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【3回目】

 

【3回目】


「トライ、お前はこの勇者パーティーから抜けてもらう」


 ああ、良かったと、僕は安堵する。無事に死に戻りが出来たという安心感はもちろんある。だが、それよりも、皆の生き生きとした顔を拝めたことが何より大きい。どんなに追放されようと、勇者パーティーというこの居場所は、僕にとって実家のような安心感があるのだ。無理もない、皆と一緒に旅をして早三年。いわば、家族みたいなものだった。僕は自然と笑みがこぼれてしまう。


「おい、トライ、その笑みは喜んでいるということで良いか?」


「うわ! 確かに、にやにやしている! 気持ち悪い!!」


 はっ!いけない!!これでは追放されたのに喜んでいる不審者みたいではないか。マミからの、「気持ち悪い」という発言で我に返る。


「ご、ごめん、皆の顔をみたら、ほっとしちゃって。追放だよね?」


「ああ、そうだ。追放と言い捨てられて、ほっとする方も大概だがな」


「ふふ、こういう天然なところが、トライの可愛いところですっ」


 全くレオンは褒めていないのに、キュアは大きな胸をこれでもかと張って、偉そうに威張っている。収拾が付かないと判断したのか、腕を組んでいた戦士ナイツが嘆息する。


「……お前ら、雰囲気ぶち壊しだぞ」


「うう、僕のせいでごめん。えっと、追放に関しては、承知したよ」


「やけに物分かりがいいな?」


「自分の実力不足は自分が一番分かっているからね」


「……そうか」


 少し考えていたことがある。今回は僕が先にダンジョンへと潜ってみることで、変化があるのかを確認したい。レオン達のアイテムの準備状況で結果は変わらなかった。このイベントをさっさと終わらせて、僕がダンジョンへと潜り、あわよくば先にボスと対峙するのだ。勿論、僕のレベルの低さを考えると、途中で他のモンスターに襲われるのが関の山な気がするが、あの絶望を知って、何もしないで待っていることなんて出来はしない。自分は死んでも、やり直しが効くのだから。


 僕が思考を巡らせている間にもイベントは進む。


「レオン、あんたが俯いちゃってどうすんのよ!! 本人も納得しているんだし、しゃんとして言い放ちなさいよ!!」


「マミの言う通りだな、つい、情が移ってしまった。断言することにしよう。トライ、君は“お払い箱”だ」


 「そっか……」と、僕は黙りこむ。しばしの間、静寂が続き、しびれを切らしたようにレオンがナイツに視線を向けた。


「ナイツ、お前も、俺と同じ意見でいいよな?」


「ああ、勿論だ。トライ、諦めるんだな」


 僕にナイツが無慈悲な言葉をかける。レオンはナイツの言動を受けて首を深く縦に振り、次にキュアへと目をやった。


「キュア、君がトライと一番関係が長い。君の意見も改めて聞かせてくれ」


 レオンは決まり切っている結論にも関わらず、自分個人の意見ではないことを主張するかのように、周りを固めていく。


「……、うん、ごめんね、トライ。私もレオン様と同じ意見。今回のボスは手強いと思うの。だから、ね。ここはレオン様の言うことを聞いて、引いてくれないかな?」


「そっか……、わかった」


「これは決定事項だ、いいな、トライ」


 レオンは剣を携えて、この部屋を後にする。マミ、ナイツも、僕に目も暮れずに、この部屋から立ち去った。


 最後にキュアが僕に近寄り、肩に触れようと、白く透き通った右手を近づける。だが、キュアは右手で僕の肩に掛けることを諦めて、扉へと向かう。キュアのこの動作は今までと一寸も違わぬ動作だ。そして、背中越しで僕に語り掛ける。


「トライ、私たちが無事にこのダンジョンから帰ってくることが出来たら、どうしても伝えたいことがあるの。だから、お願い。私たちの帰りを待っててね」


「わかった。全員の無事を待っているから」


 *


 四人が出ていったあと、僕は即座に行動へと移す。


 まずは、ダンジョンの入り口まで移動して、石畳の階段を一段、一段降りていく。もちろん、盗賊のスキル、【隠密】スキルを駆使して敵と遭遇しづらい状況を作る。


 1回目は、B3Fのウェアウルフの群れと遭遇して、僕は死んだ。だが、あのときは勇者が死んだあと、つまり、夕暮れ時に行動した場合のケースだ。今日は朝一からダンジョンへと潜っているため、同じ結末を迎えるとは考えづらい。逆に、B1FやB2Fで死ぬ可能性もあるが……。


 だが、そんな心配はよそに前回死んだB3Fへと続く階段まで辿り着く。ここからが正念場だ。警戒しながら、階段を降りていく。B3Fを降り切った先に、ウェアウルフの群れが待ち構えているかもしれない。右手に持つナイフが震える。心臓の鼓動も速い、いまにもはち切れそうだ。しゃがむ様にして、数段残っている段差の上から、モンスターがいないか様子を窺う。


 結果……、いない。モンスターは見当たらない。やはり、読み通り、モンスターも時間によって行動パターンが決まっている。モンスターと遭遇した場所と時刻さえわかれば、僕のユニークスキルを使えば、強敵とは戦わずに戦闘を回避できるかもしれない。


 絶望だらけの運命に、僅かばかり希望が湧いてくる。僕はB3Fに降り立った。


 そこからも順調だった。B3Fはモンスターとも遭遇せずにB4Fへと進む。


 B4Fには、トロールが徘徊していた。のそのそと歩くトロールと一定の距離を保ちながら、隙を見て、B5Fへと続く階段へと滑り込んだ。


 そして、B5F。最大の試練が待ち構えていた。


「くそッ!! いつまで待っても動かない……」


 スケルトン、骸骨の騎士が階段前で居座っている。左手に自らの頭蓋骨を、右手に片手剣を携えて。盗賊の【隠密】スキルを発動させても、横をすり抜けて、階段までたどり着くのは不可能だ。戦闘を覚悟しなければならない。


 レオンなら一撃で瞬殺することができるだろうが、戦闘役ではない僕では荷が重すぎる。だからといって、あの運命を認めるわけにはいかないんだ。僕は、ナイフを強く握りしめる。


 頭蓋骨が奴の弱点。その額に刃を突き刺すことが出来れば、この階も突破可能だ。


 僕は勢いよくスケルトンへと飛び出す。スケルトンはこちらへと気づき、剣を振りかざした。僕は身体が真二つになる、すんでのところで、回避する。今だ!!


 白刃が頭蓋骨の額を正確に捉える。ミシミシと骨にひびが入っていき、次の瞬間には、ガラガラと音を立てながら、くみ上げていた骨が崩れていった。


 やった!!初めてスケルトンを斃した。これで次の階に……。


「え」


 僕は素っ頓狂な声を出してしまう。痛みを感じ、僕の胸を見ると、漆黒の槍のような物が貫いていたのだ。口から血液があふれ出る。身動きが取れない状況だ、逃げ出すのは不可能だし、今回はダメそうだ。僕の命の灯は、蝋燭の火よりも小さい火となって、揺らめいている。ならば、少しでも次に繋げるんだ。


 黒い槍の正体を一目見ようと、首だけを動かして、正体を探る。


 そして、そこにいたのは、シャドー。


 黒い影のモンスターが地面から浮かび上がっていた。そうか、ダンジョンは魔物の住処であるため、弱肉強食が体現された世界だ、縄張り確保のために魔物同士が衝突することも多々見られる。シャドーとスケルトンが対峙している状況だったため、スケルトンは身動きが取れず、あの位置に居座っていた。僕が介入したことによって、均衡していたバランスが崩れ、シャドーは僕を襲ったということだろう。


 シャドーは暗いダンジョンでは目で補足することが困難なモンスターだ。見逃してしまった僕の失態だった。


 意識が少しずつ薄れていき、僕はシャドーに刺殺された。


 次。


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