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第一章  32

                  23


 マクレンとベーシャルそれにジェインに付き添われて

 アンリードとヘイクワースは学校内での作業に向かう為、ホテルを後にした。 


 あの後、さんざん、こってり、思いっきり、レイミアン直々に絞られ、

 ちょっとばかり元気のない二人は、とりあえず残りの作業を続けた。


 リンは、というと、ベッドの中にいた。

 まだ眠っている。


 そこに、レイミアンが入って来た。


「リン、起きろ!」


 内容とは裏腹に、少し優しく声をかけ、

 体にかかっているシーツを剥ぎ取った。


 それで、何とか目を開けたが、表情は芳しくない。


 リン自身、どうしてここで眠っているのか状況を把握できないでいた。


 確か、ここから逃げ出すべく飛び出し、エレベーターの前で……。


「! どうして、ここにいるの?」


 何がどうなっているのかよく分かっていないのに、なんとなく想像がつく。

 ただし、あまり良くないだろうと。


 起き上がろうとして、体の痛みと、手錠の存在が物語っているからだ。


 特に首の後ろに、めまいがしそうな程の痛みが走った。

 ちょうどそこは、昨日最後にベーシャルが一撃した場所であり、強烈だった。

 一晩寝たくらいで痛みがなくなるわけではない。

 手加減なんて、一切加えていないのだから……。


 その首の後ろに手を廻そうとして、手錠が邪魔になった。

 そこで、リンは必然的に頭を抱えるように体を丸めた。


 しかし、ここで、体中から悲鳴があがった。

 昨日の取り調べで、さんざん痛い思いをしている。


 それが響いた。

 ……体をどこか動かすたびに、どこかが痛み出した。


 しかも、それはジワジワとではなく、はっきりと。


「うっ……!」


 呻き声とも悲鳴ともつかない声が、リンの口から洩れた。

 レイミアンはそんなリンを、強引に引っ張り上げた。


「!!……ッ」


「起きろと言ったんだ!」


 レイミアンが、リンの胸元に持ち直し、体を起こすと、


「昨日のこと、覚えてるか? 

 何をしようとしたか、じっくり聞かせてもらおう。

 いいか、もう、騙そうなんて考えるなよ!」


 そう言うと、ポーリーにリンを着替えさせるように指示した。

 なぜなら、眠っている間に随分うなされていた。

 そのため汗をかいている。

 取り調べる側としても気分が乗らなかった。


 ポーリーは、着替える前にシャワーを浴びせられると、

 ダメージを受けた体には大きな負担になった。


 シャワーを終え、着替えを済ませると、リンは椅子に座らされた。


 さっぱりしたリンは、少し見栄えは良くなったが、息は上がっている。


「眠れたみたいだな? 

 ……どうだ、何か話したいなら聞くぞ」


 椅子に座って、うなだれたまま反応しないリンに、静かに聞いた。

 しかし、全く答えようとしない。


「リン。なんで、あんなまねをした?」


「…………」


「リン! 何か言うことがあるだろう!」


「…………」


「リン、いい加減にしろ! 

 逃げ出そうとしたんだろ! 

 それがどういうことか分かっているのか、リン!!」


 そう言って、レイミアンはリンの着替えたばかりの服を掴んだ。

 リンの体は宙に浮き、いかにも苦しそうに呻いた。


「リン! 

 言ってみろ! 

 逃げ出してどこに行くつもりだった。何をしでかすつもりだった!」


 その言葉にも、何も返さなかった。

 リンには、もう何も聞こえていないのではないかと思えるような、そんな風にも見えた。


「リン? 

 お前、どうしたんだよ。つい昨日は、普通に朝が来たのに。

 どうして……どうして、あんな逃げようなんてした。あんな……」


「レイミアンには、感謝してる。

 本当ならこの後もらえるはずだった休暇も、レイミアンが許可をもらってくれた。

 だから、……感謝してる。でも、もういい」


 リンが拒絶するように話し、レイミアンは、どこか違和感を覚えた。

 ただ、それが何かは、はっきりしない。


「リン、なんで逃げようなんてしたんだ?」


「逃げようなんてしてない。……でも、ここから離れたかったのかもしれない」


 リンが落ち着いて話すのを、レイミアンは不思議とそのまま受け入れた。


「それで?

 ……それのどこが逃げないって言える?」


「……言葉にするのは、難しい。

 でも、逃げ出したかったのは、こういう状況で。

 レイミアンやみんなからって、そういう意味じゃなくて」


「こういう状況って?」


「……、だから、言うのは難しいの。ただ、この状況。

 ……この、監視されたまま、何をするにも許可がいるとか、

 何かしたらしたで、信じてもらえないとか。そういうの」


 リンは、あくまで静かに話す。


「でも、それは仕方ないだろう? 

 今までを考えたら」


「分かってる。そんなこと言われなくても。頭では分かってるの! 

 でも、少し離れたかった。ただ、それだけ。

 ……逃げようとか、何かがしたくて離れようとしたんじゃない。」


 静かだが、その内面は熱いものが感じられる。


 そんな言い方だった。


「でも、それは通用しない。それも知ってるだろう? 

 だったら、どうして……」


「もういいよ。もう、……話したくない」


 レイミアンは、その後一切口を開かないリンに対しての尋問を行わなかった。

 そのすべてを本部に報告。


 リンは、ホテルの部屋に監禁され、本部からの迎えを待つことになった。


 リンは、言葉にならなかった。

 どう言ったところで、分かってもらえるとは思えなかったし、

 今回の状況は望む様にはならない。


 それどころか、最悪の事態に陥っていることも。


 レイミアンが、リンの身柄を「本部に移送する」そう言った。


 そうなったら、もう、こんな風に外に出ることは叶わない。

 それも、リンが起こした行動の結果だ。

 どんなに訴えても、そこのところは変わらない。


 そして、本部に移送されたら、……。


 リンは、想像したくなかった。



 翌日。


 本部から、クレイが迎えに来た。

 日本語が話せて、以前からリンの取り調べ担当でもあったから。


 次の話で、第一章が終わります。

 

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