最終章 2 - 2 (終)
最終話です。
アンリードもヘイクワースの手も、届かないその場所に。
そのはずだった。
ところが、そう簡単にコルテラの思う様にはいかないものだ。
リンがIIMCから消えて、数日内にコルテラに二人から接触があった。
これが正規の方法ではなく非正規、常識的には許されない方法だった。
しかも、そのレベルが最高水準どころではない。
申し合わせかのようなタイミングで、
二人それぞれからコルテラ本人のコードでジード社にアクセスされた。
一人はコルテラが外部に情報を漏らすかのように装い、
もう一人は大量の情報を一気にジード社に送り付けた。
いわゆる妨害工作を施してきたのだ。
この方法、あくまでもコルテラ本人だからこそ出来るような内容だった。
これが、一気にジード社を揺るがした。
それはそうだろう。
社長であるコルテラが、自社の悪行を世界中にまき散らす真似をしたことになる。
そして、ジード社の情報網を壊滅させようというのだから、
これはたまったものではない。
そしてその両方に共通していたのが、
IIMCに関わっていなければ分からないコードが忍ばせてあった。
さすがに、これにはコルテラでも気がついた。
そう、二人からのメッセ―ジだ。
内容は皆様のご想像通り、脅迫めいたもの。
IIMCはもとより、他言無用。もし違えた時は、……。
アンリードは、まだアンリードを名乗る前、
主に軍の匂いの強い国の軍関係の機関のシステムに侵入し、
その情報を把握すると先回りをし、情報に手心を加えた。
たとえば、目的場所を勝手に変えたり、自分の思う通りにスケジュールを変えたりした。
もちろん、簡単にそうとは分からないように。
ヘイクワースも、まだヘイクワースとなる前、
国際警察の管理するデータ-を書き換えた。
自らの構築した情報網を駆使して、手配中の人物の所在を確認、
その後、手配者と連絡を取り、気が合うと判断した逃亡を手助けした。
そしてその情報について抹消した。
それも一人や二人ではない。
自らの意志で情報を盗み出し、好き勝手に使いまくっていた。
もちろん、そう簡単には捕まらない。
そんな彼らが、なぜIIMCに身柄を確保されたか。
それは、リンのなせる業だ。
以前にも書いたが、「ハッカー・ホイホイ」の成果と言える。
二人は、リンが忍ばせた罠に、まんまと嵌まった。
そして、その顔が明らかになった時、二人とも「まさか」と、思ったという。
なぜ、リンに捕まった彼らがリンにこれほど入れ込んでしまったか。
簡単だ。
実はハッカーなど、実際に捕まえて見なければ、正体が誰なのかさえ分かるはずもない。
分かったとしたら、それはそれですごいと言える。
それに、ハッカー・スピース。
これほどまでの人気を博したハッカーが存在しただろうか、実際はいた。
しかし、スピースほど顕わに名前が出ていた者はいない。
そんなスピースが、
まさか、
IIMC側について自分達を捕まえるとは思ってもいなかった。
初めて技術者としてのリンに会った時、
二人同時ではなかったにしろ、同じ印象を持った。
「こいつ、何者?
まるで、スピースだ」
と。
二人の技術が高かったからこそ、リンの持つ物に気がついた。
そして、その印象通りだったから、余計にリンに魅かれた。
その技術と、人柄に。
リンは当時二十歳そこそこで、かなりきつい条件でも屈託なくそこにいる。
それに驚いた。
どんな状況でも、リンはリンだった。
文句の一つも言いたい状況下で、言われるままに従う。
まず、抵抗や拒否は認められてはいないとはいえ、
この状況で下を向いていない。
見えない先に光が射しているかのように。
誰にも影響されない、強い意志があった。
たとえ脅しに近い状況でも、自分が納得できないなら、遠回りに断っていた。
あからさまに敵を作らないように。
そしてIIMCもリンが嫌がれば、検討し直して持ってくるようになっていて、
他のハッカーにはそこだけが異様に思えたほどだ。
リンに「一目置く」そんな感じ。
そんなリンは、IIMCの活動の中でも重要な部分を任され、
しかもその運用に口を出した。
最初はそれでもよかった。
しかし、それがIIMC側にとって重荷になってきた。
それもそのはず、IIMCとはハッカーを管理はするが、
ハッカーに管理させるなんて許されるはずがない。
そう、厄介な存在になり始めた頃に、IIMCにとって好都合な話が舞い込んできた。
以前、リンを派遣した組織から、リンに興味があると打診された。
リンの技術をもらいたいといった内容だった。
もちろん「はい、そうですか」と二つ返事という訳にはいかないが、
IIMCにとっては、タイミングが良かった。
それがIIMCには、どういう意味かも分かっていた。
リンを売り渡すのだと分かっていたのだ。
それが禁断の果実をもぐことになるということさえ。
さて、その後はIIMCとその企業の取引が成立し、
リンは本人が知らないうちに身柄が移された。
そうとは知らされず。
リンが気がついた時には、もう時すでに遅し。
だが、IIMCにとって、これが思惑にそぐわない一番の理由だと、
後になって気がつく。
リンはその企業のみならず、IIMCも敵として認識した。
その敵とみなした相手に、容赦などしないと思い知らされたのだ。
情報操作など、夢のまた夢。
しかも、そこに加担しているのは、
信じていた企業としてのジード社。
そして技術供与者としてのアンリードとヘイクワース。
リンはIIMCそのものを叩き始めた。
世界を自分の情報網に入れ込もうと企むIIMCを、
「悪」として。
あからさまではなく、ひっそりと。
その結果、IIMCは気がつかない間に、徐々に包囲網を狭められていた。
この世に存在する情報には、それそのものに思惑が存在する。
それが、偶然いや、自然に発生したものか、
それとも何者かの意図が含まれている物かどうかなんて、
見極めるなんてそう簡単にはいかない。
今そこにある情報は、
疑いを持たない限り、
それとして受け入れられる。
正しいかそうでないかなど考えている者は、そう多くはないはずだ。
だから、IIMCは自らが発した情報で、世界中を管理でもしたかった。
と、考えていた。
それを実現するために、試みても結果失敗。
それどころか、リンにまんまと嵌められ、成す術もなく歯噛みした。
リンは、ジードを取り込み、
率先して情報の改ざんなどを保護した。
IIMCを含めて誰も情報に手を出せないように。
リンは自分の立場をこう位置付けた。
「情報の番人」と。
そして、IIMCから出たリンは、それを全うしようとそれこそ全力で立ち向かった。
IIMCとそれに付随する者達から。
リンには、多くの協力者と賛同者が味方した。
ジードも然り。
リンを取り込もうとして、
反対に魅せられたコルテラは、一方的にリンに従った。
いや、リンを守った。
リンには、これ以上ないほどの力強い味方がいる。
自由も、限られているとはいえ、そこに存在した。
ジードの保護の元に。
まさかこんな事が…………。
そんな事あると思う?
もし、そんな事がすぐそばにあったとしたら……。
「気持ちいい日になるね。ここにはきれいな花が、溢れそうだよ」
「…………」
「お兄ちゃん。久しぶり。元気にしてた?」
「…………」
「どうしたの?」
「……利沙、か?」
「そうだよ、久しぶりって、言ったでしょう」
「! ……」
ここは、「ツツジ公園」
―― 完 ――
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。
ずいぶん長い話になってしまいましたが、ここまでこれて、良かったです。
感想などいただけたら嬉しいです。
本当にありがとうございました。




