第二章 8
サーシャは、大きくため息をつくと、
「あのね、ロリアンって、取り調べの時何かされたの?」
「! また、いきなりですねえ、お姉さん。
……どうしたの? 今頃」
「私が聞いてんのよ! 何かされた? 取り調べで!」
穏やかに話すロリアン。
それに食って掛かるサーシャ。その構図がしばらく続き、
「で?
結局、……他人の取り調べに興味を持ったわけだ」
「まあね。教えてよ。どんななの?」
興味津々のサーシャの顔があった。
「そうだなあ、詳細まで聞かれて、ちょっと言いたくなくて。
黙り込んだってわけじゃないが、隠そうとしてたのがあって。
それが……ねえ、まあ、言わされたんだけど。
その時、使われたのが、俺は電極付きの機械。
言い淀むたびに、これが、厄介な代物で、きついんだよ。
……電気って、あんなに強烈な物かと思ったね。」
「電気が流れるの?」
「まあ、はっきり言うとそうです。でも、言っても伝わらないだろうね?
機械見た時は、こんなの楽勝だと思ったんだけど、……見るだけと実際使われるのは、全然違う」
「……そうなんだ」
「ところで、なんで、こんなこと気になったんだよ?
それに、サーシャがなんでそんなこと聞くんだ?」
「……いいのよ、そんなの気にしないで」
「ちょっと待て。言わせといて、それはないだろう?
それにサーシャだって経験しただろう?
わざわざ聞かなくても」
「うるさいわね。いいって言ってるでしょ」
「……そうか、サーシャって、あの経験してないんだ。ってことは、ベラベラしゃべった口か?
だから、聞いて回ってんだろう?」
「うるさいって言ってるでしょ!」
サーシャは、そう言ってロリアンを引っかこうと手を伸ばしたが、
間一髪ロリアンが交わすのが早かった。
「やっぱり!
へえ、あれで、しゃべる奴がいたんだ。
俺には信じられないな。一体お前何したんだ?
簡単に話せるところしか侵入しなかったのか?
それとも根性なし?」
「違うわよ!
どうせ話さなきゃならないなら、痛い思いなんてしたくなくて、さっさと話したわ。悪い?」
「! い、いや、悪くない。……悪くないです」
ロリアンの腰が引けてる。
それもそのはず、サーシャの目が座っている。
冷たい雰囲気と、頭の上で握られた拳が、ロリアンの目の前にある。
「そう、ならいい」
笑顔のサーシャがいた。
拳も消えた。
ロリアンは深いため息をついた。
「それで、その火傷がどうしたって?」
「だから、リンの手や足にあったの。帰って来たリンの手に。
それを気がついたコルテラが、冷やしてあげてたの。
まるで、最初から知ってたみたいに」
「へえ、気が利くんだな?」
まじまじとリンと話しているコルテラに目をやると、
「気が利くって、……なんか悔しくて、私には分からなかったし……」
「それは仕方ないだろ?
知らないんだから、それを、いま(さら……)ごめん、悪気はない!」
サーシャの目つきが怪しい。
ロリアンはすぐに謝った。
そして、話題を逸らそうと、
「でも、なんだってサーシャが気にするんだよ。
リンなんて、気に入らなかったんだろ?
ほっとけばいいのに」
「そんな訳にはいかないわよ。同じチームなのに」
「ふ~ん。そんなもんか?」
「そうよ。それに、リンとコルテラが、あれ以来仲がいいのよね」
「えっ。もしかして、サーシャってコルテラを?
それにリンにやきもちを……」
なんてこと、大きな声では言えず、
ロリアンは、口のなかでモゴモゴしてしまった。
「なに? 何か言った?」
「い、いや。何も。……それより、リン帰って来たんだ。
一ヶ月もかかったな」
「そうね。噂じゃ、スタッフを口実にして、広場に入ったって」
「口実ね。でも、……リンって、いつからここにいるんだろう?」
「ばかね、三か月前にチームに入ったのよ。
一・二年ってところでしょ。どうしたの?
そんなの気にして」
「いや、なんでもない」
「あっ、もしかして、リンに興味あるの。ロリアン?」
「ち、ちがうよ。
ただ、……最近来た割に、慣れてるなぁって思って」
「……そう言えば、そうね。
でも……、そんなのあんまり関係ない気がするけど。
行き来するのって、決まったルートでしょ?
それにすることっていったら、いつも同じような物ばかり。誰でも、すぐ慣れるんじゃない?」
「それも……、そうだな?」
なんか、色々話している間に休み時間は過ぎていき、午後の作業に戻っていった。
その後相田香波は、リンとの接触を禁止された。
それどころかハッカーの存在はここではごく一部でしか知らない、貴重な情報。
それを、偶然とはいえ知ってしまっていたので、口外も禁止された。
ワーティも、まさかリンを知っている者がいるとは思っていなかったし、
ましてや、思ってもいないタイミングで聞かれ、つい話してしまった。
それを後悔していた。
しかも、問題が起こってからは、減俸処分になってしまった。
ついてない。
そう思ったのも、事実。
香波は、リンはもちろん他のハッカーにも会わないように、
そして、リン達のいるハッカー用の食堂に行くことも禁止された。
広場に入るまでは禁止されなかったが、あれから一度も入っていなかった。
同僚から誘われても入らなかった。
食堂に行くために廊下は通る。
しかし、気が重かったのも事実。
でも、リンに比べれば、ずっとまし。
そうして、時間が流れるこの時を過ごしている。
ふと気づくと、投稿時に忘れている部分があり、それを追加させていただきました。最後の十行ほどですが。すみませんでした。よろしくお願いします。




