私はやっぱり甘いものに釣られる。
三話連続投稿の三話目です。最終回でもあります。
響と私と、二人で魔女だった砂糖を使ってアップルパイを作って、私一人で全部食べた。
響には別で普通のアップルパイをそこに出して、同じコーヒーを飲んだ。
「ねぇ、これで咲ちゃん死ななくてもいいんだよね?」
「起きたら死ぬよ。私はそれだけ人を殺したし人を食べた」
「なら僕も死ぬね。咲ちゃんの為にって勝手に思って何人も殺して何人も食べさせた。魔女の復活に全く関係ないなんて知らないでさ」
二人してフォークを置いて、私は首を横に振った。
「それも私のせいだから、響は死なないで」
「なら咲ちゃんも生きようよ。咲ちゃん関係なく僕は何人も殺してる、それでも好き勝手生きてるよ」
「でも、私は響の人生も狂わせたし」
「狂ってなんかないよ、僕も鈴ちゃんもみんな、やりたいことをしただけだから」
むしろ怒るよと響が頬を膨らませる。
「大体、咲ちゃんがどう思ってるか知らないけど僕は咲ちゃんのこと友達だと思ってるからね!僕が隣にいる内は簡単に死なせたりしないから覚悟してよね!」
友達。初めてのその存在をしっかりと咀嚼すると胸の中が温かくなってくる様だった。
普通でありたいとずっと思ってた。結局それは叶わなくて、体もすでに魔族だけれど、素直に嬉しかった。
「後、あのお店の親父さんが退院して、また固めのプリン食べれる様になったんだからまた鈴ちゃんも一緒に行くからね!
「わかった、生きる」
本当に咲ちゃん甘いもの好きだよね。と響が笑って、一緒にこの世界を抜け出した。
やっぱり私は甘いものに釣られてしまう。一緒に居てくれる友達がいる、甘い現実に釣られて私は死ぬのを辞めた。
戻ると風丸さんが起き上がった私と響を見て泣いて、嘘泣きしながらセクハラしてこようとした真理恵先輩がいたり、山蛇に終わってからも無駄に過ごされたせいで疲れ気味ですと文句を言われて、博士には色々と私の体にかけられていた魔法の事を聞かれた。
魔女を食べたことで私の中に魔女の知識や記憶が移ったみたいで、とりあえずアップルパイはわざわざお店に食べに行く理由がなくなった。
恋できない術式も、子宮を守る術式も解除して、心臓と脳を守る術式だけは残し、私が魔女の器だったという事実を人々の記憶から消した。
首から生えた角は先を折って髪を下ろすと見えないからとりあえず良しとした。翼は出そうと思えば出せるけど常に出していなければいけないものでもない。
学校には戻らなかった。土屋先輩も卒業してたし、行かなくても問題はなかった。
アホ猫は、いつの間にか消えていた。私が魔族になっても魔女にならなかったと知って別に主人を生き返らせる方法を探し始めたんだと思う。
代わりに、両親の死体が家に置いてあったのは多分口封じだろう。アホ猫を探したら敵対することになる、そういう事だ。探す気はない、私が生きているならば、魔女の復活は止める意味がない。それに多分できないから。
それなら、私は甘いもの紹介してくれないと死ぬよ、と戯けた脅しを多用して響や風丸さんと色々と遊びに行った。時々甘いもの関係なく遊んで、申し訳程度にコンビニでアイスを買って食べたり、色々としたかった事をした。
就職は土屋先輩の実家の方で、菓子作りというより経理とか接客をし始めた。
「ねぇ、咲ちゃん。弟君にプロポーズされたんでしょ?」
「うん。受けるつもり」
結婚してから数年は甘々だったけどいる事に慣れると時々大きな喧嘩をして、そうしたら大体響を頼った。
「咲ちゃんのお世話しすぎて僕、婚期逃したよ!」
「三十路前で僕とか言ってるからだと思う」
逆に響が結婚して旦那と喧嘩したら私の事を頼ってきた。
あの時の事がなかったみたいに、あれから二十年経った私達は普通の人生を送っている。私が人であるために、人の体は必要じゃなかったとやっとわかった。
私は甘いものが好きだ、今の甘い人生が好きだ。
読んで頂き、ありがとうございました。




