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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第五章 旧ヴェスタリア公国編

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閑話 その裏側では

「ええい! 何処かにいるはずだ! 儂に恥をかかせたあの女を探し出せ!」


(…来たか)


 聞き覚えのある怒号を聞いたオズワルドは、ゆっくりと目を開けた。ここはサンクトゥアリウム大聖堂の祈りの場。かつて全てを無くしたオズワルドが、ずっと過ごし、そして見守ってきた場所だった。

 クヌートやマリアと別れた後、オズワルドはずっとここで祈り続けていた。もう彼を頼ってくる者は、ヴェスタリアには居ない。新しい希望と共に旅立っていった以上、彼がヴェスタリア、いやサンクトゥスに残る最後のヴェスタリア人だった。

 オズワルドはゆっくりと立ち上がると、何十年振りかに腰に剣を吊るした。老いた身体は既に限界を迎えている。”騎士の誓い”と魔力強化のおかげで何とか動けはするが、もはやそれも限界であるとオズワルド自身が一番よく分かっている。そのまま散歩をするかのように、廃墟と化した大聖堂の敷地の入口まで歩いていくと、オズワルドの視界の向こうに、こちらに向かってくる集団が見えた。


「何だ! この老いぼれは!」

「この先には行かせん」

「何! この儂を、ヴェスタリアの死にぞこないが邪魔をするつもりか!」


 ヴォルフガングが、唾を飛ばしながら立ち塞がるオズワルドを睨みつける。

 ヴォルフガングはここ最近ずっと不快だった。マリアとかいう小娘に自分の城を追い出され、頼みの綱のグレゴールも役には立たず、ルーンベルグまで逃げる羽目になった。

 ルーンベルグ戻ったヴォルフガングは、いざ枢機卿であるイグナティウスに泣きついて二千人の兵士を伴い凱旋してみたら、途中で謎の男に足止めされ、落とし穴に嵌り、沼に浸からされた。

 這う這うの体でようやくヴェスタリアに戻ってきたら、総督府はもぬけの殻で、溜め込んだ財産は何も残っていない。全ての現況である小娘の姿を探し回っていたら、今度は偉そうなヴェスタリア人の老いぼれまでもが、自分の邪魔をするという。もはやヴォルフガングの頭は怒り心頭だった。


「お前たち! この老いぼれを叩き斬れ!」

「「はっ!!」」


 ヴォルフガングが引き連れていた手下の兵士は三十人、その全員が腰の鞘から剣を抜いた。

 他の兵士たちは彼の命令で街のあちこちを居るはずの無いマリアたちレジスタンスを探し回っている。だが、たかが片腕の老いぼれなぞ、これだけの人数が居れば充分な筈だった。


「くたばれ!」


 大雑把に振り被った兵士の剣が、オズワルドに向かって振り下ろされようとしていた。だが、オズワルドにとってはそれは児戯にも等しいもので、音も無く剣を抜くとその振り下ろそうする腕を切り飛ばし、返す刀で、兵士の首を飛ばした。

 血をまき散らしながら、その兵士の身体がどさりと地に伏すと、廃墟を静寂が支配した。


「…は?」


 目の前の光景が信じられないヴォルフガングは間抜けな声を上げる。

 それを静かに見下ろすオズワルドの視線の奥には、積年の恨みの籠った炎が燃えていた。その氷のような視線で射抜かれたヴォルフガングが腰を抜かして、尻餅を付く。


「この先には行かせんといった筈だ」

「か、構わん! 殺せ!」


 恐らく、この場の誰もが今のオズワルドの動きを捉えられて居なかったであろう。だが、その恐怖から一人の兵士が警笛を鳴らし、援軍を呼ぶ。その間に次々と襲い掛かるルーンベルグ兵を切り捨てていくオズワルドであったが、その動きが鈍くなっていくのに彼は気が付いていた。


(ドロテア、パウラ…もうすぐ会えそうだ)


 数の暴力が先だったのか、それとも身体の限界か、オズワルドの身体を包む青白い光が弱々しくなるにつれて動きが鈍くなり、手傷を負っていく。返り血と自らの血で真っ赤に染まったオズワルドだったが、まだ剣を振るい続けていた。


「そんな老いぼれに何を手こずっている!」


 ヴォルフガングはもはや何十人もの兵士の後ろで喚き散らすだけの置物と化していた。だが、ヴェスタリアの総督であるヴォルフガングの命令に逆らえる者は、この場には居ない。例え目の前に化け物がいようとも逃げる訳には行かなかったのだ。


(これが、最後か)


 オズワルドは最後の力を振り絞って、剣に残りの魔力を集中すると、その刃が煌々と輝いた。その神々しくもあるオズワルドの姿に兵士たちが動揺して、一瞬だけ動きを止めた。


神の光(ディ・ルケーレ)」 


 その隙に放たれる裁きの光は、ヴェスタリアの騎士が”騎士の誓い”の元に放つ最後の一撃。己が誓いを果たす時にしか使えないとされる秘技だった。

 横薙ぎに放たれた光が兵士たちの身体を通過すると、音もなく蒸発していく。運悪く巻き込まれた後ろの兵士の身体も消えていくと同時に、剣を振りぬいた体勢のままオズワルドが地面に倒れた。


「い、今だ! やれぇぇっ!!!」


 ヴォルフガングの悲鳴のような命令を受けて、倒れたオズワルドに無数の剣が突き刺さるが、彼は微動だにしなかった。そう、オズワルドは既にこと切れていたのだった。


(ああ…やっと、会えた)


 剣を振りぬく瞬間、最後にオズワルドの目に浮かんだのは、優しく微笑む彼の(ドロテア)(パウラ)の笑顔だった。


---


「相変わらず忙しいですね、クヌートさんは」

「全くだ。しかも、今度はアルカディアとは」

「ええ。ノルドヴァルに行ったと思っていたら、まさかヴェスタリアまで足を伸ばしていたとは…」

「そのうちに、フォレストハイムにも行きそうだな」

「きっと、ゼノビアにも行きますよ。あの人なら」

「違いない」


 リベルタ自由都市の商業ギルドの会長室で、商業ギルドのマスターであるギルバートと、ヴァレンティ商会の会長のエンリコが話しているのは、突然リベルタに戻ってきたクヌートの事だった。

 ある日の夜、クヌートはいきなりヴァレンティ商会のエンリコの元を訪れて、ノルドヴァルで鍛冶師からの手紙に返事が出来なかった事を詫びると、その”注文”を書き残していった。そして「金なら払うから、完成したら飛竜(ワイバーン)便でアルカディアの商業ギルド宛てに送って欲しい」と言い残していったのだ。

 流石に夜も遅いので、エンリコは泊まっていくようにクヌートを誘ったのだが、急がなければいけないからと彼は断ると、その足でリベルタを去っていった。

 エンリコは門まで見送りながら「代金は不要ですよ」とクヌートに念を押していたのだ。その間に少しだけ話を聞いたのが、ノルドヴァルでもひと悶着あってヴェスタリアまで行く羽目になったらしく、そこでもまた色々とあった、とだけだが、クヌートの表情に、何処か余裕が無いように見えたのが、エンリコには気がかりだった。


(あの様子だと、余程の無茶をしたようですね)


 それは、エンリコの娘であるルカを守った時のクヌートの表情と似ていた。彼はいつも”何か”を守る為に無理をしている。まるでそういう生き方しか知らないように、エンリコには思えてしまうのだった。そんな彼だからこそ、エンリコは力になりたいと思っている。


「今度はアルカディアで何をしでかしますかね?」

「さあな。儂にはわからんが、大人しくはしてはいないだろうな」

「同感ですね」


 少し冷めた紅茶を口に運びながらエンリコは窓の外を見て、遠くアルカディアに向かうクヌートに思いを馳せた。


(どうかご無事で)


---


「見えたわ! アルカディアの国境よ!」


 マリアの言葉を聞いて、ヴェスタリア人たちが喜びの声を上げる。

 マリアたちがヴェスタリアから逃げて三週間が経っていた。それぞれがスキルを使い、お互いに支えあって、時にはぶつかりながらも、この長い旅路を乗り越えてきたのだった。

 二千人もの集団となれば、それだけスキルの数も多い。『浄化』や『洗浄』などで衛生面を保ち、マリアたち解放軍のメンバーが中心となって指示を出して、各種属性魔法で狩りをして飢えを凌ぐ。夜は順番に見張りをして魔物の襲撃に備え、疲れが溜まった者から順番にソフィアの『癒し』の奇跡を与える。そうやって、この旅路を乗り越えてきたヴェスタリア人たちは、かなりの成長を果たしていた。

 

 だが、そんな彼らの行く先に暗雲が立ち込める。


 マリアの視線の先にいるエラの表情が厳しいものになっていたのだ。そんなエラの表情を見て、訝し気に思ったマリアが彼女に声をかける。


「エラ、どうしたの?」

「マリア、急いだほうがいいわ。ルーンベルグの方から騎兵隊が来てる。数は百」

「嘘! クヌートは?」

「姿は見えないよ」

「そんな…」


 そう落ち込みかけるマリアだが、自分が不安気な姿を見せる訳にはいかないと己を奮い立たせて、ヴェスタリア人たちに喚起の声を上げる。


「みんな、急いで! 追手が来たそうよ!」


 その言葉に騒然とするヴェスタリア難民一行だった。


「えぇ!?」「嘘だろ!」

「ヤバいぞ! 急げ!」

  

 すぐさまに荷物を抱えて走り出す。これまでの逃避行でレベルが上がっているヴェスタリア難民たちの動きは、当初とは比べ物にならない程だった。


「マリアは先頭に。そして事情の説明を」

「分かったわ」


 右腕である弓使いのデヴィットに殿を任せて、マリアは国境門へと急ぐ。難民たちを追い抜いて、アルカディアとの国境門に近づくと、警備隊の兵士たちが走ってくるマリアたちを見てにわかに騒がしくなっているのが見えた。マリアが近づく頃には、警備隊が国境門の前にずらっと並んでいる。その中で、精悍な顔つきをした中年の男が一人、前に出た。


「止まれ! 何者だ!?」

「ルーンベルグ軍に追われて、ヴェスタリアから逃げてきたの!」

「全員か?」

「そう! お願い助けて!」

「…わかった。中立国として、庇護を認める。門を開けよ!」 


 中年の男の言葉が響き、アルカディアへの国境門が開かれた。アルカディアには、他国とは違って防壁というものは存在しない。だが、国境門を中心に国境線に沿って強力な結界が張ってあり、門以外からの侵入は出来ないようになっていた。それは例え空からでも同じ事で、他国からの侵入は結界に弾かれて出来ないようになっている。

 唯一の例外は飛竜便で、特別な割符を持つ事で結界をすり抜ける事が出来る。当然奪われてしまい悪事に使われる可能性を考慮してあり、事前に魔力パターンを登録しなければ、割符は作動せず結界を通過する事は出来ないのだ。


 事情を説明したマリアは、ヴェスタリア難民たちに急ぐように促しながら、デヴィットやフーゴたち殿の元へと戻る。相変わらずエラの表情は厳しく、眉間に皺が寄っていた。


「…そろそろ見える」


 そう言いながらエラが指を指した先に、砂埃を立ててこちらに向かってくる小さな影が見えた。その影は見る見るうちに大きくなっていく。


「みんな、急いで! もうすぐそこまで来てるわ!」


 悲鳴のようなマリアの言葉に、ヴェスタリア難民たちは、最後の力を振り絞って国境門に向かって走る。まだ余裕のあるものが戻ってきて、荷物を預かり、または子供や老人を背負って門へと急ぐ。


 そうして、殿のマリアたちが国境門を向けた時、ルーンベルグの騎兵隊は、まさに目と鼻の先の距離まで迫っていたのだった。


「ちっ、引くぞ」


 指揮官らしき人間がそう吐き捨てると、騎兵隊は馬を反転させて来た方角へと去っていく。


 ――それを見届けたマリアは、安堵の息を漏らすのだった。



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