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俺の腕、売ります。  作者: ももクリさんねんかきハチネン
第九章 断裂する隆起、噴出する水蒸気
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第101話「絶対攻略法」

 詞書ことばが


 前後を読みて


 掛詞かけことば


 想いを見抜けば


 心 あらわる





北斗ほくと星環群、瑞穂みずほ(居住星環)】


 赤銅騎士団事務所。


 竹島と大地、それぞれが端末に向かって設計図起こしのための、アイデアの具体化を進めている。

 竹島が即興で組み上げたチャートを、大地が端末でパターンを絞って兵装のアイデアを具体的な形に落とし込んでいく。


 リンク機構を使うなら、オープンループ構造かな。

 クローズドループ構造だと、要は四角形以上の、柔軟に動く多角形だからね。


 資料動画で、古代の捕獲武器のマンキャッチャー?

 俺が白波戦で使った、先端に鯨鉤のような返しを仕込んだ大梯子、アレをそのままポールウェポンで再現したやつ?

 刺股もだけど、本来は多数対一の捕獲武器だからなあ。

 さすがに白波相手でも二回目ならそうそう安易に引っ掛かってくれないだろうし。


 んー、自分で言いだしたことだけど、

 マジックハンドにすると、どうしても大掛かりになるね。

 従来版はそれこそ超大掛かりな仕組みで、背負い型に落ち着いたんだけど。

 今思うと、本当に出オチだったな。

 こちらが槍みたいな刺突兵装を持っていないのに、星環騎士のさがなんだろうか。

 正面から相対して、

 チキンレースよろしく互いに突撃ってのに普通に合わせてきたからね。

 そこにマジックハンドでドーンだったからね。


「パンチングナイフがあるからじゃないか?

 あれも一応は刺突兵装になるかな」


 槍にパンチングナイフで合わせるって、それこそ正気の沙汰じゃないでしょ。

 それとも、互いに吶喊とか自分に都合のいい……慣れた展開だからってんで、

 俺が正気でない方を素直に受け入れちゃったのかしら。


「それより、このマジックハンド、チェーンの巻取機構も込みで考えると、

 前腕部にとりつけるにはパンチングナイフ……

 ナックルガードごと外す前提じゃないとどっちも中途半端になるぞ」


 これさ、肩鎧に偽装というか、仕込めないかしら。

 名目上は『事故時の救助活動用』ってことで。


「……できなくは、ないか?

 ただ、照準合わせがほとんど機体制御に頼ることになるから、

 使用時に展開して前腕を使って照準する方が確実性はあるな。

 どのみち今のパンチングナックルじゃごつ過ぎて、

 チェーンを扱うときの邪魔になるんじゃないか?」


 四角網は捕獲後はパージっていう設計思想だった。

 だから、今回のマジックハンドみたいに捕獲して引っ張り込むっていうのは、

 似て異なるというか、根本から違ってくるよね。


「ナックルガードをノーマルなものにして、

 手持ちのナイフ兵装を携帯するのも、手だぞ」


 持ち替えってこと?

 それだと、咄嗟の対応が遅れそうなんだよな。


「しかし、明らかにマジックハンドの肩鎧とか、

 見た目がいかにも怪しいんだけどな」


 それっぽい装甲を他にも取り付けておけば、誤魔化せるんじゃない?


「正直、ここまで偽装して仕込むと

 射出兵装じゃないって言い訳は通らないんじゃねえか?」


 そりゃまあ、救助目的なら偽装する必要性ありませんし。


 ……前腕部そのものをマジックハンド機構にして発射するとか?


「ロケットパンチ?

 子どものときにそんなヒーローいたっけな。

 武器を前腕部で持たないお前なら、なしじゃねえが……

 根本的に前腕部と上腕部がマジックハンド機構そのものになるから、

 逆に細かい操作はできねえぞ」


 当たって閉じるってのは、悪くない発想だと思うんだけどなあ。


「あのさ、相手に当たると閉じるマジックハンドはいいんだけど……

 閉じたときに必ず捕獲できる保証ないよな?」


 えーと?


「捕獲が一時的にうまくいっても抜けられるってのもそうなんだけどさ。

 そもそも閉じる動作にタイムラグは必ずあってさ。

 閉じたとき、そこに相手の騎士艇がないってのもありうると思うんだよ」


 実にもっともな指摘である。

 当てることの失敗は想定していたものの、捕獲できないことは念頭になかった大地は二の句が告げられなかった。


「うん、設計図起こし前の段階で良かったと思うよ?」





『NITROを、使いたくなってくるだろう?』


 ここまでマジックハンド兵装のアイデアを練り直し続けたのは、風鈴寺博士の入れ知恵もあった。

 大地がよからぬ妄想を誤魔化すために適当な新兵装アイデアをでっち上げていたときに、風鈴寺博士がふらりと大地たちの前に姿を見せたのだった。


空気圧機動アリエルの、まだできないことに当て嵌めてみようか……』


空気圧機動アリエルの動力は気圧だから、

 気化する量を調整する以外の、

 出力を跳ね上げる手立てがないのも、そうだな。

 最大出力と瞬発力が吊り合っていないと言おうか。

 その圧縮された水素が展開する、

 つまり膨張によるテンションが一番の強みで弱みでもある。

 真っすぐにする力がとてつもなく強い。

 だから、伸ばす。

 そこから絡めて、締め上げる。

 この2つの動作については、他の動力機関の追随は許さない』


『逆に、曲げる。

 つまり引き付ける、この動作はどうしても電磁力モーターに後れを取る。

 NITROは逆にそこが強みになる。

 そう、君たちがちょうど、良さげなことを話していたじゃないか。

 高速機動戦を前提とした星環騎士戦。

 かつて大地くんがひよこリーグやサードリーグで

 猛威を振るっていた「捕獲して叩き落とす」……』


『大地くん、星環騎士戦で釣りをしてみないかね?』


 適当な思い付きから転がしてきたにしては、悪くないと思ったんだけどな。

 風鈴寺博士との悪だくみも、ここはいったんご破算かな。





 竹島は、日を変えてまた考えようぜ、といつもの軽いノリで帰ってしまった。

 大地にとっては、初めこそ無理やりだったが、

 それなりに時間をかけて進めてきた新しいマジックハンド構想。

 気分転換に、大地は鋼谷による炎城人物評を思い返した。


『炎城は相手に合わせて、

 対戦する相手の映像一つでもあればシミュレーターに取り込んで

 それこそ徹底的に準備してくる。

 この10年で炎城が墜とされたケースは、

 互いの吶喊の先、予想の上を行かれたと思われるものだけだな』


 高瀬や杉原みたいに行動を誘導できたりは?

 それこそ、絶対王者だの騎士の王なんて呼ばれているおっさんでしょ。


 そこらへんがなあ、と鋼谷は腕を組んで頸を傾けた。


『それこそ5年前の、

 第42期最終戦は、槍をへし折られた礼文が

 破れかぶれの小剣特攻に出たところへ、炎城が合わせた形だからな。

 まあ、炎城の方も小剣の扱いに自信はもちろんあったんだろうが……

 あの試合の礼文の小剣捌さばきのキレは、神懸かみがかっていたからな。

 自分から仕掛けておいて寸前で身を引いて、

 軽い受け流しからのダブルタイム・アクションで一気にトドメの大逆転劇。

 本当に軽いタッチの受け流しでな。

 小剣の軌道が致命傷にならないギリギリ……』


 俺は騎士学校組じゃない。

 正統派同士の剣戟ならば、さぞや美しかろう。

 だけど、そんな世界に足を突っ込んだら、俺はあっという間に黒星配給係だ。


 炎城との初戦に勝つには、新しい兵装がいる。

 最初の一回目、これだけはどうしても獲っておきたい。

 それさえ叶えば、2回目以降の対戦については、準備する騎士ほど勝手にドツボにはまっていってくれる。

 それは、イメージする力の強い騎士ならでは。

 炎城志朗が15年間、計3期の王者であり続けた理由でもあるのだろう。

 その炎城志朗が杉原行成に一度も勝てていなかったという事実もある。


 この先も続く炎城志朗対策。

 それは、初戦を獲ることだ。





平柱べいちょう星環群、紫若しじゃく(居住星環)】


 不知火騎士団 格納庫。


兜割かぶとわり、ご注文のとおりに仕上がったと思います」


 炎城志朗の目の前に示されたのは『轟焔騎』の新兵装。

 そのシルエットはまるで小刀のようである。

 しかし刃はない。

 そして柄の近く、手元には十手のような枝鉤が生えている。

 これは、相手の刀を受け止める楯であったり、甲冑の隙間を突いて動きを止めるために使用された、兜割かぶとわりまたは鉢割はちわりと呼ばれた古代の武器、それを星環騎士にリサイズした新兵装レプリカだった。


「沖の生命線は、巷で恐れられているウィップウェポンよりも、

 両腕に仕込まれたパンチングナイフであることは、明らかだ」


 しかし、炎城の目当ては小回りの利く楯でも捕獲でもなかった。


 炎城の手が宙空で何かを掴んで捻る動きをする。

 想像上の兜割かぶとわりで、『赤銅鏡しゃくどうき・よう』のパンチングナイフを防ぎとめて抉り取る、そんな動き――




 熟練の


 技を縛りて


 罪深き


 罠に捕らえる


 解けぬ手錠よ

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