第二章 20
「リン!」
そう言うと、リンの体を押さえつけた。
この格好、リンは嫌いだった。
なんとなくこの後の展開が想像できる。
そして、それは考えたくもない。
「さあ、はっきりは覚えてない」
「それをどう証明する。
……では、質問を変えよう。
メインシステムには、どうやって侵入した。
聞くところによると、監視システムを逆流したとか?」
フェルデの勢いはそのままに、声のトーンが下がった。
リンは全身が震えるように恐怖した。
「……それは、有線でつながっているし、
監視システム自体は独立しているとは言っても、
結局その結果をメインシステムに報告するようになっていたから、
そのルートを探し出して、それを辿っただけ。
……それが?」
リンが、淡々と話している間、フェルデは、体を押さえつけたまま聞いていた。
「パスワードは、どうした。
どんな方法でもパスワードがなければ、情報を見られないはずだ。
それにプログラムを書き込むなど」
「?
そんなの、必要ないよ。
メインシステムは自由に閲覧できる。
入ってしまえば、だけど……」
「!? どういう意味だ?
パスワードは必須。それがどんなに急いでいたとしても、だ」
「! ……」
「どうした、何も言う気はないか?
それとも、言えないのか」
「……べつに、なんでもないよ」
リンの態度が変わった。
声も、さっきまでの勢いはない。
それどころか怯えている。
押さえつけたリンの体が、わずかだが震えているのが伝わって来た。
そこで、フェルデは、リンの体から離れ椅子に座らせた。
フェルデ自身も向かい側に座り、リンの顔をまじまじと見て、意味ありげに聞いて来た。
「言いたいことがあるなら、聞く。何をした?」
「なにも、……何もしてない」
「そうか?
そうは見えないんだがな。
……言いたくないなら、言ってやろう」
そう言うと、リンに言い聞かせるような口調で、話し出した。
「リンがまだスピースだった時、
侵入したコンピューターには、いつでもアクセスできるように細工した。
それがここのメインコンピューターにある。
なぜなら、ここのメインコンピューターの侵入に、スピースは唯一成功させていたからだ」
「…………」
「スピースは逮捕される前に、スピースの処分の行方を探っていた。
……まさか、ハッキングされているなんて、こっちとしては全く気づいていなかったんだが。
……今も、スピースがアクセスできるように書き換えられたままなんだろう?」
「! …………」
「黙秘はするな!
そう言ったはずだ。
……この書き込まれたシステムも、このスピースの方法を使ったとしたら、
そうすれば可能だろう?
だからこそ、誰にも見つけられないようなトラップが仕掛けられている」
フェルデは、肯定的に話を進める。
リンは何も言えず、ただひたすらフェルデが次に言うであろう言葉を、
いや、条件を……聞きたくなかった。
「リン。言いたいことは何もないか?」
「だったら、……なに?」
フェルデの口元が、少し緩んだ。
リンは、それを見逃さなかった。
「リン?
今まで何度かアクセスするチャンスがあったはずだ。
……どうだ? その時はアクセス出来たのか?」
「! …………」
「返事はどうした」
「してない! そんなの」
リンは、様子を伺いながら、静かに話した。
しかし、フェルデは引かなった。
「出来るんだな?」
「知らない。
スピースは消えた。
たぶん、……その時に出来なくなってると思う。だから、……」
「でも、可能性はあるわけだ?」
フェルデは、苛立ちを覚えた。
リンが「出来る」と、「過去に試した」そう言うと思っていた。
「わからない。けど、その可能性は……ある」
その後、リンは続けて、
「あっても、しようと思わない」こう言った。
フェルデは次の一手に出た。
「リン、一度試してみろ!」
「! しない。したくない!」
断固として、譲ろうとしなかった。
何度勧められても、「しない」という態度を変えようとしなかった。
こんなやり取りが小一時間続き、フェルデは一度部屋を出て、すぐに戻ってきた。
時間から考えて、誰かに相談をしたとは思えなかった。
元々、リンの取り調べは一任されている。
誰かに確認する必要がない。
そして、そのフェルデの手には、リンには見たくもない物があった。




