Offstage その想いを止めるもの
「というわけです。事実はセラの口から聞くべきなんでしょうけど、状況が状況だけにそんなことを言ってられませんし無理ですから」
学院に戻ったオレは、セラがシュベルトクラフトの第二皇女かもしれないことと、家族の理由ではなく何かしらの思惑により自分から出て行かされたかもしれないことをレアと水精霊の祝福のメンバーに話した。
あくまで推測に過ぎないという前置きはしてあるが、全員言葉を無くしている。
そのまま、移動しながら話を続ける。
「フレイアさんと帝国に行ってくるつもりですけど、誰でもとは行きません。両殿下とも話しましたが、事は国家間の問題にされる可能性もあります」
「セラちゃんが本当に皇族なら可能性は高いね」
「あるいは。もうされているか」
姉さんが同意し、ティアさんが継ぐ。
まだ丸二日くらいか。移動に馬車を使ったとして、おそらく既に国境は越えているだろうな。領地や私邸に連れ込んでもどうにもならないだろうし、行き先は帝都だろうか。
「帝国皇族が絡んでくる問題ですから、人選も考えなければいけません。貴族じゃないからいいってわけでもないでしょうけど、ユメさんとミアさんは他国の貴族です。帝国に乗り込んで暴れまわるのは避けた方がいいでしょうね。暴れ回るかもしれないオレのそばにいるのも」
「……はい。もどかしいですが」
「ウン。仕方ない面もあるケドネ」
二人は本当に歯がゆそうな顔をしている。だからって、ステルラやシムラクルムと天秤にかけることはできないだろう。
それは、あと一人にも言える。
「レア」
「……はい」
言いたいことは伝わっているはずだが、口にするべきなのだろうか。ここですべてを詳らかにしろと言うつもりはないが。
「……そういう理由であれば、わたしも行くことはできません。今は」
何を置いても行くと言わない辺り、レアには貴族としての分別と覚悟がある。感情に任せて動くことを自制する理性があるのは美徳だ。
いや、懇親会の時はそこそこ暴走してたか。でもあれはお遊びの場だったしな。
「わたしは行くよ。構わないよね」
「ワタシも。ルートゥレアとユメとレリミアの分までやる」
姉さんとティアさんは乗り気だ。
正直な所、身分がどうとかで問題がなくなるわけでもないんだろうけどな。意思疎通の取れる仲間が多いのはありがたい。
待ち合わせ場所につくと、フレイアとアカネちゃんはとっくに待っていたようだった。
「ユリフィアスくん。待ってたよ」
「事情は道すがら。私もできるだけ力になります」
「アカネさん。わざわざすみません」
と言っても、アカネちゃんに帝国についてきてもらうわけではない。
「アカネさんは王都での対応をお願いしたいんですが」
「っ、ええ……いきなり出鼻を挫かれた感じなんですが」
獣人化した姿を見せてもらっているからか、しょんぼりする耳と尻尾が見えた気がした。罪悪感が。
「アカネさんはギルド職員ですし、スタンピードの時とは問題が違いますよ。それに、残る側にも頼みたいことはあります。急用があったとしても言伝をしていく余裕くらいはあったでしょうし、荒事ならオレ達の力を借りた……と思いたいですから。脅迫されるような要因があったのかもしれません」
「何か……例えば、聖女様がいらっしゃった時のような」
ユメさんがかつてあった“事件”を口にする。
魔人か。アレはありえないとは思うが、油断するのもダメかもな。
「王都というか、王国側の対策が欲しい面もあります。混乱の原因を作る魔道具くらいは仕掛けられていると思ったほうがいいと思います」
さすがに、どこかの世界の作り話のように「爆弾を仕掛けたから大人しくついてこい」なんてのはないだろう。その物語だって、本当に爆発させたら問題が変化してくる。
「単に国家間紛争の火種になると脅された程度かもしれませんけどね。あとは、急に思い立って家出か何かをしてるだけでひょっこり帰ってくる可能性ですか。セラならありえるかも」
「それはどうだろ……って思うほど私もセラちゃんのことを知ってるわけじゃないか。師匠失格かな?」
「でもソレだったら一番平和でいいよネー」
全員で苦笑する。みんながそんな間の抜けた結果で終わるとは思っていないだろうが、気は楽になったと思いたい。
「レア。その時は頼んだからな」
「……、はい」
罪悪感や無念は感じられる。それでも、目の奥に覚悟の光が見えた気はする。
別に、セラを大事に思ってないって言ってるわけでも感じてるわけでもない。言わなくても伝わるとは思うが、言わないと駄目なこともあるのかな。
「レア」
「……ユーリくん」
名前を呼んで、俯いていた顔を上げさせる。視線が合ったところで、頷く。
「任せろ」
「はい。お願いします」
涙を振り切るような覚悟の顔。想いは受け取った。
さあ、帝国へ乗り込むか。




