終わりよければ全てよし?
集団ストーカー拠点爆破事件の翌日。
俺は清々しい気分──就寝は深夜2時だったが──で教室へ向かっていた。
「それで集団ストーカーはどうなったんだ?」
当然のように隣を歩く中学時代からの友人へ声をかける。
純白のティタンを駆るヘイズではなく、学生服姿の藤坂へ。
「損失は現実時間に換算して約5か月ほど…当分は戻ってこないだろう」
「それでも戻ってくるのか。すげぇな」
「それ以上の時間を費やしているからな。あの程度では諦めまい」
実生活を犠牲にした人たち、怖い。
ゲームは程々にしような。
待てよ、そんな連中に混ざっていた藤坂は──
「どうした?」
無表情でも首を傾げる美人は絵になる。
藤坂は中学時代から学校生活を疎かにしている様子はなかった。
元剣道ガールのフィジカルの高さは、底が知れないぜ。
「いや…諦めないってことは、また来るのかぁって」
「慎重にはなるはずだ。私たちの実力は身に染みただろう」
「リベンジに来た時は、呼んでくれよ」
リベンジに現れる時は、間違いなく手強い相手が来る。
友人の危機、そして──激闘の予感。
つまり、白熱のロボットバトルが期待できる。
見逃すわけにはいかねぇ。
「……気がかりなのは、あのイレギュラーか」
「ナガサワさん、いい腕してたよな」
「つい最近、目撃されるようになったNPCらしい」
昨日の今日で情報を集めたのか。
藤坂、ちゃんと寝ないとだめだぞ?
夜更かしは美容の敵だぜ。
「最期の通信から推察するに、また現れるだろうな」
ナガサワさん、ステレオタイプのAIみたいだった。
次に戦う時は、データを最適化して強化されてるパターンなんだろ?
知ってる。
「楽しみだな」
「……そうか」
その残念そうなものを見る目はやめない?
俺のピュアハートが傷つくぜ。
そんなことを言っているうちに教室へ到着。
「勝二」
別れ際になって、藤坂が呼び止めてくる。
そんな改まってどうした?
「ありがとう」
いつも主語がないんだよな、藤坂。
でも、今は言わずとも分かる。
「俺が困ってる友人を放っておくわけないだろ?」
澄ました面で言ってみると、藤坂は穏やかな微笑みを返してきた。
「ああ、知ってる」
よせやい、惚れちまうぞ?
「また夜に」
「おう」
軽やかに去る我が友の背中を見送り、俺も自分の席へ足を向ける。
「グッドモーニング、中森」
「なんで英語?」
隣の席に座る中森へ適当な挨拶を投げ、着席。
鞄を開け、科学の教科書とノートを引っ張り出す。
「なぁ、本田」
神妙な顔をした中森が声を潜めて聞いてくる。
「お、宿題やり忘れたか?」
「違ぇよ……藤坂さんと、どういう関係なんだ?」
なんだなんだ、女子の輪に入ってる藤坂なんか見てよ。
頭の中、青春真っ只中か?
仕方ねぇな。
「ふっ……聞きたいか?」
「うわぁ、なんか無性に殴りたい面」
握り拳を固め、真顔になる中森くん。
落ち着けよ。
多分、俺も遭遇したら同意見だろうけど。
「藤坂はな、中学時代からの趣味が合う友達だよ」
「は、それだけ?」
「それだけって……そうだな」
俺にロボットアニメを布教してくれた中学時代からの友人。
めちゃくちゃ貴重な存在じゃん!
ここは強くアピールせねばなるまいな──
「本田」
「おん?」
「俺は、お前を殴る…!」
中森の放ったストレート、結構効いたぜ。
理不尽じゃね?
◆
ティタン・フロントラインから闘争が絶えたことはない。
白熱のロボットバトルを謳い文句にする以上、平穏とは無縁である。
≪そろそろ落とすとしますか≫
≪ハゲタカ共が! ここは俺たちのエリアだ!≫
≪お前らのじゃないんだよなぁ≫
固定化されていた勢力図が動き、セントラルの外縁では戦闘が激化していた。
原因は、空中分解した逆叉座でも規模の大きい派閥の治めるエリア。
杭打ち狐率いる一行──擬態の初心者を含む──が拠点を強襲。
一行が破壊の限りを尽くした結果、防衛戦力は著しく弱体化。
その隙を狙って、有力クランが激突しているのだ。
≪増援まだか? 競り負けるぞ!≫
≪運賃が払えなかったから遅刻するわ≫
≪おいおい、雇ったフリーが撤退したんだが?≫
≪弾幕が必要ですか? 追加の弾薬費があれば参上します≫
≪おい、誰だよ。このトリガーハッピー赤字娘を雇ったの!≫
全体、個別に関わらずチャットが飛び交う戦場。
セントラルに集っていたプレイヤーも参加して大混戦中。
≪調査依頼:エリア13の水没地区、研究施設内部の調査≫
端的で、無機質な一文がチャットに流れる。
特筆すべき点と言えば、不明瞭な依頼内容だけ。
しかし、熱狂するチャットでは異様に浮いた一文。
≪今それどころじゃねぇ!≫
≪調査依頼ならセントラルに行け!≫
≪何の調査か分からないんだが?≫
≪露骨に怪しいぞ≫
それに対する反応は芳しくない。
≪いや、待て……エリア13だって?≫
≪まずい、その名前を出すな!≫
エリア13──その単語を見逃さなかったプレイヤーを除いて。
それは死地、禁足地、触れてはならぬモノ。
ティタン・フロントラインにおいて、熱狂的な信者を持つ彼女が支配するエリアだった。
≪世に銀蓮の祝福と安寧を!≫
≪うわ、出た!≫
≪世に銀蓮の祝福と安寧を…≫
≪どこにでも湧くなぁ…≫
≪世に銀蓮の祝福と安寧を≫
≪狂信者どもめ!≫
≪混線してるぞ、誰か止めろ!≫
闘争と狂信が入り混じり、混沌と化すチャット。
彼彼女たちは知らない──メインストーリーは既に開始されている。




