お買い物
冒険者になった俺は、さっそく依頼を見てみることにした。
掲示板を見ると、依頼と推奨ランクが書かれている。
……オオウサギの討伐Gランク、ゴブリンの討伐Fランク、ここあたりは常時出てる依頼らしい。初めてだし、ここあたりを試してみるか。
「いきなりDランクの依頼を受けるでなく、このあたりですか。いいですね、そういう慎重さが長生きのコツです」
受付の女の人は、にっこりと微笑んで、透明な石をカウンターに置いた。
「これは?」
「討伐記録をつける特殊な魔石で、カウント魔石と言います。これを持って討伐すると、討伐した種類と数が記録されるんですよ。無くさないでくださいね」
討伐依頼で不正ができないように、こうした仕組みがあるらしい。
受け取ってまじまじと見るがただの透明な石にしか見えない。だが特殊な魔道具をつかうことで討伐数が見れるようだ。
どうやっているかはわからないけど、すごいな異世界。
「以前は討伐証明に特定部位の提出とかをしてたんですけどね。ああ、討伐とは別に素材としての買い取りもあります。こちらの冊子を見て確認しておくと良いですよ。Dランクまでの初心者向けモンスターの素材が書かれています」
ギルド内で読む分には無料で、持ち出すには買い取りで銀貨1枚らしい。
軽く見たら、周辺の大雑把な地図とどこにどのモンスターが出るかということまで書かれていた。
俺は、迷わず銀貨1枚を支払った。情報は大事だからな。
冊子を手に入れた俺は、ギルドを後にしてアッサム商会に向かった。
冒険者としての装備を整えないとな。
「……って、しまった。また道がわからないぞ」
「グレンさん!」
「ん? ああ、アイリか。どうした?」
「どうした、じゃないですよ。もう。『また後ほど』って言ったじゃないですか。勝手に行かないでくださいよー」
そういえばそうだった。こっちが了承してなかったから忘れていたな。
「ところで、ギルドの試験のことなんだけど」
「――ああ、あれですか。グレンさんなら大丈夫だと思ってたんですが、どうでした?」
「Dランクだとさ。アイリはどうだったんだ?」
「私はGでした……まぁ、そこから叩き上げで、今はDランクなんですけどね」
そっか、アイリもDランクだったのか。
と、俺はアイリにさっそく依頼を受けたことを話した。オオウサギとゴブリンの討伐だ。
「よければお手伝いしますよ。臨時パーティー組みたいんですけど、いいですか?」
「うん? いいけど、なにか手続きとかいるんじゃないか?」
「はい、カウント魔石を出してください。……これを、こう。これで完了です」
アイリもカウント魔石を取り出し、カツンカツンとぶつけた。
これだけで臨時パーティーになるらしい。便利なもんだな。
あとはギルドへ提出するのを2人で一緒に出すだけだそうだ。
「じゃ、行きましょうか。アッサム商会に行くんですよね?」
「ああ、道案内頼むぞアイリ」
「お任せくださいっ」
再びアイリについていく。アッサム商会は、表通りに面した大きい所だった。
店に付くと、リッカが店番をしていた。
「ああっ、グレン様、いらっしゃいまし! 待っておりました!」
「よう、早速だけど冒険者登録してきたから、装備を整えたい。おススメを見繕ってくれないか?」
「はい! ささ、こちらへどうぞ」
商会の主の娘が店番と言うのはどうなのか、と思ったが、どうにも俺を待っていてくれたらしい。今日のうちに来るとかは一言も言ってなかったのだが、来てよかった。
「どのような装備にいたしましょう。やはり軽くて丈夫なミスリルでしょうか」
「な、なんか高そうなんだけど?」
「大丈夫です、命の恩人であるグレン様には精一杯サービスさせていただきます。武器はどうしますか?」
「ん? あー、そうだな。棍とかあるか?」
手加減をするなら、棍……細長い丸い棒の武器がいい。
あれは「突く」「打つ」「払う」と、変幻自在に攻撃を行える。その他にも物干し竿にしたり荷物を括りつけたりと1つで2役も3役もこなす。
そもそも攻撃力を求めるならカエンに変身すればいいだけだしな。
「うーん、棍、ですか? それはどういう武器なのでしょうか」
「……ああ、そこからか。うん、俺の故郷にあった武器でな、まぁ、言ってしまえば『ただの丸い棒』だ。そこの槍から刃をとったような武器だ」
「えっ、それって武器……なんですか? ただの柄じゃないですか」
俺の認識では武器なのだが、こちらではどうにも殺傷能力が低く見られそうだ。
確かに刃がある方が攻撃力はあるが、棍は立派な武器なんだけどな。
武器の進化的には槍より先に棍があっておかしくないと思うんだが……魔法もある世界だし、地球とはそこらへんが違うのかな。
「まぁ、無いなら槍の柄でいい。なるべく丈夫なやつで頼むよ」
「ええと、そういうことであれば……トレント材の柄ではいかがですか?」
トレント材とはトレントと言う魔物から取れる素材で、しなやかさと堅さと丈夫さを兼ね備えているらしい。火にも強くかなり燃えにくく、槍の柄としてかなり人気の高い素材だとか。試しに持たせてもらったが、なるほど確かに良い具合だ。気に入った。
「じゃあ、これを1本貰おうか。本当は予備にもう1本あればいいんだが、置き場所もないしな」
「それでしたらこちらのマジックバッグをどうぞ。当店のとっておきですが、グレンさんには特別です」
「マジックバッグですか!?」
それまで黙って見ていたアイリが、口を挟んできた。
そんなに凄いものなのだろうか。
「すごいなんてもんじゃないですよ、本来お金を出しても買えないようなマジックアイテムなんですよ? まぁ、アッサム商会ならいくつも所有してておかしくないですけど……」
「ええ。父も、グレンさんになら譲っても良いと言ってました。さすがに最高級の無限収納級と言うわけにはいきませんが」
実際に見せてもらう。試しに冒険者に最低限必要な日用品、というのを袋に入れていくところを見せてもらったが、袋に入れたとたん重量と体積が無くなり、いくらでも袋に入れられそうだった。
明らかに袋より長い棍がするすると入っていく様は、まるで手品のよう。
最大でどれくらい入るのか聞いてみたが、背の丈もある箪笥くらいの体積が入りそうだ。
「では、こちらセットで合わせて銀貨50枚でいかがでしょう」
そう言って、日用品を入れたままの袋を差し出してにっこりと笑うリッカ。
「……なぁアイリ。俺の感覚が確かなら、これって格安どころじゃないよな?」
「ええまぁ。……本来ならマジックバッグだけで金貨行きますからね」
「あら。グレン様には私の貞操を守っていただいた借りがありますもの――それともグレン様、私にはそれほどの価値が無いと?」
うぐ、そういわれては、受け取らざるを得ない。
「ではサービスで、こちらのミスリルの胸当てもお付けしますね♪」
「さ、さすがにそこまでは……」
「私の貞操の価値について具体的な金額を計算しましょうか?」
「わかった、わかった。ありがたく貰っておくよ」
「毎度ありがとうございます、今後とも是非ご贔屓に!」
やれやれ、貞操の値段なんてものを盾にされるとは思わなかった。けど、助かるのは事実だ。
せめて精一杯この店を贔屓にするようにしよう。