせばよかろう!」
大斧を地面へ叩きつけた。
轟ッ!!
雷光が洞窟を埋め尽くした。
闇が一瞬にして消し飛ぶ。
「なっ――!」
姿を現した左臣。
「そこじゃ!」
金時が踏み込む。
左臣も逃げなかった。
二本の黒刃を構える。
「来い!」
大斧と黒刃が激突した。
一瞬。
左臣の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「見事。」
次の瞬間――。
金時の大斧が黒刃を砕いた。
その勢いのまま、左臣の身体を薙ぎ払う。
「……朱天様。」
左臣の身体が、ゆっくりと黒い霧へ変わっていく。
金時は大斧を下ろした。
「最後まで主を想うか。」
左臣は答えない。
ただ、消えゆくその顔はどこか穏やかだった。
「……見事な忠義じゃ。」
金時は一度だけ頭を下げた。
そして走り出した。
◇
その頃――。
右臣の炎と凰の炎が洞窟を赤く染めていた。
「はあああっ!」
右臣が炎の刀を振るう。
凰は扇で受け流す。
一撃。
二撃。
三撃。
火花が舞う。
「なるほど。」
凰が笑う。
「業火が効かぬと分かれば、剣技で挑むか。」
「我は朱天様の右臣!」
炎の刀が凰の頬を掠める。
「化身の力だけに頼ってきたわけではない!」
「気に入った!」
凰は大きく後ろへ跳んだ。
扇を広げる。
「ならば妾も、敬意をもって応えようぞ!」
背後に巨大な炎の翼が現れる。
右臣はそれを見上げた。
「……鳳凰。」
「凰じゃ。」
炎の翼が羽ばたいた。
無数の火の粉が、鳥の形へ変わる。
右臣も炎の刀を構える。
「参る!」
「来い!」
右臣が突進した。
凰も扇を振り下ろす。
炎と炎。
二つの力が激突した。
轟――ッ!!
洞窟が揺れた。
炎が消えた時。
右臣は凰の前に立っていた。
その手から、炎の刀が消える。
「……美しい炎だ。」
凰は黙って右臣を見る。
右臣の身体が炎へと変わり始めた。
「朱天様……。」
「…………。」
「どうか……。」
最後まで言葉にはならなかった。
炎が舞い上がり、消えていく。
凰は扇を閉じた。
「うぬも見事であったぞ。」
そして、最深部を見た。
「さて、急ぐかの。」
◇
轟音。
桃華の身体が地面を転がった。
「桃華!」
「大丈夫です!」
聖剣を地面へ突き立て、立ち上がる。
朱天はまだ息一つ乱していない。
蜜秋が如意棒を伸ばす。
「伸びろ!」
如意棒が朱天へ迫る。
朱天は狂剣を横に構えた。
激突。
その身体が後方へ押される。
「今!」
桃華が駆ける。
聖剣を両手で握り――。
振り下ろす。
朱天は狂剣で受け止めた。
「無駄だ!」
「無駄ではありません!」
桃華は叫ぶ。
「あなたを倒すことだけが、戦いではありません!」
朱天の表情が変わる。
「まだ、そのような甘いことを!」
「甘くて結構です!」
桃華は力を込める。
「私はあなたの話を聞きました!
あなたが何に苦しみ、何を求めていたのかも!」
「ならば分かるであろう!」
朱天が聖剣を弾いた。
「私が正しいと!」
「いいえ!」
桃華は後退しながら叫ぶ。
「あなたが抱いた疑問が間違っているとは思いません!」
朱天の動きが止まった。
「……何?」
「神と化身は何が違うのか。
なぜ化身は神々に仕えるものとされるのか。」
桃華は聖剣を構え直す。
「私には、その答えは分かりません。」
「桃華……。」
「だから、天界へ帰って問いましょう!」
桃華は一歩踏み出す。
「太陽神様にも!
月神様にも!
素戔嗚様にも!
みんなで答えを探せばよいではありませんか!」
朱天の顔が歪んだ。
「今さら――!」
狂剣が振り下ろされる。
桃華が受け止める。
「今さら何を話せというのだ!」
「何度でも!」
「黙れ!」
「何度でも話せばいい!」
「黙れ!」
朱天の身体から朱色の光が爆発した。
桃華が吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
「桃華!」
蜜秋が受け止めた。
二人は地面を滑る。
朱天の呼吸が初めて乱れていた。
「……今さら。」
狂剣を握る手が震えている。
「もう、戻れぬ。」
背後の要石から黒い瘴気が噴き出す。
「私は天界を黄泉へ繋いだ。」
亀裂が広がる。
「地上も間もなく黄泉へ沈む。」
朱天は桃華を見る。
「どれほど言葉を重ねようと、もう遅い!」
蜜秋が桃華を立たせる。
「そうかな。」
朱天が睨む。
「何?」
蜜秋は如意棒を肩へ担いだ。
「五百年、山の下にいた僕からすればさ。」
ニッと笑う。
「やり直すのに遅すぎるなんてこと、ないと思うけど。」
「貴様に何が分かる!」
「分かるよ!」
蜜秋の声が洞窟に響いた。
朱天が息を呑む。
「天界が憎かった!」
如意棒を握る手に力が入る。
「偉そうに命令する神様も!
僕を猿だって馬鹿にする連中も!
全部ぶっ飛ばして、自分が一番偉いって認めさせたかった!」
「…………。」
「だから分かるんだよ!」
蜜秋は朱天を真っ直ぐ見つめる。
「お前が今、どこにいるのか!」
朱天は答えない。
「その先に何があるのかも!」
「ならばなぜ!」
朱天が叫ぶ。
「なぜお前は、私の側に立たぬ!」
蜜秋は少し寂しそうに笑った。
「その先まで行っちゃったからだよ。」
「…………。」
「僕には三蔵様がいた。」
蜜秋は遠い昔を見るように目を細める。
「ブタも、カッパも、白龍もいた。
五百年動かなかった景色が、毎日変わった。
腹減ったり、喧嘩したり、妖怪に襲われたり。」
小さく笑う。
「大変だったけどさ。
旅って楽しかったんだ。」
朱天は黙っている。
「世界は、自分が思ってたよりずっと広かった。」
蜜秋は如意棒を構え直す。
「だから僕は今、また旅をしてる。」
桃華を見る。
「この子たちと。」
「…………。」
「お前も来ればいいじゃん。」
朱天の目が見開かれた。
「何……?」
「神様になれるかどうかなんて、一回置いといてさ。」
蜜秋は笑った。
「世界、見てみなよ。」
朱天の狂剣が僅かに下がる。
その時だった。
バキッ。
大きな音。
三人が要石を見る。
亀裂。
要石の中央に、巨大な亀裂が走っていた。
黒い瘴気が噴き上がる。
朱天の表情が変わる。
「……遅い。」
蜜秋の笑みが消える。
「何?」
「言ったであろう。」
朱天は再び狂剣を構えた。
「もう手遅れだと。」
ゴゴゴゴゴゴ――!
洞窟全体が激しく揺れ始める。
黄泉の闇が床を這う。
桃華が聖剣を見る。
その刀身が激しく震えていた。
「聖剣が……。」
「桃華!」
朱天が地を蹴った。
「――っ!」
桃華は聖剣を構える。
朱天の狂剣。
一撃。
二撃。
三撃。
桃華は必死に受ける。
「くっ……!」
朱天の攻撃が速くなる。
蜜秋が横から如意棒を振るう。
「させない!」
朱天は身を沈めてかわす。
狂剣を返す。
蜜秋が如意棒で受けた。
ガンッ!
「重っ!」
「斉天大聖!」
「だから蜜秋だって!」
如意棒と狂剣が激しく打ち合う。
桃華も加わる。
三つの武器が火花を散らす。
だが――。
朱天の身体から放たれる光が、さらに強くなっていく。
要石から溢れ出す黄泉の力。
それを吸い上げるように、朱天の暁の光が増していた。
「まずい。」
蜜秋が呟く。
「こいつ、強くなってる。」
朱天が狂剣を薙ぐ。
衝撃。
蜜秋が吹き飛ぶ。
「蜜秋!」
桃華が振り返った。
その一瞬。
「戦いの最中に――」
朱天が桃華の眼前に立っていた。
「よそ見をするな。」
狂剣が桃華の聖剣を弾き飛ばした。
聖剣が宙を舞う。
カラン――。
遠くの岩床へ落ちた。
「――!」
桃華が息を呑む。
朱天は狂剣を両手で握る。
振り上げた。
「終わりだ。」
蜜秋が顔を上げる。
「桃華!」
如意棒を伸ばす。
だが――。
間に合わない。
朱天の狂剣が振り下ろされた。
その瞬間。
――斬ッ。
「……?」
朱天の動きが止まった。
狂剣の切っ先は、桃華の目前。
あと僅か。
しかし、それ以上動かない。
朱天が自分の胸を見る。
漆黒の甲冑に、一筋の亀裂。
次の瞬間。
甲冑が斜めに裂けた。
朱天の身体から鮮血が噴き出す。
「ぐっ……!」
桃華が目を見開く。
蜜秋も言葉を失う。
「誰……?」
朱天の背後。
いつの間にか――。
一人の鬼が立っていた。
美しい黒髪。
額から突き出す二本の角。
その手には、一振りの刀。
刃には朱天の血が滴っている。
女は静かに刀を振り、血を払った。
「……大通連。」
朱天が掠れた声で呟く。
女は薄く笑った。
「久しいのう、朱天。」
「鈴鹿……御前。」
鈴鹿御前。
天女とも称される、鬼を裏切り、鬼に仇なす鬼姫。
朱天は胸を押さえながら振り返る。
「なぜ……。」
鈴鹿御前は大通連を肩へ担いだ。
「なぜ、じゃと?」
その目が鋭くなる。
「鬼がすべて、世が闇へ堕ちることを望んでおるとでも思ったか。」
朱天は何も答えない。
「我ら鬼とて、日の光を愛で、月の下で風流に酒をあおるものよ。」
鈴鹿御前は静かに言った。
「⋯⋯鬼は人の敵じゃ。
それは否定はせぬ。」
大通連を下ろす。
「人を襲い、人を喰らい、人に災いをなす。
それが鬼じゃ。」
一歩、朱天へ近付く。
「じゃがな――
妾のように人の中へ紛れ、人と共に生きることを選んだ鬼もおる。」
朱天が鈴鹿御前を見る。
「そもそも鬼とは何じゃ。」
鈴鹿御前は自嘲するように笑う。
「鬼は人の恐れより生まれ、憎しみより生まれ、邪な想いより生まれる。」
桃華は黙って聞いていた。
「ならば――」
鈴鹿御前は朱天を見据える。
「人こそ鬼とは言えまいか。」
「…………。」
「じゃが、人がすべて悪人ではあるまい。」
鈴鹿御前は大通連を鞘へ納めた。
「人とて悪人がおるのなら――」
静かな声が響く。
「鬼とて、善に生きるものもあろうて。」
朱天が俯く。
鈴鹿御前は続けた。
「生まれが鬼か、人か、神か、化身か。」
「そんなものが、その者の善悪を決めるのではない。
何を選び、どう生きたかじゃ。」
朱天は自分の手を見る。
「朱天。」
鈴鹿御前の声が低くなる。
「きさまは先ほど、自分は暁の化身であり、邪ではないと申したそうじゃな。」
朱天の目が見開かれる。
「……なぜ、それを。」
「そんなことはどうでもよい。」
鈴鹿御前は朱天を指差した。
「邪とは、牙を持ちた巨獣を恐れ、その前に跪く人々を表すともいう。
力によって人を屈服させ、恐れさせ、己を崇めさせる。きさまが今やろうとしておることは何じゃ。」
朱天は答えない。
「世界を闇へ沈め、人々から太陽を奪い、
月を奪い、
光を求める者たちに、己を崇めさせる。」
鈴鹿御前の瞳が細くなる。
「きさまの想いは、すでに邪。」
「…………。」
「気付かぬうちに――」
鈴鹿御前は静かに告げた。
「きさま自身も、鬼へ堕ちておったのよ。」
長い沈黙。
朱天は、自分の胸から流れる血を見つめた。
「……鬼。」
その言葉を確かめるように呟く。
やがて――。
小さく笑った。
「そうか。」
朱天の身体から力が抜ける。
「オレは……鬼になっていたのか。」
膝をつく。
その時だった。
一筋の光が、洞窟へ差し込んだ。
「……?」
桃華が振り返る。
洞窟の遥か向こう。
入口から射し込む光。
長い戦いの間に、夜の帷が近づこうとしていた。
青から白へ移り行く水平を切り裂くような――。
淡い朱色。
沈みゆく太陽が空を朱色に染め、その光が洞窟の奥深くまで差し込んでいる。
朱天は呆然と、その光を見つめた。
「……まるで、暁のようだ。」
自らの名の源。
自らが生まれた、夜明けの光。
桃華は地面に落ちた聖剣を拾う。
だが――鞘へ納めた。
そして朱天の傍らへ歩み寄る。
「朱天。」
朱天は答えない。
ただ、夕空を見つめている。
桃華も、その隣で空を見た。
「不思議ですね。」
「……何がだ。」
「朝と夕。時はまるで違うというのに、こうして見ればよく似ています。」
桃華は朱色に染まった空を見つめた。
「暁の化身とは、明星のようではありませんか?」
「明星……。」
「明け方には、夜から朝へ。夕暮れには、昼から夜へ。」
「同じ星が、二つの境界に輝くと聞きました。」
朱天の瞳に、夕映えが映る。
「あなたも同じなのではありませんか。」
桃華は静かに微笑んだ。
「太陽になる必要などなかった。
太陽と月。その二つの光の狭間にあって、僅かな時だけ見せる輝きだからこそ――」
桃華は朱天を見る。
「暁は美しい。
なぜ、その化身であるあなたが、その美しさを忘れてしまわれたのですか。」
朱天は何も言わなかった。
ただ、長い間忘れていたものを見るように、夕空を見つめ続けた。
やがて――。
「……そうだな。」
朱天の口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「こんなにも……。」
目を細める。
「美しかったのだな。」
桃華は黙って、その横顔を見つめた。
だが。
バキッ。
乾いた音が響いた。
蜜秋が振り返る。
「……まずい!」
要石。
巨大な亀裂が、その中心を貫いていた。
バキバキバキ――!
「桃華!」
鈴鹿御前も振り返る。
要石が崩れ始める。
亀裂の向こうから――。
光すら呑み込むような漆黒が覗いた。
ゴオオオオオオッ――!!
黄泉の瘴気が噴き上がる。
洞窟全体が激しく揺れた。
朱天は暁を見つめたまま、静かに言った。
「……もう、止まらぬ。」
桃華が振り返る。
「何を――
地上と黄泉を隔てる楔は、すでに砕け始めている。」
朱天は目を閉じた。
「私を倒したところで……黄泉への道は閉じぬ。」
桃華は要石を見る。
黒い闇が、さらに広がっていく。
その時。
桃華の腰で――。
聖剣が震えた。
「……え?」
鞘の中から、淡い桃色の光が漏れ出している。
桃華は聖剣を抜いた。
刀身が眩く輝いていた。
黄泉の瘴気へ反応するように。
強く。
強く。
蜜秋がそれを見つめる。
「桃華……その剣。」
桃華も聖剣を見つめた。
脳裏に、一人の姿が浮かぶ。
鋼の化身。
この剣を鍛え――。
最後に自分へ託した者。
「……キクニ。」
聖剣が応えるように震えた。
朱天もまた、その光を見る。
「そうか……。」
「朱天?」
朱天は自嘲するように笑った。
「私を斬るためでは……なかったのか。」
桃華が目を見開く。
「聖剣は――」
朱天は崩れゆく要石を見る。
「邪を鎮め、屠る剣。」
黄泉の闇が噴き出す。
「ならば、その剣が斬るべきものは――」
桃華は聖剣を握り締めた。
その先。
地上へ溢れ出そうとする、黄泉の闇。
「……はい。」
桃華の表情が変わる。
「ようやく分かりました。」
聖剣を構える。
「キクニが――」
桃色の光が、闇の中で輝く。
「私に、この剣を託した理由が。」
ゴオオオオオオッ――!!
黄泉の闇が、ついに要石を突き破った。
桃華はその前へ立つ。
桃の化身。
その手には、桃の破邪を宿した聖剣。
蜜秋が如意棒を構え、その隣へ立つ。
鈴鹿御前も大通連へ手を掛けた。
遠くから――。
「桃華殿!」
金時の声。
「間に合ったか!」
「妾を置いていくでない!」
凰も続く。
桃華は振り返った。
金時。
蜜秋。
凰。
ここまで共に戦ってきた者たち。
「万が一の時には、この身を楔の礎にするつもりで来たが――」
鈴鹿御前は四人を見渡した。
「どうやら、その必要はなさそうじゃの。」
桃華は再び前を向いた。
眼前には、世界を呑み込もうとする黄泉の闇。
その手の聖剣が、眩い光を放つ。
「参ります。」
――桃太郎の最後の戦いが、始まった。




