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灼熱戦士カエン、異世界に立つ

「はあ、はぁ……」


 森を、ガサガサとかき分けて逃げる少女。年のころは15、6歳と言った頃合いか。

 服や肌が汚れるのをいとわず、たまに後ろを振り返りつつも、必死で走る。

 少女は今まさに、山賊に追われていた。


「くっくっく、お嬢ちゃーん、どこに逃げるつもりだぁ? 大人しくしてた方が身のためだぜ? ギャハハ!」


 少女の父は商人だ。商品を積んだ馬車で山を越え、商売に行くところだったのだ。

 いつもは、護衛の冒険者が山賊など追い払ってくれるのだが、その日に限っていつもの冒険者が居なかった。代わりに、雇った冒険者は、まだ新人に毛が生えたような奴だった。

 そんなときに限って、山賊に襲われてしまった。

 3名の冒険者のうち戦闘が始まるや否や逃げ出したのが1名、山賊の奇襲で殺されたのが1名、戦いつつ少女を逃がすのがやっとだったのが1名だった。


「きゃあ!」


 木の根に足を取られ、地面に倒れる。倒れてしまった。

 山賊は、にまにまと気持ちの悪い笑みを浮かべて地面に転がる少女に近寄った。


「よぉ、もう逃げるなよ、諦めちまえ。じっとしてれば優しくしてやるからさぁ」


 腕をつかみ、強引に引き寄せて立たせる。少女は、最後の抵抗とばかりに手を振り回し、わめくが、山賊はあっさりとそれを捕まえて木に少女を押し付けた。


「や、やだ、やだぁ! 放して、だ、誰か! 誰か助けてッ!」

「バーカ、こんなところに助けなんて来るもんかよ。さぁ、お楽しみの時間だ……」


 と、山賊が少女の服に手をかけた、その瞬間。


「待てぇい!」


 男の声が、響いた。


「あぁ? なんだテメェ……おまえも混ざろうってワケじゃなさそうだな、チッ、面倒くせぇ。通りすがりの冒険者……か? ……なんだその、みょうちくりんな恰好は」


 炎のような、全身を薄く覆う赤い服。服に縫い付けられたように要所だけを守る鎧。腰につけたゴテゴテとしたベルト。そして、頭を完全に覆う兜。

 山賊は、血を雑にふき取っただけの(なた)を抜き、乱入者に向けた。

 乱入者は、それを見ても一向に動揺することなく――名乗りを上げた。


「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ! 我が名はカエン、悪を燃やし尽くす正義の炎!」


 カッ! と乱入者の――カエンの全身が、一瞬火に包まれたように見えた。

 ……魔法使い、だろうか? と、山賊は思った。が、杖もない。そもそも、武器を手にしているようには見えなかった。


「た、助けてくださいっ!」

「――ああ、今助けよう」


 カエンは目にもとまらぬ速さで山賊と少女の間に割り込んだ。


「なッ?!」

「一応、先ほどのやり取りは聞こえていたよ。……心を入れ替えて、行動を改めるなら――命までは取らない」

「はァ?! ふざけてんじゃねぇぞ!」


 明らかに殺す気で、山賊はカエンに鉈を振り下ろす。

 ガッ! とカエンの腕に半分ほど、鉈が刺さった――否。鉈が、カエンの腕の形に溶けていた。


「はッ…はぁああ?!」

「残念だよ、本当に。この世界に来て、早速こんな事になるとは」


 カエンは、狼狽(うろた)えた山賊を振り払うように弾き飛ばし、距離をとる。

 そして。腕を手信号のようにババッと回してから、腰についているベルトに手を当てた。


「ホノオガジェット展開!」


 カエンがそう言うと、ギュイン、とカエンの体に赤い光の線が走った。

 光は右足に集まり、ゴウ、と炎が宿る。


「な、なんだ?! 火魔法か?!」

「燃え(たぎ)る正義の炎……バァニングッ! ジャスティスフレアーーーッッ!!」


 ボゥッ、と足元が爆発したように――実際爆発して――山賊に向かって飛び上がり、炎を宿した右足で、山賊を蹴り飛ばした!


「ぐぁあああ?! ――ッ!」


 吹っ飛びながら蹴られた箇所から炎が広がり、山賊を包み込み――

 ――――ちゅどぉおおんッ!!

 ……と、山賊は跡形もなく爆発した。悪は、かけらも残さない。それがカエンの必殺技(・・・)、『ジャスティスフレア』だった。


 そして、静寂が戻る。あとに残されたのは、カエンと、助けられた少女。


「……あ、ああ……」

「もう大丈夫だお嬢さん。怪我はないかね」

「は、はい……あ、あの! まだ、父が山賊の仲間に――」


 少女は、家族の危機を思い出し、助けを求めてカエンに縋りつく。

 が、カエンは落ち着いた動作で少女の頭を撫でた。


「心配はいらないよ。……そっちも、既に片付いている。君のお父さんも無事だ。護衛の人は、1人、助けられなかったけど」


 悲痛そうに顔をうつむかせるカエン。その表情は、顔を完全に隠す兜によってうかがい知ることはできない。が、少女にはそれが、泣いているように見えた。


「あ、すまない。ちょっと離れてくれるかい? 変身を解くから」

「え? あ、こちらこそすみません。カエン様。……変身?」


 少女が離れたところで、ギュンギュンッと火の膜がカエンを包み込んだ。

 膜が消えた後は、不思議な服と鎧、兜が消え、仕立ての良い布の服を着ている黒髪黒目の男性が立っていた。ベルトだけは残っていて、それでカエンと同一人物なんだろうなという事が分かった。

 が、そのベルトもフッと消えてしまった。一体、どういう魔法だろう。アイテムボックスという異空間に物品を収納するという魔法があるが、それだろうか?


「カエン、様?」

「……あー、えっと。一応、こっちの姿の時は、グレンと呼んでくれるとありがたい。もう(・・)正体を隠しているわけではないが、その方がしっくりくるからな」

「は、はい。グレン様」


 カエン改めグレンは、少女が頷くのを見て、にっこりと笑って頭を撫でた。

 人の良いお兄さん。そういう印象を少女は覚えた。




  *


 俺は穂村 紅蓮(ほむら ぐれん)、改造人間だ。

 何を言っているのか分からないかもしれない。

 3年前の夏のある日、俺は悪の秘密結社に拉致され、改造されてしまった。


 ――そして、何やかんやあって、俺は正義のヒーロー『灼熱戦士カエン』となって、その秘密結社をぶっ潰した。


 正義の鉄槌といえば聞こえはいいが、単なる復讐、そして腹いせだったと思う。

 そして、秘密結社を完全に潰した代償に、俺は元の体に戻る方法を無くしてしまった。もう、俺は改造前の体には戻れない。普通に恋愛もできやしない。


 さて、世界も平和になったし、これからどうしようか――そう思っていた矢先の出来事だった。


 俺の目の前で、トラックに()かれそうになっている子供が居た。


 『正義』なんて俺の復讐を隠す言い訳のようなものだったが……どうにも俺の体は、人助けをする習慣が身に付いてしまっていた。

 思わず、体が動いていた。

 そして、子供を助ける代わりに変身していない生身の状態でトラックに()かれた。



 ……と思ったら、俺を不憫に思った神様が、助けてくれた。

 もう元の世界には戻れないが、異世界に転移させてくれるらしい。

 そして、その異世界には回復魔法という物があり、失った体をも再生できるとのこと――そう、俺の体を、元に戻すことができる可能性が、そこにあった。


 神様が直してくれればいいんじゃないかとも思ったのだが、異世界に転移させるだけでもかなりギリギリのことで、これ以上はできないらしい。

 恩人を困らせる気はないので、追及せずにそのまま異世界に転移してもらった。


 そして、早速見たのが山賊に襲われる馬車である。


 ――で、それを助けて今に至る。

 商人の娘を間一髪で助け、連れ戻した。無事に戻ってきた娘を見て、商人はとても喜んでいた。

 やはり、人助けはいい。こうして無辜の人々の笑顔が見られるのだから。


「グレン様、娘を助けていただきありがとうございました。おかげ様で馬車と商品も無事でした。何か是非、お礼をさせてください」

「何、当然のことをしたまでだ。礼など要らない――と、言いたいところだが、それなら助けてほしいことがある」

「はい、何でしょう。私どもに手伝えることでしたら何でも致しますよ」


 俺が「助けてほしい」と告げると、商人が笑顔で「何でもする」と言った。……うーん、俺だからいいものの、商人としてはどうなんだろうな? と思わなくもない。


「ならその……次の目的地まででいいから、俺を護衛に雇ってくれないか? その、ちょっと事情があって金も食料もなにも無くてな」

「そんなこと、こちらからお願いしたいくらいですよ! あなたのような凄腕を雇えるなら、この先は安心だ!」


 俺の提案は特に不利益になるようなものでもなく、むしろそれだけだとこちらの礼にならない、と、言われてしまった。

 山賊から助けたとはいえ、俺の様な怪しい人間をすごく信用してくれる当たり、この商人はかなりのお人よしなんだろうな。


「……それでは、ちょっとこの国のことについて教えてもらえないだろうか?」


 一応、転移する際に神様から簡単にではあるがこの世界について教えてもらった。

 まずは町を目指して、そこで冒険者になれば当面の生活はできるだろう。ということだった。が――詳しくは時間が無く聞けなかったのだ。

 冒険者とはなんなのか、そもそもどうやったらなれるのか。

 そういうことを商人から教えてもらいつつ、俺は馬車に揺られて、目的地の町へ向かった。





(今作はテンプレな作品にしようと思います。思うまま、暇つぶし更新のため完全に不定期の予定です)

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