ミーシャの正体
ミーシャの癒しの光が収まる。
「うぅ……あたたた、死ぬかと思いました」
下手したら入院が必要そうな状況だったが、アイリはすぐに治り起き上がった。
いやー焦った、とかいてもない汗をぬぐうミーシャ。
「なあ。ミーシャは、その、聖女なのか?」
「聖女? にゃっははは! 私は回復魔法のスキルができるだけのただの冒険者だよ」
聖女ではなかったようだ。……あれほどの状況から回復するのが普通なのか?
「ただの、では無いですけどね。数少ないAランクの冒険者で、パーティーメンバーが揃えばSランクと呼ばれる存在です」
「おいおいおーい。ネタバレはやいにゃー。まぁ、いっか」
なるほど、トップクラスの冒険者、ってことか。
「聖女ではない、と。どのくらいの回復魔法が使えるんだ?」
「ん? そうだねぇ、無くなった物は戻せないけど、壊れててもモノがあれば治せるくらいかな」
ふむ……あと一歩、か。聖女なら無くなった物でも治せるかな。
「……ま、そんなわけだからちょーっと強いんだけどね。そんな私相手にいい試合したグレンくんはBランクでも良いくらいだね。まだ隠し玉もあるみたいだし……」
「しかしさすがにまだ1週間も経っていないくらいですから……」
「実力は最低限、Bランク以上あることは保証するにゃー」
最低限、か。……変身したらどうなのか気になるところだ。
「ん? なんだその言い方だともう試験は終わりか? まだ一撃入れられてないぞ」
「え? 足に一撃いれたでしょ。あれでいいようん。アイリに手加減するのうっかり忘れちゃうくらいに集中しちゃったから」
あれでよかったのか。逆にこっちの手が痺れてダメージくらった気もするけど。
「それでは私はランクアップの手続きをしてきますね。ギルドカードお借りします」
「ああ、頼む」
俺とアイリは受付嬢さんにギルドカードを渡した。
受付嬢さんはこくりと一度頭を下げて上へ戻っていった。
「なぁ、ミーシャ。あの体をものすごく硬くしていたのは何だったんだ?」
「手の内を晒すのはあまり良くないけど、隠すほどでもないしグレンは見込みあるから教えてあげる。……ただの【硬気功】ってスキルだにゃ♪」
スキル、そういえば前にアイリも俺が索敵のスキルを持っているのか、言ってたな。
もしかしてただの技術と言う意味じゃなくて、そういうものがあるのだろうか。
「あれ? 意外と驚かないね。フツーは【硬気功】なんてクソスキルがそんな強い訳ないー、とか驚かれるのに」
「ん? ああすまん。そもそも俺はスキルについて知らなくてな。……えっと、魔法とは違うのか?」
「ええ!? グレンってそこから!? 魔法スキルとは別に戦技スキル、技能スキルって色々あるでしょ、まぁ、どれも似たようなもんだけど」
「すまん。初耳だ」
ふむ、やはり魔法の他にもそういうのがあるのか。
「っかー! グレンってばどんな田舎に住んでたのかにゃー。スキルしらないとか……いやスキル知らないってことは全然スキル覚えてたりもしないってコトだよね? それで私と渡り合ってたのか……やるねぇ」
「で、その【硬気功】ってなんだ?」
「あー、うん。近所のお店でも普通に買えるスキルだよ。効果は、気持ち防御力アップするってやつ」
気持ち、か。……なるほど、防御力が上がった気分がする、と言う風に普通は解釈するんだろうが、ミーシャが実際に使っている所を見るに――
「気の持ちようによって、かなり防御力がアップする。……と、そういう事か?」
「ご明察にゃ! いやー、案外これが鍛えないと使えないスキルだけど、鍛えたら攻防一体のめっちゃ強い良スキルで。これ私が見つけたかんね! 広めていいけど私の名前一緒に広めてね!」
「広めていいのかよ」
「別に私が不利になる訳じゃないし、むしろ【硬気功】の先駆者として有名になるからよし! つーか奢るし、グレンも【硬気功】使お? ね? いいでしょ、ね?」
「……スキルを覚えられる数が決まってるとかあるのか?」
「才能次第だけど【硬気功】はコスト重くないからへーきへーき」
コスト? ……全体でとれる容量が決まってて、その中の一部、ってことか。
「まぁ、奢ってくれるなら吝かでもない」
「よし! それじゃあグレンはミーシャ流【硬気功】術の弟子第1号だかんね!」
「……ちょっとまて、1号なのか?」
「誰も信じてくれなくてにゃー。ふぐぅ」
そう言ってミーシャはどこからともなく巻物を取り出した。
「それもスキルなのか?」
「ん? 【収納】のこと? そうそう、これもスキルね。マジックバッグと合わせて使うと手ぶらでたくさん持ち運べて便利だよ」
なるほど、確かにそりゃ便利そうだ。今日グレイウルフを狩ってきたけど運ぶのだいぶ面倒だったからな。あれが手ぶらで良いなら相当楽になるだろう。
と、巻物を受け取る。
「はい、そんじゃこれを魔力通しながら読んで! そうすればスキル習得できるから」
「……」
「ん? どうしたの?」
「あー、すまん。……魔力を通すのってどうすればいいんだ?」
俺がそう言うと、ミーシャはこめかみを押さえた。
「そっからかーい!」
「いやその、すまん。田舎者でな」
はぁぁ、とため息をつくミーシャ。
「いーよもう! とことん教えちゃるにゃ、聞け! ミーシャ姉さんに何でも聞いちゃえ! スリーサイズでも性感帯でも教えてあげちゃう! むしろ娶れ! 私より強い雄希望!」
「ちょ、ちょっとミーシャ様!? グレンさんに先に目を付けたのは私ですよ!」
それまで安静にしていたアイリが慌てて横槍を入れてきた。まぁ今は大人しくしとけ。
「ミーシャ。質問はさせてもらう……が、スリーサイズとかは興味無いからな?」
「地味にフラれた! うわぁあん、ショックにゃぁああ! 折角見込みのある雄見つけたのにぃ!」
その後、ミーシャを宥めて魔力の流し方を教わり、なんとか【硬気功】を習得した。




