ミッションを開始します!
大まかに機体を組んでから微調整を繰り返し、ついに完成したのは深夜1時。
時間が遅いということで、昨日は解散となった。
「はぁ…ねむ…」
休憩時間の教室で俺は欠伸を漏らす。
今夜──ゾエは初めてティタンを操縦する。
初実戦はアルビナ先生直伝の金策ミッション、ハエ叩きと野良ティタンが相手だ。
どんな戦いを見られるのか、楽しみだぜ。
「でかい欠伸だな、寝不足?」
「ああ…ロマンの追求に犠牲は付き物なのさ」
でも、こうして中森と話してる休憩時間は寝れないんだよな、不思議!
さっきの高校物理は才女ムリヤさんを思い出して耐えたけど、睡魔との戦いだった。
「あれか、ティタン・フロントライン?」
「おう」
「最近、俺も情報追ってるんだけど、イベント目白押しって感じなんだな」
「俺は始めたばっかりだから、毎日がイベントだぞ」
俺に関係する騒動は脇に置いても、毎日が驚きの連続だ。
ロボットバトル目当てに始めたが、これはこれで悪くないかもしれない。
「いいなぁ…俺もロボット動かしたい」
「欲しいゲームだらけだな」
中森は欲しいゲームのため、アルバイトに励んでいる。
しかし、昨日は第二次世界大戦を題材にしたVRMMOをお求めだった。
どれか一つに絞った方がいいと思うんだよな。
ここは布教するしかあるまい!
「中森、ティタンは良いぞ…かっこいいし、最高だ」
悲劇的な語彙力!
おのれ、寝不足。
具体的な魅力が何一つ伝わらないぞ。
そもそも、俺は相棒以外のティタンを知らないからレビューが偏る。
「分かる」
なんだって?
エスパーになっちまったか──おもむろにスマホを取り出す中森。
画面には、赤い砂丘とオレンジの弾幕、それを紙一重で躱す巨人が映る。
相変わらず決まってるぜ。
どう見ても相棒だよ、これ。
「最近、Vってプレイヤーの動画を見てんだけどさ……あれはかっこいいわ」
「お、おう…」
誰だろうな、そいつ。
友人の夢を壊さないため、大人しく口を噤む。
俺は空気の読める男だ。
「2人とも何見てんの?」
男子2人が眺める画面を、躊躇なく覗き込む女子。
一昨日、中森とのアニメ談義に参加してきた横山さんだ!
ポニーテールで快活そうな印象を受けるが、アニメについて俺より詳しい自称インドア派。
「こんな感じで愛機を動かせたら最高だろうなって」
「ふむ……うわっ今のキックすごっ…これって何かのPV?」
AP弾を跳び越し、相棒のキックが繰り出されたところで動画は暗転する。
右下に表示された再生数、桁が6つ並んでるんだが?
「いや、対人戦の動画」
「え、プレイ動画なの?」
「そうだよ」
中森と横山の会話が、いまいち頭に入ってこない。
1週間も経ってない動画で、これ。
俺が配信者になったら、どうなるんだろ──邪念よ、去れ!
俺はロボットバトルがしたいんであって、配信者になりたいんじゃない。
ゾエちゃんのエスコートについて考え、心を落ち着かせろ。
かっこいいロボットの雄姿を思い出せ。
よし、大丈夫!
「Vってプレイヤー…どうした、本田?」
「邪念と…戦ってた」
邪念に打ち勝った俺の絞り出すような声。
それに対して中森と横山は、かわいそうなものを見る目を向ける!
「…寝不足だもんな」
「寝不足なら仕方ないね」
◆
≪ミッション開始だ≫
ロックを解除する音が響く。
そして、輸送ヘリコプターから落下する相棒。
上へと流れていく視界の中、ゾエの操るティタンを見遣る。
≪フランベ、出撃します!≫
ヘイズの機体より大型の逆脚で、全体的にマッシブだ。
右腕にはライフル、左腕にはスナイパーライフルを装備。
塗装は、ゾエの要望で相棒と同じ灰色。
最も目を引くのは──右肩のロマン武器、クローバーラインだ。
ペダルを蹴ってスラスターを噴射、着地。
赤茶けた砂が舞う中、俺はフランベの背中を見送る。
「フランベの実力、見せてもらうぜ…!」
≪お前も行け≫
「うっす」
そりゃそうだ。
今日のエスコートは俺だけだもんな。
ヘイズはゾエの隣でオペレーター兼コーチング中、師匠は所用で欠席中なのだ。
≪おおお…あ、敵を捕捉しました!≫
「早っ」
相棒を軽々と振り切ったフランベは、放棄都市の外縁にいるハエ叩きを捕捉した。
後先考えずにかっ飛んでいったけど、エネルギーは大丈夫?
≪むむっ! エネルギー切れです!≫
「やっぱりかぁ…」
案の定、落下を始めるフランベ。
初めての時は、飛べるだけ飛ぶよな。
俺もそうだった。
≪敵が撃ってくるぞ、ゾエ≫
放棄都市からオレンジの光弾が撃ち上がり、フランベに直撃。
遠目でも跳弾が確認できた。
「ゾエ、やられる前にやれ!」
≪はい!≫
スナイパーライフルが火を噴き、一筋の光が放たれる。
放棄都市で閃光が瞬く──初弾命中か?
その間にも跳躍と自由落下を繰り返し、とにかく距離を縮める。
≪エネルギー残30%≫
がんばれ、相棒!
≪撃破しました! 初撃破です!≫
≪いい腕だったぞ、ゾエ≫
≪はい!≫
ようやく、フランベの着地したビルの下に滑り込む。
大丈夫、まだミッションは始まったばかりだ。
出番はある!
≪でも、被弾してしまいました…≫
≪回避機動ができるようエネルギーに目を配れ≫
≪はい! 次はエネルギー管理に気を付けて……行きます!≫
逆脚が蓄えたパワーを解放し、ビルの屋上から消える。
舞い上がるコンクリート片、空中に身を躍らせるフランベ。
あちこちから対空砲火の軌跡が伸びる。
さすがに、あの数は──
「お」
≪ほぅ…やるな≫
赤い閃光を纏ったフランベが、空中を横へ滑った。
ハエ叩きの偏差射撃を振り切り、すかさずスナイパーライフルの砲口が火を噴く。
≪まず、1つ!≫
レーダーから赤点が消えた。
回避が大袈裟だったせいで、フランベのスラスターが切れる。
高架橋へ向かって自由落下──接地と同時に再跳躍。
≪2つ! 3つ!≫
上空から的確な狙撃を行うフランベ。
それを追う相棒のレーダーから次々と赤点が消える。
初実戦とは?
≪4つ!≫
「早い早い…!」
高度を上げて目標を捕捉、狙撃、エネルギー回復のため自由落下。
それを繰り返し、ハエ叩きをスクラップに変えていく。
俺の出番ないな。
≪まだ粗削りだが、吸収が早いな≫
「ヘイズの教えが良か──」
≪あ、左腕武器の残弾が0になりました≫
威力を重視したモデルゆえに弾数は少ない。
景気良く撃てば、そうなるな。
だが、まだ恐るべきロマン武器は使っていない。
ハエ叩きは全滅──次は野良ティタンだ。
放棄都市の中心へ再び相棒と降り立つ。
前回は会えなかったが、今日こそは面を拝ませてもら──
≪遅かったな≫
何奴!
レーダーの赤点は10時方向、4500mの距離で静止。
≪ヘイズ、ブリーフィングのティタンと形状が違います…≫
困惑気味なゾエの言葉を、ヘイズは肯定する。
≪ああ、あれはノーヘッドではない≫
野良ティタンことノーヘッドは、またしても放棄都市の砂に埋もれていた。
彼が何をしたって言うんだ!
下手人は高層ビルの屋上──細身のティタンだ。
揺らめく赤い眼光。
武装は両腕のハンドガンのみ。
絞ったボディの塗装はオレンジ、いやカッパーか?
≪待ち伏せとは、アリーナ3位の名声も地に落ちたと見える≫
≪ふん…ただの依頼だ≫
≪初代フレイムロッカーに依頼とは、とんだ物好きもいたものだな≫
≪ちっ…お前に用はない、杭打ち狐≫
オブラートに包まず煽るヘイズ、不本意そうなアリーナ3位さん。
どうやら知り合いらしい。
めちゃくちゃ空気が悪い!
≪そこのニュービー、いやVと言った方がいいか?≫
アリーナ3位さんの視線は俺に向いている。
まだロックオン警報は鳴らない。
「Vでお願いします」
≪分かった≫
両腕のハンドガンが、ゆっくりと砲口を相棒へ向ける。
あのアンティークなデザイン、見覚えがあるぜ。
フレイムロックだ。
≪V、今からお前を殺す≫
そこから初心者狩りのような悪意は感じない。
「物騒っすね」
≪悪いな。依頼した奴を恨め≫
ただ、純粋に研がれた闘争の意志。
妙な高揚感を覚える。
≪まぁ…興味がない、と言えば嘘になるか≫
自嘲気味に笑うアリーナ3位さん。
スティックを握り直し、ペダルに乗せた足の位置を微調整。
本日のエスコートは終了。
ここからは、ロボットバトルの時間だ。
≪J・Bの弟子、精々足掻いてみろ≫




