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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
ラボラトリー
18/75

対象と交渉してください

「一昨日来やがれ、なんよ!」

「クレジットを振込んだら帰ってやるよ!」

「今月分は払ったんよ!」

「足りねぇな! とっとと駄作機を解体しやがれ!」

「駄作っ……もう許さねぇんよ!」


 怒号と銃声に満たされた店内。

 俺の隣で、マシンピストルだけカウンターから突き出して射撃中のムリヤさん。

 ぺちぺちと薬莢が背中に当たる。


「大丈夫か?」


 俺の頭、ヘルメットに突き刺さった破片を雑に引き抜くヘイズ。


「おう、ヘルメットに感謝だな」


 壁面に弾痕が穿たれ、細かな粉塵が降ってくる。

 しかし、カウンターだけは甲高い金属音を立てて銃弾を防ぐ。

 さてはティタンの装甲だな、これ。


「取立に遭遇するとはな……どうする?」


 師匠はカウンターへ背中を預け、変わらぬ調子で聞いてくる。

 さすが師匠だ。

 まるで動じてねぇぜ。


「決まっている。こいつに傷をつけた」


 破片を投げ捨て、黒いロングコートの影から厳つい得物を取り出すヘイズ。

 大型リボルバーってロマンだよね。


「後悔させてやる」


 銃声が止んだ瞬間、ヘイズはカウンターから半身を晒す。

 義手が握った大型リボルバー、その銃口が店内を睨む。


「おまっ杭打ちきっ──」


 取立屋が最後まで言う前に、銃口が火を噴く。


 容赦ねぇ──立て続けに発砲!


 銃声と断末魔は6回。

 射撃の反動をヘイズの義手は簡単に抑え込む。


「くそっ撃て!」


 すぐさま頭を下げるヘイズ、遅れて銃撃が頭上を掠めた。


「ふん、素人が」


 大型リボルバーのシリンダーから排莢。

 薬莢が乾いた音を立てる中、スピードローダーを取り出す。

 いちいち取り出すガジェットがかっこいいぞ!


「ふむ…少々まずいかもしれん」


 隙を見て、カウンターからバケツ頭を僅かに覗かせる師匠。

 それに倣って俺も少しだけ頭を出す。


 店内は硝煙で煙ってるが、店外に──人影?


 いや、人なんかじゃない。

 その武骨なデザインはティタンに近かった。


「ティタン、じゃないよな…なんだあれ?」

「あれはエクソスケルトンなんよ」

「面倒だな」


 俺の両隣から頭を覗かせる兎耳と狐耳。

 それを捕捉したらしいエクソスケルトンは、ゆっくりと姿勢を落とす。

 そして、左肩の2連装ランチャーがカウンターを睨む。


「来るぞ」

「マジかよっ」


 上体を起こし、カウンターに足を掛ける。

 同時にランチャーから弾体が飛び出す。


 カウンターを蹴った瞬間──視界が閃光に覆われた。


 それから一気に暗転、酷い耳鳴りに襲われる。

 リアリティの追求が過ぎるだろ。

 ぐわんぐわんと視界が揺れる。


「少年、無事か」


 師匠の落ち着いた声が聞こえ、ようやく目が像を結ぶ。

 気が付くと店の床に転がっていた。


「なんとか…」

「おっと、起き上がるなよ、少年」


 隣で悠然と寝転がる師匠の忠告。

 遅れて、脇を銃弾が掠める。

 危ねぇ!


「ムリヤ、逃げられるとぁっ」


 乾いた銃声の後、床に倒れ伏す黒塗りサイボーグさん。

 南無三。


「これで外の奴だけか」

「あいつが一番厄介なんよ」


 コンテナの影から店外を窺うヘイズとムリヤさん。

 ここからだとコンテナが死角になって見えないが、足音が次第に大きくなる。


「どうやら、私の出番のようだな」


 そう言って右腕を掴む師匠。

 一体何を──


「師匠、それは…!」


 右腕のパーツが分離し、姿を現したのは()()

 空気の抜けるような音が響き、それは見慣れた姿へ変形する。


「XR214LRだ」


 マジかよ、師匠。

 愛機どころか体にまでレールガンを組み込んだのか。

 なんて覚悟だ。


「ヘイズ君、時間を稼いでくれ」

「…いいだろう」


 若干不服そうだが、承諾したヘイズがコンテナから飛び出す。


 重々しい銃声が響き──黒い影の通り過ぎたコンテナが吹き飛ぶ。


 大型リボルバーを片手で撃ちながら、敵弾を潜って店外へ飛び出すヘイズ。

 俺の友人はガンアクションの主人公か?


「少年、私の右腕を頼む」

「うっす!」


 投げ渡された右腕を抱え、師匠の雄姿を見送る。

 歩み出した師匠の右腕、砲身から青い光が瞬く。


≪戦闘モード起動≫


 バケツ頭のセンサーが明滅し、耳慣れた機械音声が響く。

 右腕に左腕を添え、師匠は躊躇なくコンテナの影から飛び出した。


「──もらったぞ」


 照準、発砲。

 突き出されたレールガンから閃光が放たれる。


 巻き上がる粉塵、そして──爆音が鳴り響く。


 コンテナの影から出て、ポーズを取る師匠の隣に並ぶ。

 店外には、炎上するスクラップとロングコートから埃を払うヘイズの姿が見えた。


「やっぱり、ゲームジャンルが違うよな」


 かっこいいけど。



 物理的に風通しの良くなった店内。

 無事なコンテナに腰かけ、何食わぬ顔で交渉は続いていた。

 よくあるハプニングらしい。

 怖い世界だぜ、ティタン・フロントライン。


「…助太刀の恩は返したいけど、無い袖は振れないんよ」

「カマール3を使わない選択肢は?」


 交渉は難航中だ。

 ここまでヘイズが粘るのは、それだけルンルンの性能を買ってるってことだ。


「本当の特攻になるんよ……引き受けるなら依頼は達成したいんよ」


 しかし、ムリヤさんは最大限のパフォーマンスを発揮できないから承諾できずにいる。

 そりゃそうだろう。

 片道切符でも有意義なフライトにしたいのが人情だ。


「ムリヤさん、ルンルンってオーダーメイドなんですよね?」

「そうなんよ! 重量級ティタン18機分の建造費がかかった自信作なんよ! ティタン・フロントライン最速のWIGなんよ!」


 鼻息荒く語るムリヤさん。

 重量級ティタン18機分の相場は分からないが、高いことだけは俺にも分かる。

 そう易々と自信作を壊させるわけにはいかねぇな。


「ヘイズ」

「どうした?」


 顎に手を当てて思案中のヘイズさんに朗報だぜ。


「俺の手持ちを足せばどうよ?」


 端末を差し出し、前払いのクレジットが抜かれた俺の残高を見せる。

 レールガンは買えないが、ミサイルくらい買えるだろ!

 買えるよな?


「……お前の貯金だろう?」


 ゲーム内通貨は使うためにあるんだぜ?

 無くなったら、またミッションで稼げばいい。


「勝率は少しでも上げたい、だろ?」

「それは……」

「言いだしっぺの俺が出し渋るのは筋が通らねぇよ」


 交渉を丸投げしておいて偉そうなことは言えないが、初心者でも出来ることはある。

 なら、それをするだけだ。


「それに──」


 ヘイズ曰く()()()()()、気になるよな。


「ムリヤさんの自信作が、万全の状態で飛ぶところが見たい」


 自信作への情熱は初めしか聞けてないが、それでも熱量を感じ取れた。


「人の熱量が形になったものは、門外漢が見ても絶対かっこいい」


 分からなくても分かるんだよ。

 ロマンに言葉は不要だ。


 不意に両手を握られる──目を潤ませたムリヤさんに。


「そんなことを言ってくれたのは、君が初めてなんよ……こんなに、嬉しいことはないんよ」


 ヘイズも口に出さないけど、ルンルンを高く買ってると思うぜ。

 ただ、ここまで感謝されると、俺まで嬉しくなってくる。


「ふっ…少年、私が──」

「私が出す」


 師匠が端末を取り出す前に、ヘイズが端末をタップ!

 ムリヤさんに提示していた前払の額が、ぐんと跳ね上がる。

 もしかしてカマール3、めちゃくちゃ高い?


「…いいのか?」

「借りを返すだけだ」


 借りって()()はノーカウントだって。

 律儀だな、本当に。


「これで問題ないな、ムリヤ」


 二言はないと言わんばかりに、ムリヤさんへ端末を押し付ける。

 ヘイズに借りができちまったぜ。

 次は、利子つけて返すから覚えてろよ。


「おお、これならカマール3どころかディスペンサーとECMを新調できるんよ!」


 顔に押し付けられた端末を手に持ち、ムリヤさんが感嘆の声を上げる。

 きらきらと目を輝かせて、すごく眩しい。


「確かに引き受けたんよっ…すぐ取り掛かるんよ!」 


 腕捲りするムリヤさんは、吹き飛んだカウンターの残骸へ向かう。 


 残骸を乗り越える途中、兎耳が立ち──くるりと振り返って俺にサムズアップ。 


「君に最高のフライトを見せてあげるんよ!」 


 今のは、きゅんと来たね。 

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