ドラゴンの住む山へ
(不定期更新である)
予定の出発時刻からは大幅に遅れたが、俺たちは乗合馬車に揺られつつ目的の山に向かっていた。
俺の隣には体力温存のために寝こけているアイリが、そして向いには青い顔して今にも吐きそうなミーシャが居る。
……俺もどちらかと言うと寝ておきたいが、思いのほか揺れが酷く寝れそうにない。
アイリはどうやって寝てるんだ。
「うー、ラウラめ、自分だけちゃっかり回復魔法かけてやがったにゃぁ……」
ミーシャの顔が青いのは乗り物酔いではなく、二日酔いによるものだ。
ちなみに聖女であるライラは朝になったら一人で帰って行った。
今日もこれから仕事だと言っていたが、聖女と言うのは冒険者より頑丈なものなのかもしれない。回復魔法がある限り働き続けられそうだ。
「ミーシャも回復魔法かけてもらえばよかったんじゃないか? 【解毒】だったか」
「いやぁ、代金で金貨1枚って言うもんだからさぁ……さすがに二日酔いで金貨は、ねぇ?」
「……ジョークじゃないのか? さすがに」
「いやアイツ本気で毟ってくから。ラウラはお金で絶対に嘘つかないよ、グレンきゅんも気を付けてね」
そうか、と返事をする。
まぁ俺たちは【解毒】してもらったんだがな、ミーシャが寝てる間に。
*
特にモンスターや野盗に襲われることも無く、野営地についた。他の客も一緒だが、各々で野営を始める。
馬車が止まったところでアイリも目を覚ました。……ずっと寝てたな。凄いわ。
「あー、ようやく二日酔い抜けたにゃぁ……」
「んん……あー、体凝りました……」
猫耳2人が揃って体を伸ばす。俺も体がガチガチだ。肩や腰を回すと、パキパキと音が鳴った。
「じゃ、俺達も野営するか」
「ここは任せてよグレンきゅん! てっててー! マジックテントぉー!」
ミーシャはどこからともなくテントを取り出した。しかも組み上がった状態で。……どこに仕舞っていたのかは知らないが、Aランク冒険者なんだし超高性能なマジックバッグを持ってるんだろう。
「さすがミーシャ様ですね」
「でしょでしょ? アイリは可愛いなー、グレンきゅんも褒めていいのよ?」
「さすがミーシャは金持ちだな。ミーシャが金庫にしか見えなくなってきたよ」
「たっはー! 褒めてねぇーーー!」
別に褒めてないからな。
「ちなみにテント内は亜空間となってるにゃ。料理を入れたマジックバッグがあるからさっさと食べようか」
「便利だな。一家に一台ミーシャだな」
「えっ、結婚して家庭に入れ? そういうのもいいにゃぁ養って!」
「ちげぇよ」
「私もグレンさんの家庭に入れてください!」
「アイリは弟子だからな、家族みたいなもんだ」
「まって、それならグレンも私の弟子だから家族ってことでいいの?」
とりあえずミーシャがマジックバッグから料理を出す。マジックバッグの大盤振る舞いだな。さすがはAランク冒険者……
料理は昨日酒場で食べたのと同じようなものだ。きっとギルドの食事を入れてるんだろう。
「そういえば、ミーシャはパーティー組んでるという話だったよな。どんなパーティーを組んでるんだ?」
「ん? ああ、私のパーティーメンバーが気になっちゃう? 強いよー、なにせ私のパーティーだからね!」
「ミーシャがリーダーなのか?」
「あ、リーダーは私じゃないよ、ある意味下っ端と言ってもいいかな。強さで言っても近接は自信あるけどそれ以外はねー……基本は6人パーティーで、あと1人が前衛で、中衛が2人、後衛が2人だねー。あとは控えに後衛が何人か」
2-2-2で、バランスのとれた構成か。それにしてもミーシャが下っ端とかとんでもないパーティーのようだ。聖女も入ってるんだろうか。
「ちなみにリーダーは皇族だから、権力ヤバイよ? 崇め奉っていいよ?」
「ミーシャは下っ端なんだろーが。……虎の威を借る狐ってやつか」
「私は猫だし! 狐じゃねーし! むしろウチのリーダーを虎ごときに例えてたら信者に殺されるよ?」
「……信者いるのかよその皇族。帝国は安泰そうだな」
「うん、リーダーの威光がある限りは安泰だねぇ」
アイリはそこのあたり知ってるんだろうか、と横を見る。
……笑顔が引きつっていた。ミーシャは有名人らしいし、知ってるんだろうな。
後で詳しく聞いとこうかな。いやいや、聞かないで置いた方が幸せかもしれない……
*
ミーシャもいるので体の自己メンテはさておき、朝までぐっすり寝た。
まぁメンテは毎日しないといけないというものでもないからな。道具もあんまり無いし。
2日目も馬車で移動するので朝御飯はそこそこに食べ出発。揺られに揺られて移動し、モンスターや野盗が出ることもなく、昼過ぎに俺たちは目的地付近の村に着いた。
元々、出発が遅れなかったら1日目の夜には着いていたらしい。
「それじゃ、日が完全に落ちる前に進めるだけすすむよ……あ、ちなみに私はドラゴン相手にするときは見てるから。応援してるよ、頑張って!」
「どうせだしチアガールの仮装でもしてくれ――って、チアガールはないか」
この世界にチアガールはなさそうだ。ポンポンだけでも持っててもらうか。
「ドラゴンは山頂にいるのか? 一応、登山装備も用意したが」
「あー、大丈夫。中腹よりちょっと上のあたりだよ。走れば2時間くらいかな――っと、私のペースで、だからアイリには厳しいか」
「うっ、す、すみません。足を引っ張っちゃって」
「大丈夫だ、俺でもミーシャのペースは生身じゃ無理だろうからな……」
「にゃっはっはー、でもさくっといってさくっと稼がなきゃ、1年で白金貨100枚なんて稼げないよ?」
ミーシャが言う事に、ふむ、と考える。
ここまで来るのに2日。恐らく帰りも同じくらいかかるとして、ドラゴンをあと1日で倒しても5日か。それで白金貨1枚。
休みなくこのペースで働いても(それだけの仕事があるかは別として)100枚稼ぐのに500日かかる。
「……そもそも1年では間に合わないか。もっと稼げる話が要るな」
「5日で白金貨1枚ってのはCランク冒険者にはあり得ないほどの破格だけどね。ま、グレンきゅんが望むならもっと儲かる依頼を任せるよ」
と、ミーシャがひょいとアイリを抱き上げた。お姫様抱っこで。
「ふぇ!? み、ミーシャ様?」
「さくっと行きたいからね。……じゃ思いっきり走るから、グレンは頑張って付いてきてね? アイリは喋ると舌噛むよー」
にゅふふ、と楽しそうなミーシャ。
……少し本気出すか。さすがにドラゴン相手には変身も必要になるだろうから、ミーシャ相手にもカエンのことを隠しておく必要もない。だがここは――
「来い、『フレイムエッジ号』!」
「え?」
きゅぴん、と俺の後ろからバイクが現れる。炎をモチーフにした赤いバイク。
これは俺の愛車、フレイムエッジ号だ。最高時速400km、最高出力600馬力。
バクエニウム合金製のボディはとても頑丈で、怪人に突っ込んでもかすり傷しかつかない。当然、オフロードだってなんのその。湖上を走って渡ることすら可能だ。
しかも、呼べばどこからともなく現れる――
――というか、自分で呼んどいてなんだけど、まさか異世界でも来るとは思わなかった。
「今のスキル!? 何それ、乗り物!? ゴーレム!? 召喚獣!?」
「俺の頼りになる相棒ってところだな」
尚、動力源にはバクエンストーンが使われているため、ガソリン代もかからない。
俺はフレイムエッジ号に跨りエンジンをふかす。ぐぉぉん、という体に響く音と共にライトが灯り、まだ明るい山道を照らす。
「それじゃ、ミーシャは先行してくれ。追いかけるから」
「お、おう……ついて来いにゃー!」
そして日が暮れるまでに、俺たちはドラゴンの目撃情報があったところにかなり近い場所まで進むことができた。