第7話「スポンサー」
●騎士運によるスポンサー格付
1シーズンにおけるスポンサード費について
Aクラス 1億円以上
Bクラス 5千万円以上
Cクラス 1千万円以上
Dクラス 50万円以上
それ以下はクラスに入らない寄付扱いとなる
●各リーグのイメージ
1.ひよこリーグ スポンサーと生存 市民に愛される
2.サードリーグ 競技として成立 県民の誇り
3.セカンドリーグ 地域評価が発生 地方の誇り。
4.トップリーグ 政治評価へ接続 国の誇り
赤銅騎士団所属
沖大地駆る『赤銅鬼』のあゆみ。
第1戦 デビュー戦
VS 黒崎 健吾
『噴砕坊』
鉄紺騎士団所属
01分08秒 KO勝ち
相手騎士はサードリーグ中位相当と噂される期待の新鋭。
絶対不利の下馬評をひっくり返した電撃戦。
第2戦 技術の壁
VS 古川 瞬
『翡翠燕』
常盤騎士団所属
02分15秒 KO勝ち
双剣での連続突きを得意とする古川駆る『翡翠燕』から
鎖で上半身の自由を奪ってからのパンチで顔面部を破壊。
尻もちをついた『翡翠燕』から奪い取った剣で両脚部付け根を切断。
第3戦 剛腕激突
VS 巌流 州蔵
『鈍色金剛』
鈍色騎士団所属
04分40秒 TKO勝ち(脱出機構機能不全)
長槍を得意とする巌流駆る『鈍色金剛』。
持ち手を鎖鎌の巻き付けで固定し武器取り回しの自由を奪っている最中に
『鈍色金剛』の脱出機構が機能不全を起こしたことが判明し、
試合が一時中断された。
試合中に『赤銅鬼』から当該箇所への直接攻撃がなかった、
つまり故意に危険個所へ攻撃をしていないことが認められたため、
立会人判断によりKOに準ずると判定。
第4戦 氷の策謀
VS 氷室 怜奈
『月白麗人』
月白騎士団
04分20秒 ギブアップ勝ち
氷室駆る『月白麗人』はニトロを使用した瞬間的な加速で
鎖鎌を回避して流れを『赤銅鬼』に掴ませない。
試合前半を有利に運ぶも、
関節に負荷が掛かることを看破した沖の機転により、
ジグザグ走行、鎖鎌、万力での膝関節への攻撃により、
脚部機能を不全に追い込んだ。
動けない氷室は降伏した。
第5戦 因縁の清算
VS 椰子神 凱
『山吹獅子』
黄鉱騎士団所属
07分00秒 KO勝ち
ジャンプ力とスラスターを利用した
豪快な棍の振り下ろしを得意とする椰子神駆る『山吹獅子』。
ジャンプ直後の無防備な脚部に鎖鎌を巻き付けて
ぶら下がりながらのターザンスイングを利用して
『山吹獅子』の体勢を崩して地面に叩き落としてからの、
デビュー戦をほうふつとさせる怒涛の踏み潰しで決着。
赤銅騎士団事務所。
真っ暗な中、白石は照明を点けた。
壁にはプロジェクターが映しているPR動画が大写しになっている。
「このままチマチマ勝ちを拾ってもいいんだけど」
白石は指を上下に振りながら壁に向かってカツカツ歩く。
「ひよこリーグ卒業はそろそろ視野に入れておきたいわね」
壁に映し出された『赤銅鬼』の雄姿を白石は手でなぞった。
白石は聴衆に向かって人差し指をぴんと立てる。
「一つ。騎士戦でのシーズン内5連勝、ただし入れ替え戦決定までに負けた場合は取り消しね。またはシーズン上位3位。先週の勝ちで5連勝達成、だから順位は気にしなくていいわ。」
白石は続けて中指を立てた。
「二つ。次のサードリーグからは事実に基づく、騎士及び騎士団の公式プロモーション動画が最低一つあること。これは今でっちあげたわ」
聴衆、沖大地とメカニックの竹島健司、チーフメカニックの滋野重延ほか事務員の誰かからの幽かなうめきが聞こえる。
「でっちあげって……」
沖大地が聴衆の忖度を無視して質問した。
「そこは重要じゃないから。このプロモだって、戦績だけのプロモじゃまだまだ弱い。赤銅騎士団が瑞穂に何をもたらすか。サードよりも先を視野に入れるならここも課題……今の話は脱線ね。」
白石は手のひらを返しながら親指も立てた。
「三つ。オーナー会社を除くCクラス以上のスポンサード法人スポンサー最低1社を確保すること。」
「うちは?」
大地が尋ねた。
「まず個人スポンサーは0。ま、当然ね。前は篤志家がたまに寄付してくれてて、今はなし。」
白石は肩をすくめた。
「なんで?」
再び大地が尋ねた。
「騎士道に……もとるんですって。違う風が吹いたらまた来るっておっしゃってたから、うちが嫌なわけじゃないみたい」
白石は目線を大地から逸らして手を後ろで組んだ。
「へえ。まあ、寄付だしね。違う風を待ちますか」
大地以外の聴衆から、そうじゃないだろう、のため息が聞こえた。
「法人スポンサーもね。Dクラススポンサードならそこそこ、というか瑞穂の法人で、うちにDクラスってのもずいぶん嬉しい話なんだけど。このランクなら、今ちょうど20社ね」
白石は掌を指で叩いて数える仕草をした。
「額面だけなら届かないの?」
大地の疑問ももっともである。合計すればギリギリCクラスになりそうだ。
「届いてるけど、法人としての安定性にかかわる話で……ここも今は重要じゃないわ。忘れて」
Cクラス以上のスポンサーは金額だけでは成立しない。
騎士運の法人審査がある。資本金、決算、継続年数。
瑞穂でも通る企業はあるが、多くはない。
「うん、忘れた。このなめろう入りのおにぎり美味しい」
先ほどの話題にあった零細スポンサーの一つである弁当会社の一家からの差し入れである。
スポンサーの支援はお金だけじゃないこともあるのだ。
赤銅騎士団の皆さんでと、50個くらいの具入りおにぎりを届けてくれたのだ。
「そう、良かったわね。で、続きだけど、次のひよこリーグの試合申請を出してないから負けは当分付かないんだけど、そうすると勝利ボーナスはもとより出場ギャランティもないのね。オーナーからの出資や臨時広告料、銀行融資については今は抜きにして、残金と支出を考えるとうちの経営はあと半年は大丈夫。だけど、戦わない騎士団をスポンサードする理由はあるかしら? 今のDクラス20社も、これから捕まえたいC候補も」
これなら大地にもすぐに答えられる。
「そりゃ、戦わない騎士団にお金を出したくないよね」
白石は我が意を得たり、とニタリと笑って手を打った。
まんま昔話のキツネだよなあ、と大地は思いつつ。
「このプロモを持参して、めぼしい会社を訪問するわよ。」
きりっとした表情に切り替える白石。
「うまくいくといいね」
次のおにぎりを掴んで頬張る大地。大好物のマヨコーンだ。幸せ。
「そう、うまくいかせたいの」
白石は大地の横に回り込み、腕を組む。
女性の柔らかい体の感触が腕に伝わる。なんだかいい匂いもする。
そして、こういう旨そうな餌は、罠に仕掛けてあるものだ。
最近の大地はこう思う。
――罠でもいいじゃない。
――誘導のための色仕掛けとわかっていても。
お金を払っても手に入らない好みの美女との接近遭遇である。
少しばかり大地より年が上とはいえ。
「大地くんはうち、赤銅騎士団の看板息子よ。交渉の場にいるといないじゃお相手さまの反応も違ってくるってものよ。さ、今から2分で支度して」
大地はおにぎりを急いで飲み込むと自分のロッカーから上着を取り出してきた。
ここで罠に掛かっておかねば、次の餌もまた回ってこないのだ。
それまで横で黙っておにぎりを食べていた竹島。
いってらっしゃいと片手を上げた。白石にも大地にも目線を合わせずに。
「どこに行くの?」
大地が事務所の表に出ると、すでに白石が車を回していた。
「瑞穂の会社でCクラス以上の要件を満たせるところとなると限られるわ。まず泰平社ってことに行くわよ。ここは向こうから声かけて来たから……」
二人が事務所から出てしばらくしてから、竹島がぼそっと言った。
「大地も懲りないね」
――こちらは、「安全信用の泰平社」です。瓦礫を、デブリを、資源として活用したいなら、豊富な経験と実績のわが社、「安全信用の泰平社」――
録音されたウグイス嬢の麗しい声の、白々しい営業がエンドレスで流れている。
ここを出ていってから、まだ半年もたってないのかと大地は後頭部に手をやった。
「前職だったわね。懐かしい?」
んー、と大地は答えを濁した。
さすがにあの時の怒りは再燃してこない。
楽あれば苦あり。
禍福は糾える縄の如し。
人間万事塞翁が馬。
沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり。
他に何かあったかな、と思ったところで、大地はどうでも良くなった。
帰りたいなと思ったが白石は構わずにすんずん進んで行く。
大地はしぶしぶ後に続いて泰平社の敷居をまたいだ。
泰平社の社長、大地の感覚では元・親方が提示した条件は、赤銅騎士団に対してであれば破格と言えた。
先方の歓迎ムードもあり、交渉は和やかに進んでいた。
お飾りの大地を除いて。
交渉も半ばを過ぎ、白石が財務資料を確認したいと依頼したところで泰平社の社長が席を外した。
取引先から急な連絡が入ったとのことだ。
大地たちはスポンサーを頼みに来た身である。
大人しく待つしかない。
やたら出口や時計を気にする大地に気づいた白石。
「どうかした? 予定があったんなら先に行ってくれないと?」
大地は自分の持つ携帯端末で
《ココ セイビフリョウ オウコウ ホカ キテイ マニュアル ムシ キョウヨウ》
素早く打ち込んで白石に見せた。
これは声に出すのは危険な内容だ。
誰の耳があるかもわからない。
大地の実体験ではあるが、証拠がない。
白石は文面を何度も見て意味を確かめ、自分の端末も取り出した。
《カクニン シャチョウ キライナ ダケ ジャナイネ》
白石は大地の顔を見た。
いつもにこやかなイメージだったが、今の大地は目が全く笑っていない。
白石は頷いた。
大地も頷き返す。
やがて泰平社の社長が財務資料を携えて戻ってきた。
白石は資料、ここ3年分の財務諸表に目を通したが申し分ない。
特にキャッシュフローに記載された期末残高は、白石にはうらやましいほどの金額だ。
だが、白石は気取られないようにこの場を後にする算段をした。
社長が揉み手をするように組んだ手の隠して方の指が細かく震えているし、口角がやけに上がっていることも白石の気にかかった。
旨い餌に見えるが、今はその上に陥穽が吊ってあるようにも見えてきた。
白石はオーナーと条件のすり合わせをすると嘘をついて泰平社を後にすることにした。
結局、大地は泰平社の中にいる間、一言も発しなかった。
大地が言葉を発したのは、白石が車を発進させてしばらくたってからだった。
「ありがとう」
白石はルームミラーで大地の目を見た。
大地の目が少し赤くなっていた。
「早くに話してくれてたら……ごめん、私が先走ってたのだわ。連れ出してから行き先を教えたくらいだもんね」
大地は下を向いた。
「証拠は……あったら、そもそもうちにスポンサードの申し込みなんかしないわよね。大地くんが自分のところで働いていたのはすぐわかるだろうし」
さすがに社内に入ると大地には誤魔化しがきかなかったのだ。
入口の「ニュートンの揺りかご」
応接ソファの横にある「ビリヤード台」
そして、元・親方
大地は自分が声を殺して泣いていることに気づいた。
白石は多くを聞かない。
「お金、欲しいけど」
白石から口を開いたのはずいぶん経ってからのことだった。
車はとっくに走るのをやめていたようだ。
何かのお店の駐車場で待機している。
「泰平社だと、まず騎士運の審査で弾かれるかもしれないわね。ダミー会社やマネーロンダリングをシャットアウトする意味合いもあるから、調査は徹底的と聞いているわ。ザル騎士運にしては意外だけど」
大地は何も答えない。
「整備不良横行の会社がスポンサーじゃうちの信用にも関わるし」
白石は顔を伏せたままの大地の肩を優しくたたいて、さらに優しく肩を抱いた。
いつもの色仕掛けとは全く違う、弟を労わる姉のように。
「そこでスポンサー探しをやり直すくらいなら、今から他を当たる方がいいわ。あそこはやめにしましょう」
白石は運転席に体を戻して車を再発進させた。
「明日も行くわ。今度のは断られる前提だから、できるだけ清潔な格好でお願いね。大物だから粘ってものにするわよ」
大地は幼い少年のように頷いた。
身に覚えのない咎めという苦い記憶が
意識の奥底で眠っていた幼い日を激しく揺さぶった。
綯い交ぜになる既視感に
大地は足元から崩れゆく虚無に
自分という輪郭を奪われていく。
《作者からのお知らせ》
予定では、次回、人を選ぶ内容になります。
読む人の経験によっては、強い不快や動揺を伴う可能性があります。




