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白雪様と二人暮らし  作者:
第一章 雪の中で出会った温もり

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2/24

2話 雪の寝床で芽生えた光

 新年の朝は、いつもより少し遅く起きた。

 布団の中で目を覚ました瞬間、家の中の静けさが胸をぎゅっと締めつけてくる。


 誰も「おはよう、綾」って優しく声をかけてくれない。

 キッチンから漂ってくるはずの、母さんの味噌汁の温かい香りも、兄の眠そうなあくびの音も、妹の元気な足音も……何一つない。


 どれだけ時間がたっても癒されることはないし、慣れもしなかった。

 ただ、冷たい空気と、時計の秒針の音だけが耳に残るだけだった。


 体が重くて、起き上がるのも億劫だったけど、このまま布団に沈んでいたら、きっと二度と動けなくなる気がして、私はゆっくりと体を起こした。


 だから、外に出た。

 家にいると、心が潰されそうになるから。

 少しでも、外の空気に触れたくて。大須商店街は、元旦の朝から初詣の人で賑わっていた。


 アーケードの下を歩くと、赤い提灯が連なって、柔らかい光を落としている。

 人ごみの中を、ゆっくりと進む。

 でも、足を止めるたび、昔の記憶が次々と甦ってきて、胸が痛くなった。


 妹が私の手をぎゅっと引いて、お店のウィンドウを覗き込んで興奮した顔。

 兄が面白半分で変な帽子をかぶって、わざと変なポーズを取ってみんなを笑わせてくれたこと。

 母さんが優しく私の髪を直しながら、「綾、ちゃんと前見て歩きなさい」って微笑んでくれたこと。

 父さんがスマホを構えて、「はい、みんなこっち向いてー!」って、家族みんなをフレームに収めようとしていたこと。


 あの頃の商店街は、もっと明るくて、もっと温かかった。

 今は、ただの人ごみにしか感じない。

 周りの家族連れが笑い合ってるのを見るだけで、涙がにじみそうになる。

 私は白くなった髪をフードで隠して、下を向いて歩いた。


 元旦の商店街は、普段より少し静かで、でも参拝に向かう人たちがゆったりと行き交っている。

 大須の賑わいを抜けると、萬松寺の大きな建物が視界に入ってきた。

 白龍館のモニュメントが、朝の柔らかい光に照らされて、静かに輝いている。

 屋上の鐘楼から、遠くに鐘の音が響いてくる。


 ゴーン……ゴーン……


 その低い音が、心の奥まで染み込んで、

 一瞬だけ、凍りついていた何かが、少し溶けたような気がした。

 でも、まだ、胸の痛みは消えない。

 私はただ、立ち止まって、その鐘の音を聞いていた。

 新年の始まりなのに、私の世界はまだ、去年の夏で止まったままみたい。


 その後、私はおみくじを引いた。

 赤い筒をゆっくり振って、中から一本の棒が出てくるのを待つ。

 巫女さんに渡すと、彼女は優しい笑顔で渡してくれた。


 そこには「大吉」と墨で書かれていた。


 運勢の欄には、願い事・学業・恋愛・健康……どれも上々。

 末吉とか、凶だったら、もっと楽だったかもしれない。

「やっぱりね」って、諦めがついたのに。


 でも大吉。

 こんなに明るい文字を見せられても、心に何も響かない。

 私の状態で大吉とはなかなか皮肉が効いてるのかなって思った。

 だけどどうでもよかった。

 だって、これで全部終わると思ったから。

 最後に、家族との思い出の場所にだけ、ちゃんと挨拶をしたかっただけ。

 寺を出て、大須商店街を出る。

 足音が、妙に大きく響く。

 

 名古屋駅へ向かう道中、街の喧騒が遠く感じた。

 人の笑い声も、車のクラクションも、全部、ガラス越しに聞こえるみたいにぼんやりして。

 高速バスのチケット売り場で、新穂高行きを買うとき、手が震えていた。


 寺を出て、名古屋駅へと向かった。

 窓口でチケットを買うとき、指先が微かに震えていたけれど、駅員は忙しそうに視線を逸らした。


 誰も、私の異変になんて気づかない。

 新穂高行きの高速バスに乗り込み、窓際の席に深く腰を下ろす。

 重く低いエンジンの振動がシートを通じて伝わってきて、それがまるで、私の止まりたがっている心臓を無理やり動かしているようで不快だった。


 ロープウェイを二つ乗り継いで、西穂高口駅に降り立った頃には、陽がわずかに傾き始めていた。

 標高二千メートルを超える山の空気は、ナイフのように鋭く、肺の奥まで突き刺さる。

 でも、それが心地よかった。


 何も感じたくない、何も考えたくない私の心を、この冷気だけが優しく麻痺させてくれる気がした。

 防寒装備は、完璧だった。

 厚手のダウンジャケットの下にセーターを重ね、スキーウェアの内側にはヒートテックを二枚。

 足元は防水の登山ブーツで固め、帽子、マフラー、手袋で、肌の露出を一切なくした。


 どこからどう見ても、ただの熱心な冬山ハイカーにしか見えないはずだ。

 これが、私の「死装束」だなんて、誰も思わないだろう。

 この重い装備は、山を登るためのものじゃない。

 誰にも邪魔されず、誰にも見つからない場所へたどり着くための、最後の手掛かり。

 誰も、私がここに来た本当の理由なんて、知らない。


 山頂駅に着いた瞬間、視界のすべてが深い白に染まった。

 ロープウェイの扉が開くと、ナイフのような冷気が一気に流れ込み、吐き出した息が瞬時に白く凍りつく。


 駅の外、千石園地の入り口に立つ。

 散策道へ一歩踏み出すと、除雪された雪が両脇で高い壁となり、空を狭く切り取っていた。

 最初は遠くで観光客の話し声が響いていたけれど、それもすぐに雪に吸い込まれるように消えていった。

 振り返っても、もう誰もいない。


 私は迷わず、整備された道から一本外れた、細い脇道へと足を踏み入れた。

 誰も来ない場所へ。

 誰も、私の最期を見届ける必要なんてない。


 少し進むと、あたりは音を失った純白の世界になった。

 時折、木々の枝に積もった雪が、風に揺れてさらさらと零れ落ちる。

 その光景は、恐ろしいほどに静かで、白くて、きれいだった。


 まるで、世界が私を優しく包み込もうとしているみたいに。

 風が粉雪を舞い上げて、私の銀色の髪に絡みつく。

 白い髪が雪と混じり合い、どれが自分の髪で、どれが雪なのか、もう判別すらつかなかった。

 私も、この髪のように真っ白になればいいのに。

 心の底から、そう願った。


 家族を失った痛みも、大人たちの卑しすぎる悪意も、すべてを真っ白に塗りつぶして、消してしまいたかった。

 さらに、深い場所へと足を進める。

 木々が混み合い、空を覆い、下界の気配が完全に遮断された場所で、私は足を止めた。


 ここなら、もう誰も来ない。

 冷たい雪の上に、私はゆっくりと身体を預けた。


 私は手袋を剥ぎ取り、素手で雪を掘り始めた。

 両手で、必死に。

 指先は瞬く間に赤く腫れ、感覚を失っていったけれど、構わず掘り続けた。


 自分一人を収めるだけの、浅い、冷たい窪み。

 降り積もったばかりの雪は柔らかく、驚くほど簡単に、私を受け入れる準備を整えていく。

 十分だ。そう思ったところで、手を止めた。


 荒い呼気が、目の前で白い渦を巻いては消えていく。

 そして、一枚、また一枚。


 私は服を脱ぎ捨てていった。

 まず、重いダウンジャケットを脱いで、雪の上に放り出す。

 

 次に、厚手のセーター。

 編み目の隙間に冷気が触れた瞬間、ニットの繊維が白く凍りつくのが見えた。


 シャツを脱ぎ、スカートを脱ぎ、タイツを剥がし……最後には、下着もすべて。

 それはまるで、人生のしがらみを一つずつ脱ぎ捨てる儀式のようだった。


 家族との痛ましい思い出も、背負いきれない保険金の重さも、学校に満ちていた冷たい視線も。

 全部、この脱け殻と一緒にここに置いていけるなら。

 生まれたままの姿になった瞬間、

 全身を、何万本もの針で刺すような激痛が襲った。


 でも、痛みはすぐに遠のいていった。

 むしろ、重い鎖から解き放たれたような、不思議な全能感に満たされていく。

 雪のように白い肌。風に舞う銀色の髪。

 私はもう、あの泥濘(ぬかるみ)のような世界の誰ともつながっていない。

 ただの、雪の一片になるだけ。


 自ら掘った雪の窪みに、ゆっくりと身を横たえた。

 ふかふかとした雪が背中を冷たく受け止め、私の体温を、命を、一滴ずつ吸い取っていく。

 最初は刺すような激痛が全身を襲い、皮膚は粟立ち、吐き出した息が瞬時に白く凍りついた。

 けれど、寒さが骨の奥まで深く染み渡るにつれて、その感覚さえ、どこか懐かしい毛布に包まれているような安らぎに変わっていく。


 意識が薄く遠のいで、あの日から止まっていた時間が、ゆっくりと動き出す。

 兄のからかうような笑い声、妹の甘えた声、お母さんの温かい手のひら、お父さんの誇らしげな優しい目。

 もうすぐ会えるよね。

 全部、終わるんだ。


 心地よい闇を受け入れ、重い(まぶた)を閉じようとしたその時だった。

 なぜか、どこか温かいものに包まれている気がした。

 雪の冷たさが体を蝕んでいるはずなのに、背中から、胸から、じんわりと広がる温もり。

 まるで、誰かが優しく抱きしめてくれているみたいで……ぼんやりと、その温もりの方向に視線を向けた。


 そこに、少女がいた。

 雪の中に、ぽつんと立っている。

 見た目は小学生くらいかな。


 深い藍色の生地に、淡い銀の刺繍が施された古風な着物。その裾は雪に触れているはずなのに、やはり濡れた気配がない。


 長く伸びた銀色の髪は、風に揺れるたび雪そのもののように景色へ溶け込んでいく。

 溶けた陽光を閉じ込めたような金色の瞳は、人間とは思えないほど完璧で、それでいて、どこまでも優しかった。


「娘よ、なにゆえ……」


 古めかしく柔らかな調べが、静寂を震わせて耳に届く。

 少女は少し首を傾げ、私の顔を覗き込むように見つめていたが、やがて、ふっと小さく溜息をついて首を振った。


「……ちがったな。なんで、命を粗末にする?」


 言葉遣いが急に変わった。

 少し砕けて、けれどどこか親しげで。ずっと昔に聞いた、懐かしい誰かの声に似ている気がした。

 呆然と見つめる私の元へ、少女は雪を踏む音もなく一歩近づいてくる。


「なんで死のうとするの?」


 声が、微かに震えていた。

 金色の瞳が、波紋を描くように揺れている。

 まるで、私の内側にある痛みを、そのまま鏡のように映し出しているみたいに。


「……関係、ないじゃん。もう、いいの」


 掠れた声で、ようやくそれだけを返した。

 凍りついた喉は、言葉を発するだけで切り裂かれるように痛む。

 けれど少女は首を振り、私の傍らにゆっくりと腰を下ろした。


「お前がよくても、私が嫌じゃ」


 初対面なのに、あまりに身勝手な言い分だった。

 でも、不思議と嫌な気はしなかった。

 彼女の周囲だけが、まるで春の陽だまりのような空気に満ちていたから。

 雪が降り(しき)っているはずなのに、風はどこまでも優しく温かい。

 かすかに、花の香りさえ漂ってくる気がした。


「だって……」


 言葉が続かない。言い訳なんて、したくなかった。

 家族のいない世界で、誰も信じてくれない世界で、生きていく意味なんて、もうどこにも見つからない。


 少女はそっと、私の額に手を当てた。

 極寒の雪の中で、その手のひらだけが、信じられないほど温かい。

 指先からじんわりと熱が伝わり、心の奥底で固く凍りついていた部分を、少しずつ、丁寧に溶かしていく。


「もう、いいの……」


 声が震え、熱い涙が頬を伝った。

 その涙はすぐに凍りつくこともなく、温かさを保ったまま雪に落ちて、小さな穴を開けた。

 少女は、ただ静かに私を見つめ続けている。

 金色の瞳に映るのは、白髪の私。震える私。壊れかけた私。

 それでも、少女は慈しむように、優しく微笑んだ。


 次の瞬間、少女が泣き始めた。ぽろぽろと、宝石みたいに透明でキラキラした涙が頬を伝う。

 雪の上に落ちるたび、ちいさな光の粒になって、ふっと消えた。

 本当に、美しかった。

 そんな涙を見たら、胸の奥がぎゅっと締めつけられて、私まで泣きそうになった。


「親兄弟が亡くなったというのに、そんなひどいことを言う輩がいるとは……一緒に暮らそう」


 少女は泣きながら、でもどこか優しい笑顔でそう言った。

 私は何も言ってないのに、どうして知ってるの? と言いたかった。

 家族のこと、保険金の噂、学校の冷たい視線……全部、全部、知ってるみたいで。


 その瞬間、少女の頭にふわりと白い狐の耳が生えた。

 背中から、ふさふさの大きな尻尾が現れて、雪を軽く払うように揺れる。

 耳がぴくぴく動いて、まるで私の心臓の音を聞いているみたい。


「……あなた、人じゃないの?」


 私は思わず口に出した。

 死のうとしてたのに、こんなこと気にする自分がおかしくて、少し笑いそうになった。

 涙で濡れた顔が、くしゃっと歪む。


「死のうとしてた割には、そういうところは気にするんだな」


 少女は涙を指で拭いながら、くすりと小さく笑った。

 金色の瞳が、優しく細くなる。


「自己紹介が遅れたな、綾」


「なんで……私の名前を?」


「去年、私の分体を助けてもらったからな」


「……何の話?」


 少女は少し困ったように、でも優しく微笑んだ。


「去年、白き狐を助けなかったか?」


「あ……ああああ!」


 一瞬で、記憶が閃いた。

 あの夏の山。あの藪の奥。

 血で赤く染まった純白の毛。

 罠に挟まれた小さな足。

 赤い瞳が、痛みと信頼で私を見つめてきた、あの瞬間。


「うん、罠にかかってて、かわいそうだから助けて、病院に連れてって治療した……」


「その狐のお礼に来た」


「は?」


 私は呆然として、ぽかんと口を開けたまま固まった。

 少女、いや、もう狐の姿を現した彼女は、ゆっくりと息を吐いて、

 古風な口調に戻った。


「我の名前は|白雪《ルビ(はくせつ)吒枳尼(だきに)真天(しんてん)じゃ。お主にもわかるように言うのなら、白雪稲荷とも言われてるようじゃな」


「えっと……狐が化かしに来たの?」


 死の間際に、こんなかわいい子が大須の萬松寺に祀られてるお稲荷さんだっけ?

 なんて、頭の片隅でぼんやり思って。

 少し笑ってしまう自分がいた。


「違うわ」

 

 ぱしり、と軽く額をはたかれた。

 痛くなくて、でも温かかった。

 指先の感触が、雪の冷たさを忘れさせてくれるみたいに。

 少女――白雪様は、涙の跡が残る頬を少し赤らめて、

 でもはっきりとした声で続けた。


 少女は、静かに私の涙を拭うように、金色の瞳でじっと見つめていた。

 尻尾がゆっくりと揺れて、雪を優しく払う音が、静かな山に響く。


「我は、尾張国(おわりこく)大須(おおす)萬松寺(ばんしょうじ)(まつ)られておる白雪吒枳尼真天の別け身。この姿で、お前に恩を返しに来たのじゃ」


 古風な言葉が、柔らかく耳に届いた。

 でも、私の心はもう、限界だった。


「恩なら……死なせて。もう生きてても、意味がないから、記憶を呼んだようだから分かるでしょ」


 そう呟いた途端、胸の奥で何かがぷつんと切れた。

 糸が切れた人形みたいに、体から力が抜けて、涙が溢れ出した。

 止まらなくなった。


 声を上げて、嗚咽を漏らして、私は少女にすがりついた。

 裸のまま、雪の中で。

 体が震えて、冷たい雪が肌に刺さるのに、そんなのどうでもよかった。


 涙が頬を伝って、鼻水まで出て、みっともなくて、恥ずかしくて、それでも止まらなかった。

 少女は、優しく私の頭を抱きしめてくれた。

 背中を、ゆっくり、ゆっくり撫でてくれる。

 赤子をあやす母親のように、静かに、ずっと。

 温かい手が、凍りついた私の体を包み込んで、じんわりと熱を伝えてくる。


「よしよし。もう大丈夫だよ。私は、ここにいるよ」


 耳元で、そんな言葉を囁きながら。

 少女の着物の袖が、私の頬に触れて、柔らかくて、優しくて……私はただ、泣き続けた。

 泣き疲れて、声が枯れて、嗚咽が小さくなって、ようやく体が少し落ち着いた頃。

 やがて、自分が全裸のまま抱きついていたことに気づいた。

 我に返り、慌てて体を離すと、雪の中に散らばった服を拾い集め始める。

 

「裸で死のうとしてた割になぜ恥ずかしがる?」


 その言葉に、私は顔を真っ赤にして、慌てて雪に散らばった服を抱きしめた。

 指先がまだ震えて、セーターの袖がうまく通らない。


「……死んだ後のことなんて、考えてなかったから」


 掠れた声で、ぽつりと答えた。

 本当だ。

 死ぬことしか頭になくて、その先のことなんて……想像もしてなかった。

 死んだら、もう恥ずかしいとか、そんな感情すら残らないと思ってたのに。


 今、こうして生きてる自分が、急に恥ずかしくて、情けなくて、でもどこかホッとしてる自分がいて……涙がまた、ぽろりと落ちた。少女はくすくすと笑った。


 雪の中で、その笑顔があまりにきれいで、まるで雪の結晶が溶けて光になったみたい。

 金色の瞳が優しく細まって、狐の耳がぴくぴくと動く。

 私はまた泣きそうになった。

 でも、今度は違う涙だった。

 

 痛みだけの涙じゃなくて、温かくて、優しくて、少しだけ希望みたいなものが混じった、

 そんな涙。少女はゆっくりと、私の前にしゃがみ込んで、

 私の目を見つめて、静かに言った。


「綾、私と一緒に家族として暮らそう」


 その金色の瞳に、嘘はないとわかった。

 嘘なんて、許されないくらい、真っ直ぐで、温かくて、優しかった。


 まるで、去年の夏に助けたあの小さな白い狐が、今、私の前に立って、ちゃんと「ありがとう」と「一緒にいてあげる」を言ってくれているみたいで。私は、ゆっくりとうなずいた。


 涙が止まらなかったけど、もう、冷たくなかった。

 胸の奥が、じんわりと温かくなって、凍りついていた何かが、

 ぱきん、と小さな音を立てて溶け始めた気がした。少女の手を取った。


 温かかった。

 あの狐を抱いたときと同じ、信じられないほど温かくて、柔らかくて……生きてる実感が、指先から全身に広がっていく。


 そうして、私、紫微綾と、白雪吒枳尼真天の別け身の女の子、白雪様との、奇妙で、でも確実に温かな同居生活が、静かに、雪の降る山の中で、始まった。

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