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第一章 29

「アン。ちょっと聞いててくれ。俺、分かった気がする。リンの気持ち」


「何言ってんだよ。リンの気持ちが分かったって。それ……」


「リンは、油断したんだ。

 ……もうすぐ仕事が終わる。

 それにその後の休暇。

 しかもそこに昔の友人。

 これだけ条件が揃っているところに、そこにだめ押し。


 ……日本語で懐かしい声を聴いた。

 もしそれが、昔の名前を呼ばれたのだとしたら? 

 いくらリンだって、昔の名前なんか呼ばれれば、何かあってもおかしくない。

 ……俺はそう思う」


 淡々と言うヘイクワースに、アンは落ち着いて、


「それでも、こいつらについて行くなんてしないだろう?」


『……すみません。

 俺が、リンさんにナイフ使って、来てもらったんです』 


 それまで、聴くだけだった聡が、頭を下げながら言い出した。


「! ナイフ。

 ナイフで脅したのか? リンを!」


『すみません。

 俺、どうしても話がしたくて。

 それに、こんなにすごい話になるなんて思わなくて。

 本当にすみません』


 聡は頭を下げたままでいた。

 すると、アンリードが聡の胸元に掴みかかり、


「ナイフって、最初からリンを脅すつもりで!」

 それを、ヘイクワースが横から止めに入った。


『違います。偶然なんです。俺、趣味で……』


「へえ、趣味でナイフを持って歩いてるのか? 

 お前、危ない奴か!」


『……違います。

 俺、木工細工してて、それで。

 でも、まさかあんな使い方するなんて。俺も自分でびっくりしたんです』


「へえ、それを信じろと?

 俺達に嘘をつこうって言うのか!」


 ヘイクワースにより無理矢理引き離されたアンリードは、まだ収まりがつかない。

 食って掛かろうとすると、


「アン! 落ち着け。

 話が出来ないだろう?」


 ヘイクワースが間に入り、


「学生が寄ってたかって、リン一人をナイフで脅したんだな?」


『違う。

 そんな訳じゃ、ただ、話がしたかっただけで』


「きれいごとはいい。

 話がしたいだけならちゃんと予約を取ればいい。

 なのに、こんな陰でコソコソするなんて、何か他にあるとしか思えないだろう? 

 なんでこんな卑怯な手段……」


『俺達は会いたいって、何回も言った。

 でも、全然相手にしてくれなかった。

 だから、こんな風に、ずるいと思ったけどこれしか方法なくて。

 ……仕方なく』


「なにが仕方なくだ。いい加減にしろ!

 俺達が何しに来てると思ってる? 

 お前らに会いになんて来てないんだぞ。仕事をしに来てるんだ!」


 アンリードが、まだ興奮したままで言うと、


『ごめんなさい。悪気はなかったんです。

 本当に、話がしたかっただけで、別にスパイしようなんて、絶対にしてません』


「当たり前だ! 

 リンがそんなことに手を出すはずないだろう。

 リンはそういう、ずるいことが一番嫌いなんだ。

 だから、どんな所だろうが、ここにいるんだからな!」


『……どんな所なんですか? 

 IIMCって?』


「!? 何が? 

 何が聞きたい。

 そんなこと言うと思っているのか? 

 俺達を馬鹿にするな」


『そうですよね? 

 でも、俺達そういう所、……あの、そういうITっていうか。

 そういう所で仕事したいって思ってるし、

 だけど、そういう情報ってなかなか入って来ないし、知りたいなって』


「まさか、……それを聞きたくて、リンを、それに俺達に近づいたのか? 

 残念だな? 

 そういうのは、俺達に聞いても無駄だ。自分で探すんだな? 

 もういい、聞きたいことはない」


 そう言うと、ドアが開けられるようにしていると、


『すみませんでした。

 あの……リンさん、どうなるんでしょうか? 

 俺達は?』


「…………」


 アンリードは全く相手にしていなかった。

 すると、ヘイクワースは、


「さあな? 

 君たちのことなんて知らない。

 それに、君たちにリンを心配する権利はない。 

 君たちがいなかったら、こんな事態にはならなかったんだ。

 もう、俺達の前に現れないでくれ」


 冷たくそう言っただけだった。


「ヘイク、悪かった。

 こんなことに巻き込んで。本当に悪い。

 どんな処分になるか、……すまない」


 アンリードは、小さい声でそう言うと、


「気にするな、俺も同じだ。

 こいつらには聞きたかったんだから……。

 それにリンの方が重いだろうし」


 ヘイクワースはそう言いながら、ドアを開けた。

 すると、同時にポーリーとマクレンが飛び込んできた。


「アン! ヘイク! 何をしたか分かってるのか?

 ただで済むと思うなよ! 

 お前達もさっさと出ろ!」


 学生達を部屋から追い出し、アンリードとヘイクワースを別々の部屋に移し、鍵をかけた。


 アンリード達が部屋にこもっている間の部屋の様子を、

 設置していたカメラで映像と音声を使って確認していた。


 二人が、何をしようとしていたのかは、それを見れば判明した。

 少なくとも、自分達のためではなく、リンを気遣ってだと。


 しかし、方法が間違っていた。


 規則違反を犯して、制止を振り切ってまで、していい理由はない。


 だから、二人の監視はこれ以上ないほどまで強化されていた。



 そして、これにはまだ続きがある。

 リンのこれからを、大きく左右する事態が。


 学生たちとの関わりはここまでです。あとは身内というか内輪の話になります。

 次回は、リンの行動巻き起こす騒動について書いていきます。

 よろしくお願いします。

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