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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第三十七章 鍛冶師とシュベルトクラフトの怪

「それじゃあ、行ってきますね」

「はい……いってらっしゃい……お気をつけて」


 見送ってくれるのはリーズさんだけ。レヴさんはエルさんを探しに行っていますからね。

 いつものことながら、外に出るとこの家の周囲だけ環境が違っているのがよくわかります。最終的にここに腰を落ち着けて一年くらいですが、ほぼ常春ですから。


「それでもまだ農業をするには不向きでしょうか……っ、と」


 リーズさんの作った魔道具が作り出した領域を出ると、火山特有の熱気が襲ってきます。


「涼風球、起動」


 起動キーを唱えると、魔道具から出た涼しい風が周囲を流れ始めました。名前通りですね。

 十年以上前、こういう魔道具もなしに耐熱装備だけで火口付近に突っ込んだユーリさんはやっぱりどうかしてるとしか思えません。そうでなければレヴさんとは出会えなかったわけですけど。

 しばらく歩いて、それからまずは軽く駆け足。速度を上げた後、身体強化して地面を強く蹴ります。涼風球が空気抵抗の低減もしてくれるので、すぐに最高速度まで加速。防壁としての効果もあるので特に何を考える必要もありません。

 火山帯を抜け、荒れ地を抜け、森林地帯を抜け、元々住んでいた家へ。何度も走った道ですから迷うことなく辿り着けます。

 到着。こういう機会も含めて定期的に手入れはしに来ていますが、リーズさんの作った防衛と保存の魔道具が無ければ数日で荒らされているでしょうね。

 と言っても、一番大事な炉は移動済みなんですけど。

 肩掛けカバンを下ろして、中から剣や包丁、鍋、リーズさん謹製の魔道具諸々を取り出します。剣はカゴに、包丁と鍋は大袋に、魔道具はポーチに詰め替えて、露店のセットを持って。

 さあ、市場に向かいましょうか。


/


 結局、いつもどおり一時間もせずに売れてしまうんですけどね。ありがたいことなんですけど、色々思うところはあります。もうちょっと悩んだほうがとか、そんなに定期的に買いに来るほど雑に扱うのかとか。私もリーズさんも質が悪いものは作りませんし取り扱わないのに。さすがに性能は抑えますけど。

 それにしても、買いそびれた人が家にまで押しかけてくるので転居せざるを得なかったのは不幸でしたね。リーズさんのこともありますからいつかは必要になったのかもしれませんけど、食料品や日用品の買い出しが面倒で。ここは早急になんとかしたいですね。と言っても、居住地を変えない限りはこうやって街とを往復するしかないわけですが。

 いっそのことハーシュエス家の近くに移るというのもありでしょうか、なんて。無いですかね。

 益体無い考え事は投げ捨てて、露店セットを抱えつつ市場巡り。まずは当面の食料確保です。


「ネレちゃん。来ると思って用意しといたよ」

「ありがとうございます、女将さん」

「こっちも」

「おじさんもありがとうございます」

「いやいや。上客に気を使うのは当然だろ?」

「そうそう。ウチもネレちゃんの包丁には助けられてるからな」


 そう言っていただけると助かるのですが……「ネレちゃん」は。そんな歳でもいえやめましょうこれを追求するのは。

 木箱を抱えあげて、特にふらつくこともなく。身体強化と魔力探知のおかげですが、街のみんなにとっても見慣れた光景になってるらしいです。もう十年以上やってますからね。いつもはレヴさんが手伝ってくれたり、たまにリーズさんも同行してくれたりしますけど。

 のんびりか忙しないかはわかりませんが、お昼前には帰宅。さて、まずは買ってきたものを商品を入れてきた空間拡張付与のカバンに詰め込みましょうか。

 破山剣を飲み込んでしまったように、特に整理することを考える必要もないのは楽すぎます。数分とかからず終了。

 不要になった露店セットを片付け、木箱を外に出して。あとは、リーズさんに頼まれた魔道具の材料でしょうか。行き先は……あ。

 ザザ、と砂の上を滑ったような音がしました。

 誰かから連絡ですね。


「はい」

『ネレ。ひょっとして家にいるか? 実家の方の』


 って、ユーリさん。これはちょっと予想外です。


「ええ。よくわかりましたね。レヴさんがいた土地に引っ越したので、今は家というか物置みたいになってますけど。今日は露店を出しに来たのでそれ用の道具を。もう片付け終わったところですけど」


 この通信具を使っている光景、傍から見ると独り言を言ってるようにしか見えず不審なので、一度家の中に。


『引っ越したのは聞いてたが、露店はまだ出してたのか。もう終わったのか?』

「いつもこんなものですよ。レヴさんが居れば食べ歩きなんかをすることもありますけど、今はエルさんを探しに行っているので」

『なるほど、それで今は一人なのか』

「はい? ユーリさん、なんでそんなこと」


 首を傾げてそう問いかけると、家の外で風の音が。探知を広げると、穏やかながら強い風の魔力反応も。

 扉の開く音がして、足音が近づいてきます。


「『あ、しまった。これじゃあ怪談みたいだな』」


 声が、二重に。まさか。



「わたしユーリさん。今あなたの後ろにいるの……なんてな」


/


 十二年です。ララさんとレヴさんの話を聞いて、通信魔道具で話してからこの日を何度も想像して、夢で見てきました。

 実のところを言えば、こういう状況は想定外ではありましたけど。そもそも、ユリフィアス・ハーシュエスとしてのユーリさんの姿を見てないですから何もかも妄想ですね。


「久しぶりだな、ネレ」

「はい。ユーリさんも御健勝のようで」


 ところでどうでしょう。私、上手く笑えているでしょうか。

 想定外であったことの驚きと、遂に訪れた瞬間への喜び。

 あ、真打がまだ打ち上がってません。計画が。

 ってあれ? 続きがないですね。それになんですかその怪訝な顔。


「久しぶり……だよな?」

「……なんの確認ですか? 通信魔道具越しに話したので、それを数えれば久しぶりとまでは言えないかもしれませんけど」


 はい。言っていて、イヤな予感と嫌な予測が。さっき考えたばかりだからですかね。


「あの、なんだ。変わってないなと」


 あ。なんでしょう。さっきまでそんな気は無かったんですが、急にララさんの気持ちがわかってしまいました。


「ユーリさん」


 ニッコリと笑いながら近付いて、服の胸元に手を伸ばします。


「……ネレ?」


 そのまま胸元に手を当てましたが、驚いた顔をしてますね。色欲封じが利いているはずなので、甘い雰囲気になるとはこれっぽっちも思ってないでしょうけど。

 手を握って胸ぐらを掴みこんで、



「歯を食いしばってください」



 ビンタ一発。バッチーン! と気持ちのいい音がしました。

 さすがにララさんみたいに全力ではやりませんけどね。死んじゃいそうになっても治せませんし。命拾いしましたねユーリさん。

 ほっぺたを真っ赤にしたまま痛みに耐えている顔を見ると、すこーしだけ罪悪感も湧かないでもないですけども。なので、胸元を軽く叩いて服の乱れを直してあげます。


「……失礼なことを言って申し訳ありませんでした。でもほんとに出会った頃から変わってないじゃないか」

「はぁ。自覚してますけどね。お母さんの血でしょうか。身長はたしかに伸びませんでしたけど」

「あ、そうか。お母さんはドワーフだったんだよな」


 ドワーフの女性は十代中盤くらいで縦方向の成長が極端にゆっくりになるか止まる傾向があるらしいですからね。私もその血を引いている影響があるんでしょう。だから街の人からも「ネレちゃん」と呼ばれ続けているわけで。

 ただ、稀に会う度にララさんの表情が無になっていたのはユーリさんには伝えたほうがいいのか伝えないほうがいいのか。私としては、美人と呼ぶことすら失礼に当たりそうな容姿になっていく彼女が羨ましくもありましたが。元からなエルさんもですけど。

 なので、密かにリーズさんとだけ同盟を組んでいたりもします。レヴさんはさほど気にしてないですからね。それはそれで羨ましいですけど。


「それで、ユーリさんはどうして帝国に? 学院の話はアカネさんから伺いましたけど、その関係で?」

「いや。パーティーメンバーの一人が拉致されてな。まあ、メンバーの一人っていうか、第二皇女の疑いが濃厚なんだが」

「は? 第二皇女って、セラディア殿下ですか?」


 ユーリさんは驚いた顔をしてますけど、こっちの方が驚きです。聖女に女皇龍に魔王女だけじゃ飽き足らず、皇女にまで手を付けているなんて!

 はい。わかっています。冗談です。ユーリさんはそんな人じゃないですね。色欲封じ関係なく。


「アカネさんから話を聞いた時、もしかしてと思わないでもなかったですけど、その通りだったとは。すごいですねユーリさんの運」

「ソウダネー」


 何故投げやり? あ、すでに自覚して通過済みですか。

 そうですよね。その辺りのことを考えないわけ無いですね。


「でも、帝国にさらわれたんですか? 一般的には帰国と言うのでは?」

「自分の意志でならな。伝言も置き手紙も無しは異常だろ。そこまで嫌われてるとは思いたくないし、オレはともかくレアにも何もないってのは」


 レアさんというのはもう一人のパーティーメンバーでしたっけ。

 なるほど、同性の友人にも伝言なしは妙ですね。それに、ユーリさんの“悪い勘”は出会った頃からよく当たりますし。


「事情はわかりました。帝国に乗り込んできたのはユーリさん一人ですか?」

「フレイアと姉さんとティアさんには手伝ってもらってる。他は国際問題になりかねない面子だからな。王都で待機中」

「なるほど」


 ユーリさんも今は王国民ですよね。転生前はそれこそ何者でもない謎の存在だったわけですけど。不安は解消されたんでしょうか。


「三人には一足先に帝都に向かってもらった。オレはもしかしてと思ってルートを変えたら魔力探知にネレの魔力っぽいのが引っかかったからさ。場所的に本人かなと」


 こうしているのは半分以上偶然ですか。狙って会いに来てくれたわけではないというところは残念ですね。

 まあ、偶然が悪いわけではないですが。たまたま市場に来る日だったというのも、なにか感じ入るものがありますし。


「私も帝都に用事があります。お手伝いしますよ」

「ありがたいが……いいのか?」

「おそらく無限色の翼《プリズムグラデーション・エール》案件ですよね、これは。戦力という面では頼りないかもしれませんけど」

「いや、心強いよ。ありがとう、ネレ」


 そう言いながらもユーリさんの中では私も保護対象側に入ってるんでしょうけどね。せっかくですから、ちょっとは成長したところを見せつけてやりましょう。


「あ、そうだネレ。これ」


 ユーリさんは、なんでもないことのように魔力結晶ペンダントを……もうちょっと何か、こう。

 いたずらにはならないですけど、少しは思い出に残るようにしてみましょうか。


「はい。ではお願いします」


 後ろ手に手を組んで、目を閉じて、顎を突き出すように。これで首にかけてくれる以外を望むのは今は無理でしょうけど。

 首筋を指が撫でるような感じがして、胸に軽い感触。終わりましたかね。

 目を開くと、目の前にユーリさんの顔。息遣いから覚悟はしてましたけど、これはなかなか。


「ありがとうございます」


 ちょっとだけ顔が熱いです。なんとなく無意識に手が魔力結晶に。風の魔力ですから温かいとかはないですけど、触れると安心するような感覚はあります。


「ユーリさん」

「ん」


 カバンの中からポーションを取り出し、ハンカチに染み込ませてユーリさんの頬を拭います。これで、叩いたことに対する謝罪とお礼と私の感情の誤魔化しということで。


「さあ、行きましょうか」

「ああ」


/


 ユーリさんに背負われて全速力で飛翔。なるほど、これが風魔法使いの力。科学知識によるものも大きいんでしょうけど。


「身体強化での移動も速いと思いましたけど、これに比べると児戯ですね」

『放射《ブラスト》を防壁で受けてブースター代わりにすれば他の属性でも加速できるが、ここまで行けるのは風だけだろうな』


 風切り音がひどいですが、交信自体は通信用魔道具で行える。ユーリさんの魔法自体も風牙がアシストしていますし、色々と考えられてますね。


『そろそろ着くな』

「ですね。ところで、私のことはどう説明しますか?」


 まだ顔を突き合わせられない人もいるでしょうから。お姉さんとティアさんですか。


『……しまった。考えてなかった』


 なんだかんだで割と抜けてますよねユーリさん。憎めないというか、隙を感じさせて微笑ましいところではありますけど。


「ならここから別行動にしましょう。通信魔道具で連絡は取れますから」

『すまないな。セラの魔質は火と熱だから、特徴はあると思う。周囲に魔法阻害が使われている可能性はあるが……』

「そういうところも探せばいいわけですね」

『そうだな。頼んだ』


 ユーリさんが速度を緩めたので、こちらも身体強化して飛び降ります。ちょっと名残惜しいですけど、いずれじっくり話す機会もあるでしょう。まだ勝負をしていい時でもないですからね。

 一応、別の門に回っておきましょうか。

 帝都に入り、探知をしつつ街中をぶらつきます。思えばこうやって街並を見ながら歩く機会はそれほどありませんね。だいたい食べ物メインのレヴさんと早く帰りたいリーズさんとでしたから。

 でも、セラディア様が幽閉されるとしたらきっと貴族街ですよね。そちらに足を踏み入れると確実に目立ちますね。先にリーズさんの用事を済ませてしまいましょうか。考えたこともありますし。


「おお、ネレちゃん。そろそろ来る頃だと思ってたよ」

「こんにちは。リストを預かってきたのでよろしくおねがいします」


 いつもお世話になっている素材屋のタリアさんにリーズさんの手書きメモを渡して、必要なものを用意してもらいます。それなりの付き合いなので、勝手知ったるという感じですね。


「たまにはリズちゃんと魔道具談義でもしたいんだけどねぇ」

「リズさんも出不精ですから」

「それ言うとあたしもだけどねぇ」


 ちなみに、リーズさんがニフォレア・ティトリーズであることは秘密なので、「リズ」という偽名のようなそうでもないような名前で通していたりします。さすがに魔族だと知られてはいないでしょう。

 さてそれでは、それとなく話を向けてみましょうか。


「最近、ものの動きとかどうです? 変なものが売れたりとかしてませんか?」

「うん? ああ、うん。戦闘職が使うような魔道具がよく出てるって話は聞くかな。そういう意味じゃネレちゃんも商売繁盛じゃ?」

「私はいつもどおりですかね」


 供給量は決めていますし、売る相手はある程度選んでいるのでなんとも。露店を出しているのもそこまで大きな街でもないですからね。


「同業者の中には戦争が起こるのかもなんて噂してるのもいるね。まあ、ダンジョンアタック程度だろうけど……これで全部かな」

「ありがとうございます」


 売り上げ分から代金を支払い。情報量を上乗せしようかと思いましたけど、やめておきましょうか。


「鍛冶師としての私にご用命はありませんか?」

「ん、申し訳ないけど無いかな。ハサミもナイフもゴキゲンだよ」

「なら良かったです」

「ホントお世話になってます」


 頭を下げられて笑われました。タリアさんに渡したものは一級品ですからね。そう簡単に壊れてもらっては困ります。


「ではまたお願いしますね」

「こちらこそ。またね」


 終始気だるい様子でしたけど、そこはいつものことなので置いておいて。

 戦闘職が使う魔道具ですか。一定の需要はあるものですけど、それが増えている。あまり単純に結びつけるのもどうかとは思いますけど、この状況下なら噂の否定はできませんね。

 ユーリさんたちはセラディア殿下を追っているでしょうから、私はこの線から当たりましょうか。

 探知。探すのは武器と魔道具。家に溢れているものですから似たような状態を探せばいいわけですね。

 武器屋と魔道具店の周辺を注視。買い占めや大量買いは起きていないようですけど、不自然な荷物の量の人はいますね。

 気付かれない様に尾行を開始。探知があるので、必要以上に距離をとっても大丈夫。

 向かう先は貴族街のようですね、やっぱり。そもそも資金力が必要ですから、考えなくてもわかることです。

 相手はそろそろ貴族街に足を踏み入れる頃でしょうか、っと、不自然な魔力反応がありますね。

 これは火に似ているけれど違う……セラディア様の手に入れたという熱ともたぶん違いますね。ということは、炎。何より腰に下げているのは耐炎剣。

 向こうもこっちに気づいたみたいです。近づいてきますね。

 凛とした立ち姿。何より目を引く真紅の髪。いえ、赤系統の髪自体はレヴさんもそうですし、紅狼族の血を引くというアカネさんもきっとそうなのでしょうけど。

 まるで立ちはだかるように眼前に立つ炎皇《フレイム・エンプレイス》様。敵視されているとまでは言えないのでしょうけど、あまり友好的ではないですね。


「はじめまして、フレイア・ワーラックスさん。お噂はかねがね」


 とりあえず、頭を下げておきましょうか。

 まさかこんな形でフレイアさんにも会うことになるなんて思いませんでしたから、こっちも表情が固かったかもしれませんし。


「え。え? あれ? 探知使ってるんじゃないかなーと思って。あれ?」


 混乱してますね。無理もないですが。


「ネレリーナ・グレイクレイです。ユーリ・クアドリの知人といえば伝わりますよね」

「ネレリーナ……ってことはえーと。ネレさん。この剣を作ってくれた人、でいいんだよね?」

「はい」


 耐炎剣。考えてみれば風牙で十分魔物の炎には耐えられるわけですから、炎魔法使いのための剣だというのは予想できましたね。


「そっか。本当にありがとうね。おかげでまた魔法剣が使えるようになったよ」


 今まで使えなかったって、炎魔法の出力ってそれほど凄いものなのですか。機会があれば見せてもらって、最適化したものを作りたいです。

 なんにせよ、今はその時ではないですね。


「本題に移りましょう。セラディア殿下を追ってきたんですよね」

「うん。私は貴族街担当だったから。ユーリ達だと年齢的に怪し……うっ」


 なんで自分で言ってダメージを受けてるんでしょうか。ふしぎですねー。うぐっ。


「ごほん。私は、魔道具と武器の流れを追ってきました」

「私は魔法阻害を探してかな。貴族の家だとたまにあったりするけどね」


 そういうものなのですか。私はその辺りは詳しくないですけど、近衛魔法士団としてはそういう知識はあるということなのでしょうかね。


「追跡要素の違う二人の結果が一致すれば、確実性は非常に高いことになりますよね」

「そうだね。それじゃあ、せーので指をさしてみるとか」

「面白いですね」


 勝負ではないですけど、なんとなくそんな気になります。


「「せーの」」


 お互いに伸ばした指。その先はぴったり一致していました。


「流石に誰の邸かまではわからないなぁ」

「ええ。聞き回るのも不審でしょうし」


 こうして話しているだけでも各家の門兵から目をつけられそうです。


「さっさとユーリさんを呼びましょうか」

「そうだね。魔力放射すればいいのかな」

「え?」

「え?」


 え?

 ああ、そうか。フレイアさんはこれのことを知らないし持ってもいないですね。


「私たちは通信用魔道具を持っていますから大丈夫ですよ」

「なにそれ欲しい! じゃなくて何それ!?」


 まるで子供のような反応ですね。意外でした。フレイアさんってこういう人だったのですか。もちろん、真面目な面もちゃんとあるのでしょうけど。

 ともかく、ユーリさんですね。


「ユーリさん。手がかりを見つけました。貴族街まで来てもらえばあとは探知で」

『ん、了解。フレイアもいるみたいだな』

「ええ、合流しました」

『……悪い。そっちに行くまでに口裏合わせを考えておいてくれないか。まだ姉さん達に説明できない』

「わかりました。私とフレイアさんが知り合いである理由でも考えておけばいいんですね」


 フレイアさんにも伝わるように言うと、通信が切れました。怪しまれないように歩いて来るつもりなのでしょうね。


「ホントに話せるんだ。いいなー。でも、知り合いの理由って……どうする?」

「簡単ですよ。共通の知人がいるんですからそのままそう言えばいいんです。私はたまたま今日この近くにいたということで」

「共通の……ああ、ユーリか。そうだね」


 今日が初対面ですけど、そこまでは言わなくていいでしょうしそれはそれで問題にはならないでしょうね。


「ユーリさんが来る前にもう少し様子を探っておきましょうか」

「だね。私達二人が同じ結論に達したなら間違いないってことで」


 魔力隠蔽を限界までかけて、二人で並んで歩き出します。

 探知してみると、色々見えてくるものもありますね。あまり褒められた行為でないとはわかっていますが。


「……それにしても、久しぶりだなぁ」

「そうなんですか?」

「うん。昔この辺に住んでてね」


 ということは、帝国の貴族だったのですか。貴族の邸宅に詳しいのはそういう理由で。

 そんな人が冒険者として名を馳せて、王国の魔法士団の隊長にまでなるなんてものすごい物語ですね。

 ……そう言うと不運からの出世話にしか聞こえないんですけど、語りたくないこともあったでしょうね、きっと。


「二人共、待たせたな」

「あはは、あんまり待ってはないよ」

「はい」


 いいところで来てくれましたね、ユーリさん。


「口裏ですが、共通の知人がいるということで大丈夫でしょう。嘘ではありませんし」

「すまないな、気を使わせて。姉さんとティアさんに隠し事をしているのも申し訳ないが」

「ま、話せないことはいくらでもあるからね」

「ええ」


 ユーリさんは申し訳なさそうな顔を崩しません。それって、たぶん私たち二人に対してもでしょうね。

 そう思ってフレイアさんを見ると、彼女も私に視線を向けていました。お互いに苦笑してしまいます。


「まあ、いつか隠さなくてもよくなるよきっと」

「どうかな。話したことを後悔する日が来るかも」

「だとしても、話された方は後悔しませんよ」


 私の言葉にフレイアさんも頷いています。ユーリさんの葛藤くらい受け入れられないと、その先には進めませんからね。


「この話はこれくらいにしましょう。あまり話し込んでいると必要以上に不審に思われるかもしれません」

「だね。割と目につく組み合わせだし」

「そうだな。それじゃあ、二人も呼ぶか」


 そう前置きしたユーリさんは、ウィンドウォールとウィンドボールを組み合わせた物を作って魔力を注ぎ始めました。なるほど、辺りに影響も視覚効果もなく探知できる人間を呼ぶ方法ですか。風魔法使いならではですね。

 さて、ユーリさんのお姉さんになれた人はどんな人なんでしょう。会うのが楽しみです。

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