そんなことよりお腹が空いたよ。
アイリが同時に引き付けておけるのはグレイウルフ3匹程のようだ。
さすがに4匹同時は、それまでの疲労もたまっていたのかダメそうだった。
万全な状態で死にもの狂いになれば余裕でいけるな。限界を超えてこその特訓よ。
「はぁ、はぁ……というか、なんでこんなにグレイウルフに遭遇するんですか……」
「それはまぁ俺が生肉を1ブロック持ち歩いてるのが原因なんだろうけど」
「なんでそんなもん持ち歩いてるんですか?!」
「グレイウルフをおびき寄せるために決まってるじゃないか。銀貨3枚した」
2時間ほど歩き回り合計15匹。のんびりと狩ったにしては結構な数じゃないかな。
ちなみにグレイウルフ討伐は3匹毎で銅貨90枚。15匹なら銀貨4枚と銅貨50枚になるから、十分に元は取れている。
……これは、ちゃんと回収できるだろうと見込んでの投資である!
「確かに効率いいですね! 普通のDランク冒険者なら間違いなく全滅するペースですよ……そういうの、先に言ってくださいよぅ!」
「獣人って鼻よかったりするんじゃないのか? てっきり気づいてると思ってたけど」
「私は耳と尻尾だけですからね……うぐー、休憩します!」
そう言って、アイリは地面に大の字になって寝た。
……初心者にはちょっと過分な練習だっただろうか? まだ2時間しか経ってないんだけどなぁ。
「ま、いいか。じゃあこの肉は焼いて食う。良い肉なんだし、傷ませるのはもったいないからな。アイリも食うか?」
「いただきます! あれ、でもどこで焼くんですか? というか、焼いたら匂いが広がってますます敵が……」
「来るだろうな。ま、休憩ってことでその間は俺が全部なんとかするよ」
「ああ……グレンさんが守ってくれるなら安心ですね」
俺は、肉を焼くべくカエンに変身した。
灼熱戦士カエンは炎を操る。肉を美味しく焼き上げるなど、朝飯前だ。
……朝飯前に肉を焼いたら、それが朝飯になるな。
「あの、グレンさん」
「この姿の時はカエンと呼んでくれ」
「あ、はい。……えーっと、カエンさん。せっかくのお肉、消し炭になったりしませんよね?」
「心配するな、大丈夫だ。まずは1食分を切り分けて……」
……しまった、包丁が無いんだった。うっかりしていた。
「アイリ、剣でこれを一食分に切ってくれ……って、さっきその剣グレイウルフに噛みつかれてたよな」
「ええ、グレイウルフのよだれとか付まくりですよ」
そんな剣で斬り分けた肉、焼いて消毒したとしても食べる気がしないな。
「しかたないか。じゃあ俺の剣を使う」
「あれ、カエンさんの武器って木の棒じゃないんですか?」
「あれは手加減用。戦闘用の武器は別にある」
俺はベルトの横についている懐中電灯みたいな金属棒を掴み、外した。
ぶん、と一回振ると、薄く、剣の形に赤く光るエネルギー体が出現した。
「な、なんですかそれ?!」
「カエンセイバー。……解説すると、超高熱のエネルギーソードだ。厚さ1cmくらいの鉄板ならわりと簡単に切れる」
例えば、一般的な鉄の剣とこの剣で打ち合ったとすると、剣が真っ二つになる。切り落とした刃が飛んでくるだろうからかえって危ないくらいだ。
「セイッ!」
ジュパン! と、水分が蒸発する音を混ぜつつ肉を1食分に切り落とした。
……おっと、表面が少し焼けてしまった。カエンセイバーで肉を斬るのは久々だったから、加減を誤ったか。まぁいい、これくらいなら許容範囲だろう。
「よし、あとはじっくりと火を通して」
「! カエンさん! 後ろ、グレイウルフが!」
「大丈夫、分かってる」
振り向きざまに、スッとカエンセイバーを横薙ぎに振るう。赤い軌跡が走り、グレイウルフ3匹は真っ二つになった。
「このくらいのザコなら、見ての通りだ」
「恐ろしい武器ですね……えと、それ、もしかしてなんですけど……刃こぼれとかしないんですか?」
「しないな。原理はよく分からんが、剣の見た目をしてはいるけど剣じゃなくてエネルギー体、というようなことを博士は言っていた」
おそらくは、バーナーで斬ってるような感じだろう。
まぁ怪人にはそこそこのダメージにしかならなかったけど……あいつら、必殺技じゃないと倒せなかったからな。むしろ手で掴んで止めた怪人も居た。あれは手ごわかった。
で、これなら実質『常に新品の剣』なので汚くないだろう。たった今グレイウルフを真っ二つにしたとしても、だ。
そしてなんとカエンセイバーは出力を調節すればホットプレート代わりにもつかえるのだ!
弱火程度の熱量に調整したカエンセイバーの上に、斬り分けた肉を乗せる。
先ほどとは違って今度は火加減を慎重に調整しないとな。黒コゲ肉は食いたくない。
ジュウゥゥゥ……と、食欲を誘う、肉の焼ける音と香り。
……この火加減を覚えるまでに何枚のステーキを消し炭にしたことか。
と、思い出にふけっていたら、もう完成だ。
「あとは仕上げに塩を……あ、アイリ。塩持ってるか? 肉用のタレでもいい」
「塩なら持ってます。必需品ですからね」
アイリから塩を借りて、ぱっぱと振りかける。
ところでこの肉、なんの肉だろう。肉屋で買ったけど、オオウサギじゃないよな?
1匹で銅貨30枚買い取りが、売りで1ブロック銀貨3枚とかボッタすぎるし。
「これ、オーク肉ですよ。いいの買いましたねー」
「オーク? 木、じゃないよな」
「豚を人にしたようなモンスターです」
「それって獣人とは違うのか?」
「私はその発言に悪気が無いのを知ってるからいいんですが、獣人、特に豚獣人にそれ言ったら殺されても文句言えないですから、言っちゃダメですよ?」
「……スマン。そういう発言だったか」
オークは獣人とは違うらしい。知能は低くオスしかおらず、ほかの種族のメスを見境なく襲って繁殖するとかなんとか……そんなのと一緒にされたら確かに大激怒待ったなしだわ。
でも肉は美味いらしい。
俺はマジックバッグから取り出した皿に焼けた肉を乗せる。
「よし、焼けたぞ。ほら、アイリの分」
「わーい、カエンさん大好きです! 結婚して毎日美味しいご飯を食べさせてください」
「はっはっは、俺の弟子をちゃんと卒業できたら考えてやろう」
「言いましたね、言質取りましたよ」
「考えるとは言ったが、それ以上は言ってないぞ」
「ええ、今はそれで構いませんっ」
はぐはぐ、とオークステーキにかぶりつくアイリ。美味そうだ、俺も食うか。
と、その前に新しいお客さんが来たようだ。コイツを倒してからにしよう。
少し遠くを見ると、毛のない赤いゴリラに額に円錐状の角が2本生えたような奴がいた。身長は3mほどだろうか。こちらに向かってきている。
「お、オーガ……!? なんでこんなところに!」
「オークと似た名前だな。あ、もしかしてこれも肉が美味いのか?」
「何言ってんですか、オーガは食べられませんしBランクの魔物ですよ! グレンさんでも勝てるかどうか……!」
だから、この姿の時はカエンだと言ってる。
しかしそうか、食べられないんじゃしょうがない。さっさと片付けよう。
俺は自分の分のオークステーキを皿に乗せ、アイリに預けた。
「一撃で決める。……ホノオガジェット展開!」
威力を上げるためのモーション(手信号)を行い、ベルトに手を当てる。
必殺技、ジャスティスフレアの発動キーだ。キュイン、と俺の体に赤く光る線が浮かぶ。
「バァアアアニンング!」
向かってくるオーガ。近くで見るとだいぶデカく感じる。
赤い巨体の勢いは、ただ向かってくるだけじゃない、突進というに相応しいものだった。
俺は、それに合わせて必殺技の飛び蹴り――ジャスティスフレアを放つ!
「燃え滾る正義の炎……バァニングッ! ジャスティスフレア―――ッッ!!」
足元が爆発し、それを推力として飛び上がり、飛び蹴りの姿勢のまま、オーガと交差した。
外したわけではない――オーガの体には、俺が通り抜けた穴がぽっかり開いていた。勢いが良すぎたらしい。まさか突き抜けるとは思っていなかった。
どさり、と倒れるオーガ。直後、その体を炎が包み込み――
――――ちゅどぉおおおんッ!!
と、ひとかけらも残さず爆発した。
さすが怪人の処刑・証拠隠滅用に開発されただけの事はあるよな。
「さて、俺もオーク肉を食うぞ。腹減った」
「……Bランクのオーガを、こうもあっさり……あはは、もう笑うしかないですよグレンさん」
「だからこの姿のときはカエンだって――って、このままじゃ食えないな」
俺は変身を解除した。
さぁ、食うぞー。
「ところで、リッカさんとこで買った詰め合わせの中に、ナイフとか塩とかあったんじゃないですか?」
「……あ」
すっかり忘れてたよ。