第2話:扉を開くと。
「部屋」のあるビルには、家から数分で着く。
最寄り駅からは10分ちょっとかな。
大通り沿いに歩いて、郵便局の角を右に曲がって暫くすると、手前に緑色の、奥に黒い屋根の家が見えてくる。
そしたら、その間の路地を通るの。
道が開けると、そこにビルがあるの。
一見するとオフィスビルって感じ。
ここに来るの、中3のとき以来かな。
今が高2だから、2年前ってことか。
「じゃ、行こっか。」
私よりちょっと前に立ち止まってるニーナに声を掛けると、ニーナはこっちを振り返って、
「ニャー。」
と返事してくれた。
ビルの出入口は自動扉。
ニーナが先に入っていき、私はその後に続いた。
ビルの中は吹き抜けで、左右に階段があり、10階まで左右に各々20部屋程ある。
奥にはエレベーターもあるけど、私は滅多に使わない。
だって、階段を使った方が色んな人達の「部屋」の扉が見れるから。
「部屋」の扉も各々違うの!
木製のだったり、鉄製のだったり。
ステンドグラスで装飾された扉もあれば、鎖でぐるぐる巻きにされてて、何個か鍵が必要な扉もあって。
ここはちょっとした博物館みたいで、それを見るだけで気分転換になるんだ。
それにしても、これだけ扉があると、アラタの扉を見つけるのも一苦労だなぁ。
あ、管理人さんに訊けば良いのか。
1階のエレベーターの手前に管理人室があるので、そこに行ってみた。
「すみませーん・・・すみませーん。」
映画館や水族館の窓口のようにガラスで隔たれていて、中は黒い暖簾のようなものが掛かってる。
ちょっとすると、管理人さんらしきおじさんの口から下だけ見えた。
「はいはい、何か御用ですかね。」
「あの、友達の「部屋」を探していまして。ミウラアラタって言うんですけど。」
「ミウラアラタね。ミウラ・・・アラタ・・・と。」
おじさんはパソコンで検索をかけてるのか、打ち込み始めた。
「はいはい、分かったよ。4階の、こっちから見て右っかわの階段登って、管理人室寄の「部屋」4つ目、グレーで、彫刻が施された扉だね。」
「分かりました、ありがとうございます。」
暖簾があるからおじさんには見えてるのか分からないけど、とりあえず一礼してアラタの「部屋」を目指した。
ミウラアラタの「部屋」。
各々の「部屋」の扉の上には、表札のようにちゃんと名前が書いてあるのだ。
扉には触れるが、取っ手を下に下ろそうとしても鍵がかかっているみたいで、開かない。
アラタの扉は蔦模様に彫られていた。
模様に手を触れてなぞっていると、蔦模様とは明らかに違う、ばつ印のようなものが。
「ニャー。」
ニーナが首元を掻いた。
「あ、あれだ。」
私は胸元にぶら下げていたネックレスを引っ張り出した。
このネックレスのモチーフのやつとそっくりなんだ。
中1のときの誕生日に、アラタがプレゼントしてくれたんだ。
モチーフをそこに当てると、ピッタリはまった。
すると、カチャという音がしたので取っ手を下に下ろしてみた。
ガチャ・・・っ。
扉が開いた!!
やった!と思ってたら、ニーナはするりと中に入っていった。
「ちょ、ちょっとニーナ待ってよ!」
なーんか、ダシに使われた気分だなぁ。
まぁ、とりあえず入れるってのが分かっただけ、良しとしましょうか。
ニーナの後を追って、私も「部屋」の中へ入った。
中に入ると扉は勝手に閉まる。
そして一瞬だけ周りは闇に包まれる。
この瞬間だけ、どうにも慣れないんだよなぁ。
「部屋」の存在というものが、謎に包まれているせいか、ちょっと怖いって思うんだ。
一瞬だけ訪れる闇が去ると、アラタの「部屋」には砂漠が広がっていた。
「うわー!砂漠!だだっ広い!!」
両手を上げて叫んだ。
「前、こんなの無かった気がするけど・・・。」
「まぁ、「部屋」の中身なんて、持ち主次第で変えられるからね。」
・・・ん?誰だ?
周りをキョロキョロと見てみるが、誰もいない。
「ちょっと、どこ探してるのよ。今はアンタ以外にアタシしかいないでしょ。こっちよ、下よ。」
足元にはニーナしかいないはず。
「・・・へ?」
「何間抜けな声出してるのよ~。」
「うわ!ニーナが喋ってる!!」
「アラタの「部屋」に来たら、アタシ人間の言葉で話せるのよ。アラタがアタシと話せたら良いなって言ってて。アラタとはよく一緒に来て、ここで話してるのよ。言わばアタシたちのデートスポット。だから、ホントはアンタと一緒に来たくはなかったけど、アタシだけじゃ鍵も無いから入れなくて、渋々よ・・・!」
あー・・・今ので全て納得した。
「ニーナはアラタのことが好きなんだねぇ。」
「そうよ!アラタもアタシのこと、だぁ~い好きだから、いっつもラブラブよ!」
「うん・・・、そうかそうか・・・。何回も来てるなら、道案内してくれるのかな?」
「アラタの記憶、夜には無くなっちゃうから仕方無いけどね!ホントはこの砂漠でアンタを迷子にしてやっても良いんだけどね!」
「ニーナ、酷いな・・・。何で私にそんなに当たりが強いの?」
「だって、アラタ取っちゃうから・・・。アタシ、アラタがいないと寂しいのよ・・・。」
「そんな風に思ってたんだ。じゃあ今度アラタと会うとき、ニーナも誘うよ。それで良いでしょ?」
「・・・アンタがいるのは邪魔だけど、アラタといられるなら・・・。」
「よし、決まり!じゃあアラタのとこまで案内して!」
「・・・分かったわ、でも、時間無いから走るわよ!」
「了解!」
私とニーナは走り出した。
ただっ広い砂漠の中を。
何も無いわけではなく、たまに2メートルくらいのでっかいサボテンがある。
それを目印にしているのか、ニーナは迷いなく走っていく。
私もその後を走って着いていってると、遠くの方で人影が見えた。
その方向を指差しながら、
「ねぇ、ニーナ、あそこの人たちとは話したことある?」
と訊いてみた。
「あの人たちは何も話さないわ。人の姿してるけど、ただの背景と一緒。こっちを見てもくれないわ。」
「ふーん、そうなんだぁ・・・。」
走ってると、何だか足元がぐらついてきている気がした。
「ね、ねぇ、ニーナ。何かグラグラするんだけど、私運動不足なのかな?」
「それもあるかもしれないけど、下に何かいるわ。」
「え、この砂漠の下に?こんなグラグラするんだよ?すっごいデカい何かだよね?!」
「もしかしたら、サソリかもしれないわ・・・。前にサソリ出てきたの、見たことあるわ・・・。」
「ギャー!でっかいサソリなんて、恐怖でしかない!!」
騒いでると砂がボコボコと盛り上がってきた。
私とニーナはキャーとかうわーとか叫びながら、それでも止まらず走っていると、地中に潜んでた物体が姿を現した!!
「ギャー!さそ・・・り・・・じゃない!え、何?!ハムスター?!」
地中から出てきたのは、3メートルはあるであろう、ゴールデンハムスターだった。
(つづく。)