第一章 22
19
リンと別れて部屋を出たアンリードとヘイクワースは、
そのまま自分達の部屋に入らなかった。
ボディガードのジェインと共に、自動販売機のあるエレベーターホールに向かった。
「ジュースが飲みたい」
そう言うと、何の疑いもなく許可をくれた。
“ガチャッ”
ジュースの取り出し口から取り上げたアンリードは、
「ほらよ。おごってやるよ。ヘイク」
「ありがとう。でも、これは借りじゃないからな」
「分かってるよ」
「……でも、リンどうなるんだろうな?」
二人が話していると、エレベーターのドアが開いて、数人が降りてきた。
「えっ、なんで。このフロア貸切だろ? なんで(関係ない)人がいるんだよ」
ヘイクワースがふと漏らし、アンリードも不思議そうにその人だかりを見た。
そのうち数人が、見覚えのある、あの学生だった。
この緊急事態に、ジェインは慌てて、
「アン、ヘイク。部屋に入ってろ! 早く」
そう言ったかと思うと、学生達に向かって、
「お前達、なんでここにいる。帰れ!」
ジェインは焦ってでもいるのか、日本人に英語で命令している。
「ジェイン、ちょっと待てよ。
ジェイン、それに英語じゃ伝わらないだろ? ジェイン落ち着けよ」
ジェインは、アンリードに指摘されて、
『お前達、なんでここにいる。帰れ! なんでここが分かった?』
ジェインは、確実に学生達を追い詰めている。
「ジェイン、いいじゃないか、ここに来たって、何か用があるんだろ。
聞いてやれよ。ジェイン!」
その騒ぎを聞きつけて、ポーリーが駆け付けた。
二人を部屋の方に押し戻そうとしている。
「何をしてるの! 二人は部屋に行きなさい。早く!」
「ポーリー。ちょっと待ってくれよ。
俺達あの学生と話がしたい。
なんでここに来たのかも。ポーリー! ちょっとでいいから」
ポーリーは二人と、ジェインは学生達をそれぞれ反対側に押し合っている。
『あの、リンさんのことで、お願いがあって来ました。
もう一度リンさんに会わせて下さい』
学生達の方から、ジェインに話しかけて来た。
「リンに、もう一度?
そんなこと出来るわけないだろ!」
ジェインは、また英語で言ってしまい、それに気づいて、同じ内容を日本語で言い直した。
「もう一回って、なんだよ。リンに会ったのかよ。
えっ、どうなんだよ!」
「アン! 落ち着け。
英語で言っても伝わらない。あいつら日本人だ」
ヘイクワースは、この状況で妙に平静だった。
それを聞いていたのか、英語ができる弥生が、
「リンさんに、さっき会いました。
でも、もう少し話したくてお願いします。話をさせて下さい」
「リンに会ったって。しかも、さっきだと?」
「はい。その後色々考えて、それで、もう一度会わせて下さい」
『お願いします。会わせて下さい』
アンリードは、学生達に疑いを持った。
これは何かある。
しかも、リンがあそこまで追い込まれた原因が、少なくともこの学生達が関わっていると。
「ジェイン。こいつら、リンの今に関係あるんだな。そうだろう?
だったら、会わせてやれよ。
そうすりゃ、自分達がなんて愚かなことをしたか、はっきりと分かるぜ。
どんなに、馬鹿なことしたって」
『えっ? 馬鹿なことって。リンさん、どうかしたんですか?』
弥生は、はっきりと混乱している。
さっきから、英語で話しかけたら返って来た言葉に、あきらかに戸惑っていた。
『弥生、どうしたんだよ。リンさん、どうかしたのか?
あいつ、今なんて言ったんだ! おい、弥生!』
学生達は、弥生に対して、執拗に聞いた。
すると、ジェインは、
『会わせない。いいから帰れ! いいな』
『……でも、……』
「なぜ君達がここに居る?
検討すると言ったが、今すぐとは言っていない」
それはマクレンがここでの騒ぎを報告し、側まで来ていたレイミアンの声だった。
『でも、会わせる気なんてないでしょう?
分かってますよ。
どうせ俺達がうごいた時にはすでにどこかに行った後だって、
そう思ってるんだろうってことくらい』
明らかに図星だ。
それにレイミアンも呆れながらも、
「いいだろう。会わせてやろう。
ただし、私達が同席した上で、リンの体には近づかない、と約束するならだ!」
いい案を思いついた。
もし、リンと会って何か言ったとしたら、それはリンが何かをした証拠になる。
それを確認しようと思った。
「レイミアン。……いいんですか?
そんなことして、規定違反ですよ。部外者と会わせるなんて」
「いいよ。どうせ、もう会ってる。
だったらそれがどういう結果を招くか、彼らも知りたいだろうからな。
連れて来い。
アンリードとヘイクワースは部屋に入ってろ! ポーリ―頼む」
「わかりました。アンリード、ヘイクワース、行きましょう」
「……でも、俺達も、……」
「アン、行こう。今、俺達はいない方がいいと思う」
ヘイクワースにそう言われ、アンリードも、従った。
しぶしぶだが。




