精算
本日の狩りを終え、ギルドへ向かった。
「明日もグレイウルフで鍛えようか」
「グレイウルフで鍛えよう、って、なんか目的変わってないですか?」
あれ、そうだっけ。
……えーと、日銭を稼ぐのが目的だったっけ? うん、そう、そんな気がする。
一応はぎ取った毛皮を持ち帰ってきた。これは買取してくれるらしい。ちょっと剥ぐのに失敗したり倒した時点でボロボロなのも多いので、持てる限りは死体をまるごと持ち帰ってくるべきだったかもしれない。(尚、グレイウルフの肉はさほど食えないらしい。放置して腐るとアレなので燃やした)
俺は、ギルドのカウンターにグレイウルフの毛皮をもって行く。
「討伐依頼を達成してきた。あと毛皮の買い取り頼む」
「はい。じゃあカウント魔石のチェックしますね……うーん、毛皮、状態はあまりよろしくないですね。あ、こっちのはよさそう……お、討伐数でましたね。今日もまたとんでもない討伐数で――」
と、討伐数の確認をしていた受付嬢さんが目を見開いた。
「って、ちょっとまってくださいグレンさん、なんですかこの、オーガ討伐数1って!?」
「ああ、ちょっと出たから倒したんだ」
「いやいやいや、ちょっとで倒せる相手じゃないですよ!? あ、アイリさん、これ、どういう状況だったんですか?」
「……グレイウルフを狩っていたらオーガと遭遇したので倒しました、としか……」
「オーガはBランクですよ!?」
そんなに驚くようなことだろうか。
……うーん、今の俺達の立場を例えてみれば、小学生が2人で高校生の不良を倒すような感じかな? それはちょっと驚くな。
「あー、倒さない方が良かったですか?」
「いやそれは倒した方が良かったんですが、どうしてこんな危ないことをしたんですか!」
「……逃げる考えは思いつきませんでしたね。突進してきてましたし」
「そうですか……まぁ、倒せたなら何よりです」
単純に腕力でゴリ押ししてくるだけの相手なんて楽勝だし、わざわざ向こうからやってきたんだから逃げるなんて思いつかないよな。それに、飯を食べるのに邪魔だったし。
「オーガの爪や角はお持ちですか? あれは買取できますが」
「ああ……すみません、全部燃やしてしまいました。次からは気を付けますね」
「は? 全部燃やした、ですか?」
「はい。全部」
「火属性に強い耐性を持つオーガの角もですか?」
「へぇ、知りませんでした。もったいないことをしたなぁ」
先日買った冊子にはDランクまでの情報しかなかったからな。
受付嬢さんはアイリを見る。
アイリは嘘はない、とコクコク頷いた。
「……ええと……まぁその、とりあえず討伐依頼の報奨金と毛皮の代金ですが、まずグレイウルフの討伐依頼の達成×10で、銅貨90枚×10で銅貨900枚、オーガの討伐依頼の達成×1で銅貨1万枚……えっと、金貨1枚ですね。あとグレイウルフの毛皮の買い取りは査定の結果全部で銅貨200枚となります。えっと、合計で銅貨1万1100枚ですね。……受け取りは銀貨で?」
「そうですね。銀貨でお願いします」
はぎ取った毛皮が全部で銀貨2枚か。アイリのはぎ取った毛皮が結構高く売れてくれたな。それにしてもオーガが1匹で金貨1枚になるとは驚いた。今後、狙って狩るのもいいかもしれないな。
ずい、と出てきたお金は、銀貨111枚。銀貨100枚を金貨にしても良かったが、それだと山分けに不便だからな。
「じゃ、山分けといこうか。まず肉の代金の銀貨3枚は貰うぞ。で、残りの108枚を山分けで、銀貨54枚な」
「えっ」
「ん? どうかしたか?」
「さすがにそんなにもらえません! オーガについては私、本当に何もしてないです」
……ふむ、言われてみると確かに。
しかし、大人しく貰っておけばいいのにそれを言ってしまうあたり、アイリは性根がまっすぐなんだろうな。
「じゃあアイリは銀貨11枚、俺が銀貨100枚にしよう。金貨にすればスッキリするからな」
「あの、それだとグレイウルフの分が丸々私に入ってきてしまうんですけど……」
「気にするな。師匠から弟子へのお小遣いだ、受け取れ」
師匠だからな。飴と鞭ってやつだ。お金を直接渡すのは即物的すぎる気もするが、趣味の合わないプレゼントよりはよほど実用的で便利だし、何より困らない。
俺はアイリに押し付けるように銀貨11枚を渡すと、改めて両替してもらい、金貨を手にする。ブロンズさんに見せてもらったことがあるので、金貨を見るのは初めてではないが……うん、確かに金だな。実際持つと、見た目に対して重さがあることが分かる。
さて、お金も手に入ったしもう用事はないな、と帰ろうとしたところ、受付嬢さんに話しかけられた。
「あの、グレンさん、アイリさん。Cランクへのランクアップ試験はお受けになられますか?」
え、ランクアップ試験? 俺、まだ冒険者になって一週間もしてないんだけど。




