対象と交渉してください
「一昨日来やがれ、なんよ!」
「クレジットを振込んだら帰ってやるよ!」
「今月分は払ったんよ!」
「足りねぇな! とっとと駄作機を解体しやがれ!」
「駄作っ……もう許さねぇんよ!」
怒号と銃声に満たされた店内。
俺の隣で、マシンピストルだけカウンターから突き出して射撃中のムリヤさん。
ぺちぺちと薬莢が背中に当たる。
「大丈夫か?」
俺の頭、ヘルメットに突き刺さった破片を雑に引き抜くヘイズ。
「おう、ヘルメットに感謝だな」
壁面に弾痕が穿たれ、細かな粉塵が降ってくる。
しかし、カウンターだけは甲高い金属音を立てて銃弾を防ぐ。
さてはティタンの装甲だな、これ。
「取立に遭遇するとはな……どうする?」
師匠はカウンターへ背中を預け、変わらぬ調子で聞いてくる。
さすが師匠だ。
まるで動じてねぇぜ。
「決まっている。こいつに傷をつけた」
破片を投げ捨て、黒いロングコートの影から厳つい得物を取り出すヘイズ。
大型リボルバーってロマンだよね。
「後悔させてやる」
銃声が止んだ瞬間、ヘイズはカウンターから半身を晒す。
義手が握った大型リボルバー、その銃口が店内を睨む。
「おまっ杭打ちきっ──」
取立屋が最後まで言う前に、銃口が火を噴く。
容赦ねぇ──立て続けに発砲!
銃声と断末魔は6回。
射撃の反動をヘイズの義手は簡単に抑え込む。
「くそっ撃て!」
すぐさま頭を下げるヘイズ、遅れて銃撃が頭上を掠めた。
「ふん、素人が」
大型リボルバーのシリンダーから排莢。
薬莢が乾いた音を立てる中、スピードローダーを取り出す。
いちいち取り出すガジェットがかっこいいぞ!
「ふむ…少々まずいかもしれん」
隙を見て、カウンターからバケツ頭を僅かに覗かせる師匠。
それに倣って俺も少しだけ頭を出す。
店内は硝煙で煙ってるが、店外に──人影?
いや、人なんかじゃない。
その武骨なデザインはティタンに近かった。
「ティタン、じゃないよな…なんだあれ?」
「あれはエクソスケルトンなんよ」
「面倒だな」
俺の両隣から頭を覗かせる兎耳と狐耳。
それを捕捉したらしいエクソスケルトンは、ゆっくりと姿勢を落とす。
そして、左肩の2連装ランチャーがカウンターを睨む。
「来るぞ」
「マジかよっ」
上体を起こし、カウンターに足を掛ける。
同時にランチャーから弾体が飛び出す。
カウンターを蹴った瞬間──視界が閃光に覆われた。
それから一気に暗転、酷い耳鳴りに襲われる。
リアリティの追求が過ぎるだろ。
ぐわんぐわんと視界が揺れる。
「少年、無事か」
師匠の落ち着いた声が聞こえ、ようやく目が像を結ぶ。
気が付くと店の床に転がっていた。
「なんとか…」
「おっと、起き上がるなよ、少年」
隣で悠然と寝転がる師匠の忠告。
遅れて、脇を銃弾が掠める。
危ねぇ!
「ムリヤ、逃げられるとぁっ」
乾いた銃声の後、床に倒れ伏す黒塗りサイボーグさん。
南無三。
「これで外の奴だけか」
「あいつが一番厄介なんよ」
コンテナの影から店外を窺うヘイズとムリヤさん。
ここからだとコンテナが死角になって見えないが、足音が次第に大きくなる。
「どうやら、私の出番のようだな」
そう言って右腕を掴む師匠。
一体何を──
「師匠、それは…!」
右腕のパーツが分離し、姿を現したのは砲身。
空気の抜けるような音が響き、それは見慣れた姿へ変形する。
「XR214LRだ」
マジかよ、師匠。
愛機どころか体にまでレールガンを組み込んだのか。
なんて覚悟だ。
「ヘイズ君、時間を稼いでくれ」
「…いいだろう」
若干不服そうだが、承諾したヘイズがコンテナから飛び出す。
重々しい銃声が響き──黒い影の通り過ぎたコンテナが吹き飛ぶ。
大型リボルバーを片手で撃ちながら、敵弾を潜って店外へ飛び出すヘイズ。
俺の友人はガンアクションの主人公か?
「少年、私の右腕を頼む」
「うっす!」
投げ渡された右腕を抱え、師匠の雄姿を見送る。
歩み出した師匠の右腕、砲身から青い光が瞬く。
≪戦闘モード起動≫
バケツ頭のセンサーが明滅し、耳慣れた機械音声が響く。
右腕に左腕を添え、師匠は躊躇なくコンテナの影から飛び出した。
「──もらったぞ」
照準、発砲。
突き出されたレールガンから閃光が放たれる。
巻き上がる粉塵、そして──爆音が鳴り響く。
コンテナの影から出て、ポーズを取る師匠の隣に並ぶ。
店外には、炎上するスクラップとロングコートから埃を払うヘイズの姿が見えた。
「やっぱり、ゲームジャンルが違うよな」
かっこいいけど。
◆
物理的に風通しの良くなった店内。
無事なコンテナに腰かけ、何食わぬ顔で交渉は続いていた。
よくあるハプニングらしい。
怖い世界だぜ、ティタン・フロントライン。
「…助太刀の恩は返したいけど、無い袖は振れないんよ」
「カマール3を使わない選択肢は?」
交渉は難航中だ。
ここまでヘイズが粘るのは、それだけルンルンの性能を買ってるってことだ。
「本当の特攻になるんよ……引き受けるなら依頼は達成したいんよ」
しかし、ムリヤさんは最大限のパフォーマンスを発揮できないから承諾できずにいる。
そりゃそうだろう。
片道切符でも有意義なフライトにしたいのが人情だ。
「ムリヤさん、ルンルンってオーダーメイドなんですよね?」
「そうなんよ! 重量級ティタン18機分の建造費がかかった自信作なんよ! ティタン・フロントライン最速のWIGなんよ!」
鼻息荒く語るムリヤさん。
重量級ティタン18機分の相場は分からないが、高いことだけは俺にも分かる。
そう易々と自信作を壊させるわけにはいかねぇな。
「ヘイズ」
「どうした?」
顎に手を当てて思案中のヘイズさんに朗報だぜ。
「俺の手持ちを足せばどうよ?」
端末を差し出し、前払いのクレジットが抜かれた俺の残高を見せる。
レールガンは買えないが、ミサイルくらい買えるだろ!
買えるよな?
「……お前の貯金だろう?」
ゲーム内通貨は使うためにあるんだぜ?
無くなったら、またミッションで稼げばいい。
「勝率は少しでも上げたい、だろ?」
「それは……」
「言いだしっぺの俺が出し渋るのは筋が通らねぇよ」
交渉を丸投げしておいて偉そうなことは言えないが、初心者でも出来ることはある。
なら、それをするだけだ。
「それに──」
ヘイズ曰くとっておき、気になるよな。
「ムリヤさんの自信作が、万全の状態で飛ぶところが見たい」
自信作への情熱は初めしか聞けてないが、それでも熱量を感じ取れた。
「人の熱量が形になったものは、門外漢が見ても絶対かっこいい」
分からなくても分かるんだよ。
ロマンに言葉は不要だ。
不意に両手を握られる──目を潤ませたムリヤさんに。
「そんなことを言ってくれたのは、君が初めてなんよ……こんなに、嬉しいことはないんよ」
ヘイズも口に出さないけど、ルンルンを高く買ってると思うぜ。
ただ、ここまで感謝されると、俺まで嬉しくなってくる。
「ふっ…少年、私が──」
「私が出す」
師匠が端末を取り出す前に、ヘイズが端末をタップ!
ムリヤさんに提示していた前払の額が、ぐんと跳ね上がる。
もしかしてカマール3、めちゃくちゃ高い?
「…いいのか?」
「借りを返すだけだ」
借りってあれはノーカウントだって。
律儀だな、本当に。
「これで問題ないな、ムリヤ」
二言はないと言わんばかりに、ムリヤさんへ端末を押し付ける。
ヘイズに借りができちまったぜ。
次は、利子つけて返すから覚えてろよ。
「おお、これならカマール3どころかディスペンサーとECMを新調できるんよ!」
顔に押し付けられた端末を手に持ち、ムリヤさんが感嘆の声を上げる。
きらきらと目を輝かせて、すごく眩しい。
「確かに引き受けたんよっ…すぐ取り掛かるんよ!」
腕捲りするムリヤさんは、吹き飛んだカウンターの残骸へ向かう。
残骸を乗り越える途中、兎耳が立ち──くるりと振り返って俺にサムズアップ。
「君に最高のフライトを見せてあげるんよ!」
今のは、きゅんと来たね。




