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第二章  21

                   15


 フェルデは、机に置いた。


「これが、何か分かるか?」



 それは、小さなアンプルのビンに入った薬と、一本の注射器だった。


 説明されなくてもリンには想像がつく。

 今まで、これに何度嫌な思いと、全身の苦痛を味あわされたか。


「なんとなく……」


 リンは緊張した面持ちで、それだけ言うのが精一杯だった。



「たぶん、その通りだ。

 なら、どうしてこれがここにあるかも、分かるな?」


「…………」


 リンは、答えなかった。

 いや、無視した。


 見たくもない。



「答えないつもりか? 

 それなら、こっちとしても見逃せないな」


 そう言うと、リンの側にいたサミーとホイソンが、リンを無理矢理押さえつけた。


「リン! 返事は? この意味が分かるな。

 だったら、答えろ。どうする!」



「したくない! するつもりなんてない!」



 リンは、断固として譲らない。


 それどころか、声は一段とはっきりと大きめの声だった。


「リン! 

 いいか、良く考えろ。


 俺達が言ってるのは、ここに入れるかどうか試してみろ。

 そう言っただけだ。

 なのに、何を拒否する?」



「……それだけで終わるとは、思えない」



 リンは、より一層きつく押さえつけられ、声が出しにくくなっていた。


「何のことだ? 

 では、もう一つ。

 試してみたら、ここを乗っ取ろうとしたことには、目を瞑ろう。


 これでどうだ? 

 条件としては、これ以上ないだろう。


 それどころか、ラッキーだよ。二つの罪が一気に消えるんだからな」



「二つ?」



「そうだ。乗っ取りと、そのシステムを行使だ! 

 どちらも重罪だ。どうする? 

 この罪で裁いてやってもいいぞ。もちろん罰は厳しいものになる」



「…………」



「どうだ? 

 ただ、一回試すだけだ。それで、この二つの罪に目を瞑ってやる」


「イヤだ。絶対しない! ……クッ」



 リンの体は、微動だに出来ない程押さえられていた。

 その態勢のまま、背中にあった左腕が、机に延ばされた。



「リン! いつまでそれが通るかな?」



 そう言ったフェルデの手には、例の注射器があった。

 もちろん中身は入っている。


 それを、わざわざリンの前に突き付けた。



「!! ……好きにすればいい。私はしない!」



 リンが一瞬で竦みあがっていた。

 体が細かく震えている。


 それが押さえつけているサミーとホイソンにもはっきりと伝わった。

 それをフェルデも認めた。



「! 強がるのも、そこまでだ。

 口は好きに言えるかもしれないが、体は震えてる。

 この薬の効果を、体は覚えてるって。声も震えて聞こえるぞ。


 いいか、リン。

 たった一回、それでいいんだ。やってみろ」



「……イヤだ。したくない。

 ……なんでもすればいい。私はしない」



 そう言ったリンだったが、体の方は明らかに怖がっている。


 頭で考えることと、体が望んでいることが全く違うと、

 見ている方にはっきりと伝わってくる。



「本当にいいのか? 

 これを使えばどうなるか、知ってるのは、リン、お前だ。

 いいか、これにそんなに長く耐えられるはずがない。

 それが分かっているから、さっきから体が震えてるんだろう?

 ……もう一度聞く、どうする?」


「……好きにすればいい。」


 勢いのない、ともすれば、聞き逃してしまいそうな声だった。



「最後だ。本当にいいのか、リン?」


「! …………」


 リンに見せつけるように、改めて注射器を置くと、

「もういい、放せ!」


 フェルデは、リンを押さえていた二人に言うと、


「無理はするな、リン。俺達はお前をいじめようっていう訳じゃない。

 お互いに利益になることをしようって言っているだけだ。

 お前の罪をなかったことにしてやる代わりに、ちょっと試すだけでいい。

 どうだ、悪い条件とは思えないだろう?」



「……それは、違う。

 これが成功したら、また……させる。

 それも、今度はもっと違う所を!」


 リンは、少し力の入った声で応じた。


「それは、今考えることじゃない。

 それはこれからの結果次第だ。

 うまくいかなければ、続きはない」


「ほらね。上手くいったら続きがあるってことでしょう。

 私はそれがイヤなの! 

 したくない。何も!」



「それは通らない。それは体が言っている。

 さっきから震えたままだ、リンのためになるから言ってる。

 一度試してみろ」


 次の話で「第二章」を終わります。

 もうしばらくお付き合い下さい。

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