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灰色の聖域 —神が捨てた十万年の遺産—  作者: ネギ玉(仮)
第1章:黄金の鬣(たてがみ)— 飢えた狼の誘蛾灯

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第2節:砂漠の喉元

スラムの喧騒を離れ、二日ほど馬を飛ばすと、世界は一気に色彩を失う。


 かつては肥沃な大地だったという伝承が信じられないほど、目の前に広がるのは枯れた茶褐色の岩場と、細かな砂が舞う荒野だ。

この辺りの連中は、前文明の「残骸」を掘り起こして食いつなぐか、それが叶わず干からびるかの二択しかない。


「なあ、カイル。本当にこの先にそんな『お宝』があるのかよ。ここら一帯、死んだ魚の目をした浮浪者しかいねえぞ」

 ボリスが馬の鼻先を揺らしながら不平を漏らす。


「だからこそだよ、ボリス。まともな人間が近寄らない場所にこそ、先史の遺物は眠ってる。教団の古文書によれば、この先にある『砂漠の喉元』は、かつて莫大な熱を産んでいた巨大な窯だったらしい」


俺たちは道中、いくつかの街を通り過ぎた。

街といっても、錆びついた鉄骨や崩れたコンクリートを継ぎ接ぎして作った、巨大なゴミ溜めのような場所だ。


 街の中心には、動かなくなった巨大な揚水機や、用途不明の金属の塔が墓標のように突っ立っている。

人々はその影に潜み、失われた技術の恩恵を、泥水を啜るようにして享受している。

彼らの目は、明日への希望なんて立派なものじゃなく、ただ今日を生き延びるための執着だけで濁っていた。

俺と同じだ。


「……見えてきたぞ」

俺は馬を止め、懐から『千里の硝子スコープ』を取り出した。


 視界の先、砂丘の谷間にぽっかりと開いた巨大な穴がある。

それはまるで、大地が何かを飲み込もうとして開けた口のようだ。

人工的な円筒形の構造物が垂直に地中へと伸びており、その周囲だけは、不自然なほど風に舞う砂の動きが重苦しい。


俺は硝子スコープのスイッチを入れた。

 レンズの中で、景色が瞬時に「緑色の幽霊のような世界」に切り替わる。


「……っ!」

 思わず、俺は硝子スコープを離しそうになった。

肉眼ではただの暗い穴にしか見えないその場所が、硝子スコープを通すと、まるで無数の小さな蛍が狂ったように舞っているかのように見えたのだ。


「どうした、カイル。何が見える?」

 ナインが不安げに覗き込んでくる。

「……いや、なんでもない。砂がやけに反射してるだけだ」


嘘だ。

あれは砂じゃない。

硝子スコープの微弱な増幅機能が捉えているのは、空間そのものが震えているような、異様な輝きだ。


 緑色の視界の中で、遺跡の入り口付近にはいくつかの『黒い影』が転がっていた。

それはかつてここを訪れ、二度と戻らなかった先客たちの成れの果てだろう。

不気味なのは、その影たちが腐敗して崩れるのではなく、まるで干物のように乾燥し、一部の皮膚が不自然にただれ落ちていることだ。


だが、恐怖よりも欲望が勝った。

あの「光の粉」が舞う中心には、教団が欲しがる『魔法の炭』が必ずある。


 俺は硝子スコープを懐に仕舞い、腰の短剣の感触を確かめた。


「行くぞ。足元を気にするな。前だけ見て進め。黄金はもう、その喉元の奥で俺たちを待ってる」


俺の言葉に、ボリスとナインは緊張した面持ちで頷いた。


 俺たちは馬を繋ぎ、重い沈黙が支配する『喉元』へと足を踏み入れた。

背後から吹き付ける熱風が、まるで生者の侵入を拒む警告のように、俺の首筋を冷たく撫でた。

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