クレアの選択
三十分はあっという間に過ぎた。ラグナルは先頭を走り、まったく速度を落とさない。背中に乗せた貴族の受験者が方向を指示し、クレアと私はその後を必死に追った。
呼吸は荒く上下し、脚は震えている。それでも遅れないように無理やり動かし続けた。地面から突き出た根を注意深く見つめ、躓かないようにする。
港町で生きてきた魔法使いの私にとって、こんな森を走るのは初めてだ。気を抜けば何度も転んでいただろう。それに――
「はぁ……はぁ……」
私の身体は貧弱で鍛えられていない!
転びかけた瞬間、クレアが支えてくれた。
「大丈夫、アリシア?」肩を貸しながら尋ねる。「体力が戻るまで休む?」
「だめ。遅れるわ、クレア。」乱れた息の合間に答える。「それにしても、あの人の走る速さは何なの? さっきまで普通だったのに。」
クレアは微笑んだ。「大丈夫よ、アリシア。私が獣人だって忘れたの?」誇らしげに猫耳を指さす。
私は額を叩いた。「どうして思いつかなかったのかしら。」
そうだ。鋭い感覚を持つ獣人なら追跡は容易だ。匂いでも聴覚でも。
クレアは再び休むよう勧めた。私は一瞬考えたが、きっぱり断った。
理由は単純。
ラグナルは強い。非常に強い。だが彼は戦闘者ではない。だからこそ「戦えない」と言い張るのだろう。そして戦いでは、純粋な力だけでは鋭い戦闘本能を持つ魔物を仕留めきれないこともある。
震える脚を無理やり伸ばす。「行くわよ、クレア。」
クレアは静かに首を振る。「その脚では走れないわ、アリシア。着いても集中できない。」
「体力が尽きるだけで、魔力はある。」
「同じことよ。結局集中力を失う。」
反論できない。それでも決意は消えない。
「分かっているけど……」
クレアは不思議な笑みを浮かべた。「なら……これが解決策。」
「えっ、ちょ、ちょっと何してるの?!」
突然、彼女は私をお姫様抱っこで抱え上げた。恥ずかしいが、抵抗する気力もない。これがクレアだ。少し背中を押せば自信を持つ。
私はこれを、彼女の心を完全に掴んだ証だと思うことにした。
クレアは何も言わず走り出す。速く、俊敏で、自由だ。倒木を軽々と飛び越え、木々の間を縫い、泥も気にしない。
なぜ最初に会った時、あんなに遅く走っていたのか疑問だった。今なら分かる。ずっと私に合わせていたのだ。
誠実な子だ。
一分も経たず、先ほど見失ったラグナルの広い背中が見えた。
クレアは小さく笑い、突然跳躍。忍者のように木から木へと移る。
「少し揺れるかも、アリシア。」
「大丈夫。海の波の方がずっと激しいわ。」
十秒後にはラグナルの隣に立っていた。
彼は私を抱えるクレアを見てわずかに眉をひそめたが、何も言わない。私は小さく笑う。考えていることは分かる。
「止まれ!」
背中の受験者の声で止まる。弱々しく右手を指し示す。暗い森の奥だ。
私は目を凝らすが何も見えない。クレアに尋ねようとしたが、彼女の顔の恐怖に気づき止まった。
「クレア……?」
「アリシア……あそこにいる魔物……危険よ。」
鼻をひくひくさせ、猫耳がぴんと立つ。もし尻尾が見えたなら、激しく揺れていたはずだ。
私は唾を飲む。
「無理はしなくていい。」ラグナルは男を降ろしながら言う。「危険かもしれない。だが助けてほしい。あなたの言葉を借りるなら、二人より三人、三人より四人の方がいい。」
私はクレアの紫の瞳を見つめた。「どうする、クレア?」
クレアは深く息を吸い、木々に隠れた空を見上げる。「私は……ずっと役立たずだと感じていた。」小さく呟く。「拳はあるのに隠れ、口はあるのに父に遮られる。いつも後ろで見ているだけ。」
無意識に私の腕を握る力が強まる。言葉にならない感情が伝わる。
私は眉を上げる。「で、答えは?」
彼女は顔を下げ、優しく微笑んだ。
「もちろん行く!」
「決まりね。行くわよ!」私は拳を突き上げた。
「やる気は結構ですが、いつまでぶら下がっているのですか、レディ?」
「あ……そうだった。」
ようやくクレアの腕から降りた。
私たちは茂みの陰に身を潜め、二体の魔物の巣である洞窟を観察した。
先ほど救った貴族、ダニの話では、彼とメイドは他の受験者数名と協力し、森の奥の強力な魔物を狩る予定だった。
誤ってこの縄張りに踏み込み、二体に襲われた。半数以上が殺され、生きたまま洞窟へ引きずられた者もいる。ダニのメイドもその一人だ。
彼は幸運にも逃げたが、肩を刺された。なぜか魔物は彼を追わなかった。目を閉じた瞬間には消えていたという。
ダニは助けたいが、重傷で力不足。逃げて助けを求めるのが最善だった。
私は隣のダニの腕をつつく。「ねえ、本当にスピキュロフェリスだったの?」
「はい。しかも変異個体です。」
私は頷く。
一体が変異すると、近くの個体も変異することが多い。群れで暮らす種に多い現象だ。
「で……どうやって倒すの? 笑顔で挨拶するわけじゃないでしょう?」
ダニは咳払いする。
「正直、計画はありません。あなた方を呼んだ時、何も考えていなかった。本当に申し訳ない。」
「いいのよ。倒してメイドを救えばいい。」
私は胸を張る。「ここからは私が指揮してもいい? 二体を仕留める策がある。」
「構いませんが……どうやって? あの魔物は多くを容易く殺しました。」
「量より質よ。分かるでしょう、ダニ?」
ダニは頷きも首振りもしない。ただ唾を飲む。すぐ分かるわ。
私はラグナルに狡猾な笑みを向ける。「戦えないさん、あなたにやってもらうことがある。」
ラグナルは眉をひそめる。「だから私は――」
「戦えない、はいはい聞き飽きた。戦えとは言わない。あの狼の群れのように粉砕してと言っているの。」
顔を近づけ、挑発的に笑う。
「できるでしょう?」
「……やります。」
よし。準備は整った。あとは実行のみ。私は素早く周囲を観察し、頭の中で全体の策を組み立てる。
ここが、あの二体の墓場になる。




