朝目陸という人間
何処からか聞こえる話し声に頭が刺激され重い瞼をゆっくりと開く。
?「あら、人間が起きたわ」
?「起きた起きたー!」
俺の目覚めに対して聞こえてきたのは2人の少女の声だった。
2人の少女は見知らぬベッドで寝ていた俺を見下ろすように並んで見つめている。
左に立っている少女は紫色のハーフツインをしており、それを隠すような大きいとんがり帽子を被っていた。アメジストのような輝きを持つ大きな瞳は好奇な眼差しを俺に向けている。
右に立っている少女は薄い水色のハーフサイドテールをしており、背中には見惚れてしまうような大きい純白の翼を生やしていた。ターコイズブルーの瞳は怪奇の眼差しを俺に向けている。
リク「えっと…貴方達は……一体…?」
?「それはこっちのセリフよ」
右にいた少女は眉を顰め、不機嫌そうに腕を組む。
?「いきなりウチの領域に現れて、勝手に倒れて、挙句の果てには姐さんの手を煩わせる始末」
?「アンタは一体何者なの?」
右にいた少女は俺の顔を覗き込むように自身の顔を近づける。
歳は同じくらいの見た目なのに威圧感が半端ない。
リク「おッ俺は朝目リク…です……」
彼女の威圧感に耐えられず名前を言ったが、彼女の不機嫌そうな表情は変わらず俺のことを探るようにじっくりと見ている。
?「名前なんかどうでもいいのよ、何者かって言ってんの」
?「物を売りに来た商人?ここを狙ってる盗人?乞食に来た平民?襲いに来た魔族?」
リク「え?ちッちがッ」
?「それとももしかして…マフィア軍からのスパイ?」
そう言った瞬間に彼女の纏う空気は一変した。
まるで憎いものを見るかのような瞳に変わる。
左に立っていた少女はその空気を感じたのか怯えた表情をしながら落ちつかせるように彼女の服の裾をつかむ。
殺伐とした空気が流れたその時、
?「主ー?ハルナー?少年の様子はどうだーい?」
明るい声とともにドアを開ける音が聞こえた。
入ってきたのはまたもや知らない少女。
透き通るライトブルーの髪はささやかに揺れ、深みを感じる紫の瞳は確かに俺を捉えている。
彼女は手に盆を乗せており、盆の上には見たことのない見た目の軽食が広がっていた。
?「あっ、目を覚めたんだね」
彼女はこちらに歩み寄り、近くの小さなチェストに盆を置く。
?「どう?体調は大丈夫かい?」
どこか暖かみのある優しい声。
俺を見つめる慈愛に満ちたその瞳は俺の警戒心を溶かすのには充分だった。
?「姐さん、コイツ怪しいです。きっとスパイです」
?「スパイです!」
右側の少女の言葉の一部を復唱する左側の少女。
それを聞いた彼女は困ったように微笑みながら2人の頭を優しく撫でる。
?「確かに、彼は怪しいよね。でも彼はスパイ何かじゃないさ。安心してくれよ」
?「でもッ!……」
右側の少女は何か言いかけていたが少女がそれ以上口にすることはなく二人揃って黙り始めた。
すると彼女は思い出したとでも言うような顔をして俺に向き直る。
?「あ、そう言えば名前を言うのを忘れていたね。改めて僕の名前は」
シャルラン「シャルラン。作音シャルランだ。君の名は?」
あまり聞き馴染みのないような名前に聞こえ、疑問に思ったが右側の少女の睨みのせいで何も言えなかった。
リク「僕は朝目リクです…それ以外は」
シャルラン「何も思い出せないんだろう?」
リク「え?」
シャルランさんの瞳が鋭く光る。
何故知っているのだろう。
そう、何を隠そう俺は自分の名前以外の自分に関する記憶がほぼ無いのだ。
自分がどんな人間なのかどんな性格だったのかすらも何も思い出せない。
シャルラン「まぁその話は後でするとして、ほら?2人も!」
?「……」
右側の少女はものすごく嫌そうな顔をしていたが、シャルランさんに逆らうことは出来ないのか渋々答えた。
ハルナ「ハルナ……天堕善蘭ハルナよ。言っとくけど私アンタとよろしくするつもりないから」
あからさまな態度でこっちも苛つく気持ちはあったが飲み込むことにした。
ハルナ「そんでこっちは主よ。神主マリア」
主「よろしく!!」
怪訝そうな顔をしているハルナさんとは真逆に主さんは曇ない笑顔でニパッと笑っていた。
シャルラン「よし、これで2人も言い終わったことだし恐らく君が一番気になっているであろう話に戻ろっか」
シャルランさんは両手の手の平を合わせ、俺に向かって微笑む。
シャルラン「まずはねー、…そうだ!君、自分の手の甲を見てみてくれ!」
リク「手の甲…ですか?」
俺は言われるが儘に手の甲に視線を落とす。
するとどうだろう。
なんの変哲もない手の甲のはずなのに、その手の甲には見覚えのない紋章がしっかりと刻まれていたのだ。
リク「えっ……えぇぇェェ!?!?」
俺は思わず驚嘆の叫びを漏らす。
俺の手にはまるでパズルの1ピースのような形をした漆黒の紋章が刻まれている。
ハルナ「うるさっ……」
主「うるさ〜」
シャルラン「フフッ驚くのも無理はないさ。それはね、ミチビキの加護と言うんだよ」
リク「ミチビキの加護…??」
どれも見知らぬ単語で理解が出来ない。
ミチビキ?加護?全てが未知の世界だ。
シャルラン「えっと…何処から説明しようか……」
シャルラン「まず言えるのは、君は元の世界で瀕死の状態であることだね」
リク「え?元の世界…?」
シャルラン「うん、ここはね君の世界とはまた違う世界。君にとっては異世界ってやつかな?」
シャルラン「ちなみにそのミチビキの加護ってのは2種類あってね、その黒色の加護は彼岸の加護っていうんだよ」
リク「彼岸…?異世界…?」
本当に何も理解が出来ない。
俺は元の世界で瀕死…?何故?それで何で異世界なんて所にいるんだ?
ダメだ、考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。
シャルラン「んーとね、彼岸って言うのは生と死の狭間の境界のことを言うんだ。その彼岸で加護を貰ったってことは君は死んではいないってことなんだよ」
シャルラン「本当は彼岸にきた瀕死の人間はそのまま元の世界に返されるんだけど…君の場合は彼岸に来るまでの間に記憶を無くしてしまったからミチビキの加護を貰ったんだよ」
リク「えっと…それはどうゆう?」
シャルラン「えっとねー、ミチビキって言うのは本来いるべき場所へ人を導くんだけど、君は記憶がないからね、彼岸の加護は記憶を取り戻す為に別の世界に導く効果があるんだ」
リク「あ…はい…?」
シャルラン「そしてこの彼岸の加護は変化するんだ。よく見ててね…」
混乱状態の俺を差し置いてシャルランさんは俺の手に手をかざす。
すると黒色の紋章がみるみる色を変えていく。
全てを飲み込むような漆黒は、紋章の輪郭だけを残して消えてしまった。
リク「えっ…えぇぇぇっ!?消えた!?」
シャルラン「フフッ凄いでしょ?君についていた彼岸の加護を現世の加護に変えさせてもらったんだ。これがミチビキの加護のもう一つの加護だ。」
ハルナ「凄いです姐さん。流石です」
主「さすがさすがー!!」
シャルラン「褒めても何もでないぞ〜?」
シャルラン「そしてこの現世の加護は消えた記憶を取り戻すごとに色がついていく。この色が全て埋まった時に君は元の世界に帰れるんだよ!」
リク「俺帰れるんですか!?」
シャルラン「まぁ記憶を取り戻すまでだからね…」
リク「その…記憶ってどうやって取り戻せば…?」
シャルラン「簡単な話、君はメモリーピースと呼ばれるものを集めるんだ」
リク「メモリーピース…?」
俺が疑問そうに首を傾げると、シャルランさんは自身の手を上に広げた。
シャルランさんの手からはブルーライトのような光りが広がり、光りのなかからはシャボン玉に包まれたジグソーパズルのような形の何かがあった。
シャルラン「これがメモリーピースと言うものだ。メモリーピースの出現条件はその記憶に近い体験をすることだ…まぁノーヒントだから凄く難しいけどね」
リク「そうですか…」
難しいと言われたとしても、希望が見えた気がした。
どんなに時間がかかったっていつかは帰れるということなのだから。
リク「あれ…?でも俺それを集める前に死んだりしません?」
シャルラン「ん?あぁ、そのへんは大丈夫!なんてったってミチビキの加護には」
シャルラン「不老不死の効果もあるからね!」
リク「…え?」
リク「えぇぇぇぇェェェェェ!!!???」
一つの部屋には、一人の青年の叫びが響き渡っていた。




