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『斬られ役』のおっさん、殺陣の技術で異世界無双する  作者: 武士武士
第三章 リベルタの闇編

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3-4 おっさん、証拠を入手する

(…そういう事か)


 アルカナ滴――いや、魂蝕薬(こんしょくやく)の説明を見て、俺は一連の流れに納得をした。これは完全にマッシモの自作自演の騒動であり、しかもテロのように質が悪い。盗賊ギルドも絡んでいるようだが、何処まで関わっているのだろうか。

 盗賊ギルドはあくまで必要悪である筈であり、これほどの事件はもはやその範囲を超えている。となれば組織ぐるみでは無いのかもしれない。


(あの人、か)


 マッシモが言った人物が誰なのかを確認する必要も出てきた。そして何より、この解呪をしないと治せないという情報を伝えなければならないだろう。


(…解呪といえば)


 おそらく光明教会に司祭に頼む事になるのだろう。しかも高位の術者でないと、呪いを解く事が出来ないかもしれない。だがここで、ふとあのイグナティウスという枢機卿の事を思い出す。あの執拗に教会の権威に拘るあの態度――


(いや、考えすぎか)


 もし一連の流れに教会まで関わっているとしたら、思わずそんな想像をしてしまい、背筋が凍り付いた俺は、頭を振ってその考えを打ち消す。さすがに考えが飛躍し過ぎているなと自嘲をしていたその時――


 ――ガチャ。


「おいおい、こんなところで何してやがる?」


 俺は”薬”を調べる事に集中していたせいで、俺は部屋に戻ってくる三人組の気配に気付いて居なかったのだ。ルチアーノが剣を鞘から抜くと、後の二人もナイフを構える。


「…何、ちょっと野暮用でな」

「この状況で随分と余裕だな…やれ」

「おらぁ!」


 下っ端二人が同時にナイフを突き出して来るのを見て、俺は飛んで回避をして、そのまま右側の男の顔面に蹴りを叩きこむ。


「なっ!」

「遅い」


 着地と同時に左側の男の足に向かって、回転しながら自分の足を当てて転ばせると、その男のナイフを奪って腹に拳を入れると、相手は気絶した。


「ほう? やるじゃねぇか」

「何、年の功って奴さ」


 その攻防を見ていたルチアーノの目の色が変わり、警戒しながらジリジリと間合いを詰めてくる。俺はナイフを構えながら、その隙に奴に向かって『看破』をかけてみた。


=====


ルチアーノ・フェルロ

35歳 男

ジョブ:重戦士


レベル:24


力:280

技:240

速:240

体:260

魔:240

抗:240

運:240


スキル

剣技4、格闘6、威圧5


称号

『歴戦の戦士』

数々の戦場を渡り歩いてきた証。戦闘能力に補正がかかる。


=====


(表示が変わった?)


 今まではスキルの後に数字なんて無かったし、称号の説明にも少しだけ詳しく記載されているような気がするが、これは”薬”を見破った成果なのだろうか。


「死ねぇ!」


 マッシモは俺に何かをするつもりだったが、ルチアーノは殺す方向に方針を切り替えたようだ。剣を上段に構えて、その筋力を生かして振り下ろし、斬るというより殴り掛かって来た。だが、そんな大振りでは今の俺には届かない。右手にあるナイフを突き出して相手の剣を受け止めると、俺は鳩尾に左の肘を叩きこむ。


「がっ!!」


 そして、ルチアーノの顎を掌底で跳ね上げると、奴はもんどり打って床に倒れた。


「強すぎる…」


 そのままルチアーノが気を失ったので、俺は息を一つ吐いて残心を解いた。今、床では男たちが三人とも気絶している状態である。色々と調べておきたいところではあるが、いつ”あの人”に会いに行ったマッシモが戻ってくるかが分からない。


(…逃げるか)


 例え証拠隠滅の為に薬を処分されたとしても、治療法が分かった今、この薬が必要だとは思えない。むしろ、これ以上薬が広まる事の方が問題だった。


(燃やすか?)


 今ここにあるアルカナ草だけでも処分しておけば、再度薬の材料を用意するのに時間がかかるだろう。そうすれば、薬の拡大を一時的にでも止める事が出来るかもしれない。だが――ここで最初の問題に戻る。いつマッシモが戻って来るか分からないというこの状況では、あまりのんびりはして居られないかった。


(…いや、違うな)


 俺の『看破』で見た情報だけしか、今のところ証拠が無い。このまま工場を後にしてしまえば、マッシモを追い詰める物証が何も無いという事になってしまう。俺の実力を知らない奴が油断をしている今こそ、リスクをとってでも証拠を押さえる方が良いに違いない。


 俺は魂蝕薬を一瓶だけ証拠として『空蝉』で仕舞うと、まず気絶しているルチアーノたちを、俺を縛っていた縄で縛り上げた。そして、部屋にあった俺の剣を回収してから片っ端から調べ始めるが――


(…無いか)


 帳簿などは見つかっても、特に怪しい記載は見つからない。盗賊ギルドが関係しているとしても、当然帳簿の記載は違う名前になっているだろう。誰が誰と繋がっているか分からない以上、今の俺が見たところで、何の役にも立たなかった。

 

(何かあるはずだ…)


 俺は隣の机の引き出しも空けて中を調べるが、特に有用そうな物は発見出来なかった。じわじわと時間だけが経っていく事に、焦りを覚えていく。さすがにそろそろ頃合いかと思い始めて来たその時だった。俺は調べていた書類を床に落としてしまったので屈んでそれを拾うと、かすかに冷たい空気を感じた。

 

(…風?)


 風を感じた先は机の下で、視線の先にある壁には、四角く線が入っている。俺は机の下に潜り混んで、その四角い枠を叩いてみると、奥に空間が広がっているのが分かった。だが手をかけても、それは外れそうで外れない。鍵が掛かっているのかと思い、俺は先程と同様に心の中で『開錠』と念じてみる。


 ――カチャ。


 小さい音がしたので、俺は再度枠を外して中に入り込むと、そこは小さな隠し部屋になっていた。壁一面には棚がびっしりと並んでいて、書類の束が納められている。俺は再びそのひとつひとつを調べていくが、やはりこれだという物は見つからない。それでもめげずに棚を調べていると、ひとつだけ妙な紙を見つけた。


(これは…?)


 そこには何処か禍々しい気配のする魔法陣が描かれていたので、俺は何の魔法陣か『看破』で調べてみた。


=====

渇魂(かっこん)刻印


この刻印がされた物体を体内に入れると、その者の魂に呪いが刻まれる。定期的に刻印された物体を摂取しないと精神的な渇きを覚えて、それを求めるようになる。摂取すれば一時的に症状は沈静する。呪いをかけた者より高位の術者でなければ、この呪いは発見出来ない。

=====


(麻薬…いや、それ以上か)


 おそらく”薬”の効果はこの刻印込みのものなのだろう。これは、薬の飲んだ人間に対して呪いをかけて、強制的に薬を買わせるというとんでもない計画だ。しかも呪いまでかかっている。だが、呪いに詳しい人物にこれを見せれば十分な証拠にはなりそうだ。俺はこの魔法陣を『空蝉』で確保して、隠し部屋を元に戻す。

 すると誰かがここに近づいてくる気配を感じたので、俺は『隠密』で気配を消して、そっと表の部屋に戻った。


「…これは?」


 丁度部屋に戻ってきたマッシモが、縛られているルチアーノたちを見て驚いている状況だった。ルチアーノに慌てて駆け寄るマッシモとすれ違うように俺は部屋を出た。そして背後でなにやら騒ぐマッシモの言葉を聞きながら、俺は工場を後にした。


---


(不味いな…)


 思っていた以上の深刻な事態に戸惑いながら、俺は宿へ向かって歩いていた。マッシモの工場は港湾地区の外れにある廃倉庫の一つだったのだ。定宿である「運河の旋律(しらべ)」亭までは十分もかからないだろう。


「クヌートさん! 良かった」


 宿の近くまで着いた俺に突然声が掛けられた。

 そこにはちょうど宿から出てきたエンリコがいて、心配そうに俺に駆け寄って来る。


「どうしてここに?」

「冒険者ギルドから、貴方が戻って来ないと連絡がありまして」

「そうか。だがこれくらいの時間ならまだ問題ないのでは?」

「それが、マッシモが冒険者ギルドに来て、あなたの事をあれこれ聞いたみたいで」

「そんな事があったのか」

「ええ、それでレイラさんが何か気になって、私に連絡をくれたんです」

「なるほどな」

「それで…何がありました?」

「…もう時間も遅いし、一度整理がしたいから明日でもいいか?」

「…分かりました」

「すまないな」

「いえ。では明日お待ちしております」

「ああ。ギルバートにも話をつけておいてくれ」

「承知いたしました」


 俺はエンリコが店に戻っていくのを見送ると、急いでギルドに向かう事にした。もはや俺ひとりで如何にか出来る案件じゃないと判断したからだ。まだ賑やかな中央広場を抜けてギルドに到着すると、こんな時間だからか、中は閑散としていた。


「クヌートさん! エンリコさんとお会いできましたか?」

「ああ。レイラ、どうやら迷惑をかけたみたいだな」

「いいえ。何事もなくてよかったです」


 受付のレイラが俺の姿を見て、ほっと胸を撫で下ろしている。

 俺はそんなレイラに近づいていき、声を潜めた。


「相談があるんだが、ロレンツォと話しが出来ないか?」

「マスターと?」

「ああ、今回の依頼の件なんだが」

「…何かあったんですね?」

「そうだ。かなり不味い事になりそうだ」

「そうですか…ですが、マスターは出掛けていまして」

「俺がどうかしたか?」


 振り返ると、入口には丁度戻ってきたロレンツォが立っていた。そしてズカズカと近づいてくる彼に、レイラが事情を説明する。


「――という訳で、マスターとお話しがしたいと」

「本来なら、依頼に対しては受けた本人が対処するものだが?」

「分かっている。だが、それでも必要だと判断した」

「何があった?」

「…このままではリベルタ全体が危ない」

「何だと?」


 想定外の俺の言葉を聞いて、二人の表情が一変した。


「穏やかではないな?」

「ああ。俺ひとりでは止められないかもしれない」

「分かった。ついてこい」


 ロレンツォの後を追って、俺は彼の執務室へと向かった。

 そして、今日起こった一連の出来事を彼に話して、魔法陣の描かれた紙と薬を取り出した。


「――それで、魔法陣を詳しく知る人物に、これを調べてほしいと」

「ああ。わざわざ隠し部屋にあったものだ。何かあるに違いない」

「分かった。調べてみよう」


 ロレンツォが魔法陣を受け取り、じっと見つめる。

 『看破』で見た情報をそのまま伝える訳にもいかず、俺が話したのは、マッシモとエンリコの関係性と奴に拉致された事、殺されそうになり撃退して、薬と魔法陣を発見した事だけだ。 


「…しかし、フェーロ商会がお前を拉致するとは」

「大胆過ぎるだろう? それに、ヴェレーノの一件もある」

「何処かで繋がっていてもおかしくはない、か」

「ああ」


 ロレンツォは顎に手をやり、何かを考え込んでしまったので、俺は彼の言葉を待った。

 ややしばらくして、ロレンツォが口を開く。


「分かった。グイドにも知らせて調べてみよう。だが――」

「この件は他言無用だろ?」

「その通りだ」


 こんな危ない情報をそうおいそれと伝える訳にはいかない。受付で話さなかったのもそれが理由だった。


「しかし、お前も随分と無茶をするな?」

「そこは反省している」

「…まぁ、いい。気を付けろよ? とりあえず今日はもう帰っていい」

「分かった」


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