睡魔の牢獄 夢幻人のシュラーフ
アース大陸について
ルプスたちが住んでいる大陸。
レイたちが冒険しているヴァン大陸と比べると非常に大きい面積を持ち、大きな大陸を中心にいくつかの大陸に分かれている。
大陸によって、環境もかなり違い、場所によっては色雨、虹橋などと呼ばれている現象もあり、大きな大陸の中心には世界樹と呼ばれる大木が生えている。
前回のあらすじ
マリクたちにイグニスの案内をしたシュガー。
彼らとレイたちはシュテルがいるシュテルの町へと向かう。
しかし、シュテルでは奇妙な事件が起こっていた。
****
時間は太陽が天頂を通過し、ほんの少しずつ落ちてかけている昼頃。
フレアの屋敷から瞬間移動で移動したシュガー。その場には彼のほかにはエクレール、メロディ、サタンがいた。
彼らは直接シュテルへとは移動せず、ある程度離れた場所に跳んだ。それには2つの理由があった。
「エクレールはアルキュオネを連れてきてくれ」
「分かりました」
「それにしてもここがシュテルという町なのか?」
「違う町だ」
「なぜ、直接行かない?」
メロディが当然思い浮かぶ疑問をシュガーに聞いた。
1つ目の理由はエクレールにアルキュオネという人物を迎えに行ってもらうため。もう1つの理由は……。
「感知したが、その時にやけに人の動きがなかった。まるで眠っているみたいに動いていない。何か奇妙だ」
「警戒しすぎだな」
「石橋は叩いて渡るタイプだ」
「シュガーって、叩きすぎて壊すときがあるよね」
「それはともかく、何かあるのは確実だろう。警戒しながら進む」
シュガーたちはエクレールと別れ、シュテルへと向かって行く。
****
ルキスの故郷グラッドで財宝の鍵である赤い球を手に入れたレイたち。地図に浮かび上がった次の場所は雲だった。
シュガーに相談したところ、雲の上に国があることを知った。そこに行くための方法を知るために彼の姉であるシュテルに相談するべく、シュテルという町に向かっていた。
しかし、町に近づくにすれ、違和感を感じ取れる。その違和感を最初に感じ取ったのはレイとルキスであった。
「何か人気が感じ取れないよね、レイ。……レイ?」
「ごめん。今ものすごく眠い」
ルキスに話しかけられたレイであったが、その反応は鈍かった。彼は昼間にも関わらず、眠気に襲われていた。
そのまま、歩き続けているとルキス達にも眠気が襲い始めてきた。
「ボクも眠くなってきたよ」
そう言いながら、ルキスがレイの方を見てみると地面にうつ伏せの状態で眠っていた。眠気はピークを迎え、続いてルキスも眠ってしまった。
「アモルさん、くわえてください」
アモルも眠りに入る直前、口にルリの指を突っ込まれた。彼女の指からは液体が染み出て、それが体内へと入っていく。すると先ほどの眠気は嘘のように無くなっていた。
「何をしたんですか? ルリ」
「眠気が感じた時に体内で着つけ作用がある魔薬を作っていました。それをアモルさんだけでも思って、指を入れました」
「起きているのが私たちだけね。人気がないとルキスが感じたのは眠っているからだったのね」
素で耐えているエレクトラが周りの状況からそう解析していた。
「原因を探る必要がありますね。エレクトラ、レイたちをお願いします。私とルリが先に進んで、どうにかしてきます」
「頑張ってね」
アモルとルリはエレクトラにレイたちを任せ、先へと進んでいく。
シュテルへと近づくほど、眠気が強くなっていく。そのたび、ルリの体内で生成された魔薬を飲み、眠気を飛ばす。
「アモルさん、あれは?」
ルリは誰もが眠っているはずの状況で動く少女の影を目撃した。
「近づいてみましょう」
「すいません、ルリって言うんですが、どちら様ですか?」
近づくとその少女は紫髪で右目を隠すように眼帯をしていた。その人物にアモルは会ったことがあった。
「アモルか……」
「ルプスではないですか。大丈夫ですか?」
「大丈夫なように見えるのか……」
ルプスは重い瞼を必死に開け、眠気を耐えていた。
「これをどうぞ」
「これはどうも……」
ルリは指をルプスの口に差し出し、それを彼女はくわえた。するとスイッチが入ったように目が覚めた。
「ありがとな、ルリ。これでさっきより目が覚めたぞ」
「ルプスはこんなところで何をしていたんですか?」
「変な事件が起こっていると聞いたから、未知の種族だったら勧誘しようと思ったんだ」
「貴方はこの事件はある種族が起こしていると考えているんですか?」
「そうだな。仮にこれが魔術だったら、抵抗性がある奴がいるはずだから、もっと人が起きているはずだ」
「それではその種族を止めましょう」
アモルたちは新たに楔人のルプスを仲間に入れ、先へと進んでいく。
ついにシュテルへとたどり着いた。眠気はもはやルリの魔薬でも意味を成さず、頭の上に石蓋を乗せられたかのような重みと睡魔が波のように容赦なく襲い掛かる。
それでも、今にも落ちそうな瞼を必死に開け、原因となっている種族を見つけるべく、町を探索していく。そして、ついに見つけた。
「……この子が首謀者?」
ルリたちはその姿に驚きを隠せなかった。赤い服にブロンドの髪を持った少女であり、年は13歳であるルリより幼そうな雰囲気だった。
「貴方の名前は何というのですか?」
「……シュラーフ」
「なぜ、こんなことをしたんですか?」
「……勝手に眠っただけ」
「こいつは夢幻人という種族だ。周りを眠らせるのは制御が出来ていないから、自分の意思とは関係がないな。その特徴から知られることがなかった種族だ」
シュラーフの種族である夢幻人について、説明するルプス。
「この子は悪気があって、やったわけではないと」
「そうだな。生まれたときから孤独だったんだろう。寂しさから行動したんじゃないか」
「どうやったら、制御ができるようになりますか?」
アモルはシュラーフの行動が寂しさからものだったとしたら、その能力を制御できるようにすれば良いと考えた。その方法をルプスに尋ねた。
「無理だろう。制御できないのが種族の特徴だからな。できるとしたら、より強い力で抑えることじゃないか」
「例えば?」
「神力で使徒にしてもらうとか。しかし、神力を持っている奴は夢幻人以上に希少だ。少なくともウチは1人しか知らない」
「なら、私の出番ね」
どこからなく声が聞こえ、その主は空から降って来た。声の主のほかに2人の女性がいた。1人はサタンであり、その背には眠っているシュガーがいた。もう1人はルプスと知り合いだった。
「おっ、ルプスか」
「メロディじゃないか」
「ルプスという名前なのね。私は天人のシュテル・ビナー・グランツ。シュガーが大変お世話になっているわね」
「こちらこそ」
「貴方の考えだと使徒にすればいいのよね。それなら、この子を私の使徒にするわ」
「まさか、シュガーの姉も神力を持っているのか?」
ルプスの驚きをよそにシュテルはシュラーフへと近づくと膝を地面に着け、彼女と目線を合わせた。
「今まで1人だったんでしょう? けど、これからは1人じゃないわ。私たちと共にこれからを過ごしましょう」
「……うん」
シュテルは左手を、シュラーフは右手を前に出すと手を絡ませていく。シュテルの手が黄金に輝きだし、その光はシュラーフの手へと流れ、やがて体を包み込んだ。
その光が収まると2人の間に契約が結ばれる。
「まずは力を自分の中に収めるようにするの。広がっている掌で握りこぶしを作るような感覚でね」
「……分かった」
優しく声をかけられたシュラーフは指示された通りに自分を中心に広がっている力を集めていく。するとアモルたちに襲い掛かっていた眠気は嘘のように消えていった。
しかし、眠っているシュガーは起きる様子がなかった。
「シュガーが起きていないんですが」
「それはこの子の眠らせる力を抑えただけですでに効果が出ている人には手遅れみたいね」
アモルの疑問にシュテルが推測した答えを口にした。
寝ているシュガーにシュラーフが近づき、彼の体を揺さぶると目が覚め、のろのろとしながらも体を起こした。
「……私が触れて揺さぶると起こせる」
「ちょうどいいわ。シュガー、知恵を借りたいんだけど」
「寝起きで頭がうまく動かない……」
シュガーに今までのことを説明するシュテル。話を聞いた彼は解決案をなんとか出そうとした。
「姉さんがこの子を使徒にしたから、眠らせなくすることを制御できるようになった。それなら、魔術か何かで体質を一時的に変えることができれば、逆に起こすことができるようにすればいいと思うが」
「当てはある?」
シュテルにそう聞かれたシュガーはレアタイプである聖女のことを口にした。
「体質を変えることには知り合いである聖女と呼ばれる者の力を借りればできる。問題が1つ残る」
「それは何ですか?」
「広げる効率だ。話を聞く限り、広い範囲で眠ってしまっている。俺やレイがほかの人より反応したことを見るとシュラーフの力は匂いを出すことで眠らせていたのだろう」
「シュガーが何とかできないんですか?」
「俺は風の魔術を使うことができない。レイでは腕がまだ足りないだろう。もっと強い風が必要だ」
強い風と聞いて、アモルはレイのフィデスを思い出した。そのことを口にした。
「いや、レイならできますよ。魔術ではなく、彼のフィデスを使えばいいんです」
「アモルがそう言うならそうなんだろう。瞬間移動でレイと聖女を迎えに行ってくる」
シュガーがそう言うとその場から消えた。約10分後、シュガーが戻って来て、そばにはエクレールと膝の裏までありそうなほど長い緑髪の少女、脇にはレイが抱えられていた。
アモルはルキスがいないことに疑問を持った。
「ルキスはどうしたんですか?」
「ちゃんと目覚めているかの確認のために置いてきた。アルキュオネ、さっきに言った通り頼んだ」
「分かった、シュガーちゃん」
アルキュオネはレイに近づき、手をかざすと輝きだした。するとレイが起きた。
「いったい、今まで何が……」
「レイ、説明しますね」
アモルはレイに今までのことを説明した。
「アモルの話を聞く限りだと僕のフィデスが適しているね」
「では早速始めよう」
シュラーフにアルキュオネが近づくと手をかざす。シュテルはシュラーフにアドバイスした。
「広げることを考えず、自分から出すことに集中して。息を全身から吐くようなイメージで」
「……うん」
彼女は匂いを出すが、レイたちが眠る様子は無かった。アルキュオネの力で体質を変えることに成功していた。
そのことを確認したレイは英雄の力であるフィデスを発動させた。
「絶風弊絶」
レイのフィデスは自然界にある風を操り、周囲のエネルギーを吸収することができる。
その風は匂いを吸収し、目が覚める風となる。風に乗せ、それを拡散させていく。シュガーはリトスに耳に当て、何か話していた。
「ルキスから連絡があった。成功したはずだ」
「……良かった」
成功したと聞いたシュラーフの顔には今までに見られなかった笑顔を浮かび上がっていた。
「これからよろしくね、シュラーフ」
「……シュテル様……お世話になります」
新たに契約が結ばれた主と使徒の間には信頼が芽生えつつあった。




